(※写真はイメージです/PIXTA)

日本の企業のなかには、巨額の内部留保を保有しているところが少なくありません。「そんなにお金があるのなら、従業員の給料を上げるとか、設備投資をすればいいのに!」と考えてしまいますが、会社の数字を理解すると、そうはならない理由がわかります。経済評論家の塚崎公義氏が解説します。

内部留保を持つことは、悪いことではない

日本企業は、利益をあまり配当せずに内部留保しています。内部留保した資金はあまり設備投資や賃上げに使われていないので、借金の返済に使われたり現金(預金を含む、以下同様)の積み増しに使われたりしています。

 

そこで、内部留保も現金も巨額に持っている企業が多数あり、そうした企業に対して「内部留保を使って設備投資や賃上げをしろ!」「現金を使って設備投資や賃上げをしろ!」という論者が少なくありません。

 

そもそも部外者が口出しすべき問題なのか否か、という話は置いておくとして、企業が設備投資をすべきか賃上げをすべきかという判断は、内部留保や現金を多額に持っているか否かと関係ありません。不要な投資等は行うべきではありませんし、必要なら借金をしても設備投資や賃上げをすればいいだけの話ですから。

 

その上で、現金と内部留保の違いを論じるとすれば、ひとつは現金を多額に持っていることは、素晴らしいことではない、ということ、もうひとつは内部留保で設備投資や賃上げをすることはできない、ということです。

 

日本はゼロ金利時代ですから、現金を多額に持っていても金利を産みません。それなら、現金を使って設備投資をするか借金を返すか、企業の利益に貢献することに使うべきだ、ということはいえそうです。しかし、内部留保を持っている事自体は、素晴らしいとも、そうでないともいえません。

 

企業が利益を稼ぐのは素敵なことですが、稼いだ利益を配当するのか内部留保して借金を返すのかは、どちらが素敵とはいえないのです。立場による違い等、難しい議論については後述します。

内部留保を使って設備投資をすることが「不可能」なワケ

設備投資をするためには、現金が必要です。現金を使うためには、手持ちの現金を使う(バランスシートの左側で現金が設備機械に置き換わる)か、借金をする(バランスシートの右上と左側が両方増える)ことが必要なのです。

 

設備投資をするとバランスシートの左側が増えるので、左側が減るか右側が増えるか、どちらかなのです。「内部留保を使って…」というためには、内部留保が減る必要がありますが、右側の内部留保が減って左側の設備が増えると、バランスシートがバランスしなくなってしまいますから、それは無理な話なのです(笑)。

 

まったく無駄な設備投資をして企業が赤字になれば、結果として内部留保は減りますが、それも「内部留保を使って設備投資をした」とはいわないでしょうし、そもそも部外者が「無駄な設備投資をして赤字になれ」などというべきでないのは当然です。

 

同様に、内部留保を使って賃上げをすることもできません。無謀な賃上げをした結果として企業が赤字になれば、結果として内部留保は減りますが、それは「内部留保を使って賃上げをした」とはいわないでしょうし、部外者が「内部留保を減らすために無謀な賃上げをして赤字になれ」などというべきでないのは当然です。

 

内部留保が減るためには企業が赤字になる必要があるので、「内部留保を使って…」という発想自体が問題なのです。せいぜいいえるのは、今後は内部留保は増やすな! 儲かったらすべて配当し、設備投資や賃上げに資金が必要ならば銀行から借りろ」という程度でしょう。

 

そもそも、「内部留保した資金を使って…しろ」というのと「内部留保を使って…しろ」というのはまったく異なります。前者は内部留保が増えることが想定されており、後者は減ることが想定されているからです。

内部留保の増加は株主の不利益だが、会社は安定する

資本が1、借金が9という会社が5社あるのと、資本が5、借金が5という会社が1社あるのと、どちらが好ましいでしょうか? それは、立場の違いによります。

 

株主にとっては、前者が好ましいでしょう。5だけ出資すれば5社分の利益を手にすることができるからです。後者であれば、5出資しても1社分の利益しか手にすることができないのに。

 

しかし、資本が1しかない会社は、簡単に倒産してしまうかもしれません。従業員や経営者は失業し、日本経済は倒産の増加で不況に陥るかもしれません。したがって、後者の方が望ましいと考える人も多いはずです。

 

銀行と株主の利益について考えてみましょう。前者は、株主が「企業が大損した場合の損失を銀行に押し付けている」状態です。企業が4の損失を被れば、株主が1、銀行が3損をするからです。銀行としては、「そんな会社には貸したくない。非常に高い金利を払ってくれるなら貸してもいいが…」といいたいのでしょうが、最近の日本の銀行は貸出先を探すのに苦労しているので、仕方なく普通の金利で貸しているところも多いかもしれません。

 

株主と経営者の利益について考えてみましょう。本来であれば、会社は株主のものであり、経営者は株主の利益のために働くべきだ、という考え方があります。しかし、実際の経営者は、純資産が小さくなって倒産の可能性が高まると自分が失業しかねませんし、無能の烙印を押されかねませんし、従業員等からも恨まれかねませんから、純資産を大きくしたがる傾向があるようです。

 

株主としては、経営者に「株主の利益のために経営しろ」といいたいのでしょうが、そのためには「株主の利益のために働いたら報酬を10倍にする」といったインセンティブが必要でしょう。ストックオプションといった仕組みは、そのひとつですね。

 

それによって、企業が純資産を減らすのか否か、それが望ましいことなのか否か、様々な考え方や利害関係があるので、難しい問題ですね。

 

今回は、以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合があります。ご了承いただければ幸いです。

 

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塚崎 公義
経済評論家

 

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