中国は「日本化」するか
中国は固定資本形成のGDP比40%超という歴史上例のない「投資主導経済」を20年にわたって続けてきた(図表8)。
この投資主導経済の実態はコスト先送りによる需要創造である。投資とは会計的には支出し(=需要を創造し)、コストを資産計上によって先送りするという危険な行為である。建設された設備や構築物が有効に活用できないものであれば、不良資産の山を作り続けることになり、非常に大きなリスクを伴う。共産党主導の地方政府は、そのリスクに無頓着で、成長競争のみにこだわる投資暴走を続けてきたのだ。
2年余りでアメリカ100年分のセメントを消費したといわれるほどの天文学的投資資産の多くが、価値を生み出す健全資産とは考えられず、潜在的不良資産が積み上がっていると推測される。
固定資産投資による経済成長を続けてこられた背景には、土地の錬金術があった。地方政府が土地利用権を売り、その売却代金が地方政府の収益の四割を占めたことで、地方政府は極めて収入が潤沢になった。
そうした潤沢な資金をインフラ投資やハイテク企業への支援に向けることができた。この成長パターンは、バブルが崩壊し、地方政府による土地利用権売却収入が止まると維持できなくなる。そして、いまその崩壊が実際に始まったのである(図表9)。
投資とは逆に、過去40年間に消費対GDP比は53%から38%へと15%低下し、消費が投資を下回り続けたことも異例である(図表10)。
今後予想される投資の落ち込みは消費の増加でカバーするしかないが、バブル崩壊と習近平政権の奢侈を非難するイデオロギーは、家計の防衛的貯蓄の引き上げに結び付き、一段と経済活力を奪っていくことが想定される。
短期的困難を、①バブル崩壊の先送り、不良債権の隠ぺい、追い貸しなどの弥縫策、②家計に対する減税などの消費支援で、糊塗するだろうがその効果は短命であろう。中国の困難はかつて日本が陥ったバランスシート不況とは異なる。
日本のBS不況は、資産価格下落による金融上の損失の発生であり、時間をかけてその処理が完遂された。しかし中国の根本問題は、実物資産の作り過ぎ、過剰住宅・過剰設備・過剰インフラにある。そこからの脱却は実物経済の急収縮をもたらす。深刻な大恐慌型の経済困難がありえる。
ということは、中国が日本化(Japanification)するかどうか、という問いは甘すぎる。より深刻な将来が待っていることを念頭に置くべきである。
武者 陵司
株式会社武者リサーチ
代表
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