(写真はイメージです/PIXTA)

オフィス拡張移転DIは、23年第1四半期にコロナ禍前の水準を一時回復したものの、第2四半期には反落し、オフィス需要は力強さに欠けています。とくに「製造業」と「情報通信業」が伸び悩むなど、業種ごとに差がついているようです。本稿では、ニッセイ基礎研究所の佐久間誠氏が23年上期の企業のオフィス移転動向について解説します。

3|コロナ禍前水準を回復する業種がある一方、「製造業」と「情報通信業」が伸び悩み

コロナ禍における主要業種のオフィス拡張移転DIの推移を見ると、「学術研究・専門/技術サービス業」が2020年上期に43%(2019年下期81%)と急低下した(図表4)6

 

続いて、「製造業」が2020年下期に38%(同60%)、「情報通信業」が2021年上期に36%(同86%)へ低下した。これらの業種は、コロナ禍においても業績が総じて底堅く推移したが、複数の企業がオフィス戦略を早々に見直して、縮小移転や解約などオフィス床を削減する方針を発表した。

 

その他の主要業種では、「卸売業・小売業」が2020年下期に47%(同67%)、「その他サービス業」が2021年上期に46%(同60%)に低下したが、前述の3業種と比較すると低下は小幅にとどまった。

 

2021年下期以降、オフィス需要に底打ちの兆しが見られるようになり、まずデジタル化加速の恩恵を受けた「情報通信業」が52%に上昇した。2022年上期には「製造業」が50%、そして「学術研究・専門/技術サービス業」が55%に上昇し、全ての業種で50%以上となった。

 

この改善傾向は2022年下期も続き、「学術研究・専門/技術サービス業」が81%、「その他サービス業」が77%、「不動産業・物品賃貸業」が77%と、コロナ禍前の水準に戻った。

 

しかし、2023年上期は二極化の動きが強まっている。内需中心の業種は引き続き好調で、「その他サービス業」が88%、「不動産業・物品賃貸業」が84%に上昇した。さらに、「卸売業・小売業」も77%と、コロナ禍前の水準を上回った。一方で、「学術研究・専門/技術サービス業」は70%に低下した。

 

また、「情報通信業」は61%、「製造業」は48%と、オフィス需要が伸び悩んでいる。

 

 

オフィス移転件数における拡張比率は、業種間で温度差が大きくなっている。拡張比率が高い順にその推移(2022年下期→2023年上期)を見ると、「その他サービス業(67%→82%)」>「不動産業・物品賃貸業(60%→74%)」>「卸売業・小売業(38%→62%)」>「学術研究・専門/技術サービス業(72%→57%)」>「情報通信業(50%→49%)」>「製造業(43%→27%)」となった(図表5)。

 

 

同様に、主要業種のオフィス移転件数における縮小比率も、二極化が進んでいる。縮小比率が低い順にその推移(2022年下期→2023年上期)を確認すると、「不動産業・物品賃貸業(7%→5%)」<「その他サービス業(13%→6%)」<「卸売業・小売業(24%→8%)」<「学術研究・専門/技術サービス業(11%→17%)」<「情報通信業(24%→28%)」<「製造業(33%→31%)」となった(図表6)。

 

 

そこで、「製造業」と「情報通信業」のオフィス需要の改善が停滞している要因について考察したい。この背景としては、在宅勤務の影響が考えられるほか、2022年以降はそれぞれ業種固有の要因がオフィス需要を抑制してきたと見られる。

 

「製造業」では、2023年6月の日本の輸出数量は前年比▲4.8%と8ヶ月連続の減少を記録するなど、外需が低迷している7。この要因としては、コロナ禍による供給制約の長期化や、欧米中銀の急激な利上げによる景気減速が影響していると考えられる。

 

しかし、米ニューヨーク連邦準備銀行が公表するグローバルサプライチェーン逼迫指数を見ると、供給制約はすでに解消したことが示唆される(図表7)。また、主要20カ国のOECD景気先行指数が2023年2月以降プラスに転じ、日本の輸出が増加する可能性が高まっている(図表8)8。このように世界景気の回復により、「製造業」を取り巻く環境も好転することが期待される。

 

 
 

「情報通信業」では、コロナ禍における株価急騰の反動により2022年は米国を中心に株価が低迷した。さらに、主要な米IT企業での人員調整が進行した結果、オフィス需要が一時的に抑制される要因になったと考察される。

 

しかし、2023年はChatGPTの台頭によるAIブームにより、GAFAMに代表される大手IT企業の株価は堅調に推移している9。2023年上期のGAFAMの株価上昇率が高い順に、Facebook(+138%)>Amazon(+55%)>Apple(+49%)>Microsoft(+42%)>Google(+36%)となった(図表9)。このような動向から、「情報通信業」の景況感も改善しつつあると考えられる。

 

 

「製造業」や「情報通信業」におけるオフィス拡張移転DIは伸び悩んでいるが、オフィス需要の抑制要因は次第に薄れつつある。そのため、在宅勤務の普及に伴う影響は未だ不透明要因として残るものの、今後は前向きなオフィス移転が増加するかに注目が集まる。


6 業種別のオフィス拡張移転DIは、十分なデータ数を確保するため、東京都心部ではなく東京圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)を対象とした。
7 2023年6月の輸出金額は前年比+1.5%と、海外のインフレを背景に28ヶ月連続の増加となっている。
8 OECD景気先行指数は、世界の景気動向を表し、日本の輸出に先行する傾向がある。
9 GAFAMは、Google、Amazon、Facebook、Apple、Microsoftの頭文字をとったもの。ただし、Googleは親会社アルファベットが上場しており、Facebookはメタ・プラットフォームズに社名変更している。

 

3――おわりに

本稿では、オフィス拡張移転DIをビルクラス別・業種別に分析し、2023年上期のオフィス移転動向を確認した。そのなかで、

 

(1)オフィス拡張移転DIは、2023年第1四半期にコロナ禍前の水準を一時的に回復したものの、第2四半期は反落しており、オフィス需要は依然として力強さは欠ける

 

(2)ビルクラス別では、BクラスビルとCクラスビルがコロナ禍前の水準を回復した一方、Aクラスビルは頭打ちとなっている

 

(3)業種別では、コロナ禍前の水準を回復する業種がある一方、「製造業」と「情報通信業」が伸び悩んでおり、業種間の二極化が進行している。ただし、「製造業」と「情報通信業」のオフィス需要を抑制してきた一部要因は解消しつつある

 

ことを確認した。2023年はポストコロナへ移行するなか、オフィスビルの大量供給が予定される。

 

オフィス需要は依然として力強さに欠け、在宅勤務の影響など不透明要因も多い。しかし、オフィス需要回復の兆しも随所に見られ、今後の動向が期待される。オフィス市場における変化を捉えるには、引き続き、データを丹念に確認していくことが求められる。

 

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※本記事記載のデータは各種の情報源からニッセイ基礎研究所が入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本記事は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
※本記事は、ニッセイ基礎研究所が2023年8月25日に公開したレポートを転載したものです。

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