【でも幸せならOKです】「我が家の“中隊長”がお怒りになるから、帰ります」…自宅に帰れば最下級戦士。結婚した自衛官たち、こうなる(Xフォロワー27万人超・元陸上自衛官が解説)

【でも幸せならOKです】「我が家の“中隊長”がお怒りになるから、帰ります」…自宅に帰れば最下級戦士。結婚した自衛官たち、こうなる(Xフォロワー27万人超・元陸上自衛官が解説)
(※写真はイメージです/PIXTA)

「強く堂々とした、立派な男子」を意味する言葉、「ますらお」。もはや死語に近いともいえますが、日本で消えゆく「ますらお」達の育成教育を行っている組織の一つが陸上自衛隊です。Xフォロワー27万人超・元陸上自衛官ぱやぱやくん氏の著書『陸上自衛隊ますらお日記』(KADOKAWA)より一部を抜粋し、メディアには移されない陸上自衛隊(ますらお)のリアルを紹介します。

結婚した自衛官(ますらお)は駐屯地生活を卒業し、官舎生活へ

駐屯地を卒業したますらおの愛の巣は、「官舎」になることが多いです。官舎は団地のような建物で、割安(平均2〜5万円)で3DKほどの物件に住むことができます。周りの土地の相場によって家賃が変動するため、周りが田んぼばかりの僻地では月数千円、都心の官舎だと月10万円以上となっています。

 

きれいな官舎は大人気で取り合いとなるので、幸運に恵まれない限りは古い官舎に住むことになります。古い官舎には「バランス釜」という昭和の遺産が未だに現役だったり、全室が古い畳の「過剰なわびさび物件」だったり、雑木林からベランダに虫達が空挺降下を繰り返す物件もあるので、家族がガッカリすることも珍しくありません。

 

ただ、そんな官舎であっても駐屯地にずっと住んでいたますらおにとっては、まさに自分の城であり、楽園でもあります。駐屯地の外に住むことに憧れていた彼らにとっては、周りは田んぼばかりでコンビニまで徒歩20分、エレベーターもない5階建ての健脚向けの物件でも、東京タワーが見られる港区のマンションに等しいのです。

 

一方で、人気の新しい官舎は高層でエレベーターが完備されていたり、都心に近かったりなどのメリットが多く、奥さんが「自衛官と結婚してよかった」と微笑むようになります。特に南西諸島にある新しい自衛隊官舎に住めれば、ベランダから南風を浴び、毎日がリゾートマンション気分で暮らすことができます。羨ましいですね。

 

そうして、ますらおは越してきた部屋を、今までイメージをしていた理想の家にしようとします。「大きなソファーを置いて、大画面のテレビを置こう」や「カーテンは青色にしよう」などウキウキで提案をする姿は微笑ましいものです。

 

しかし、営内生活で殺風景な部屋に住んでいたますらおは、所さんの世田谷ベースのような「おしゃれな大人のルーム」を目指すこともあります。ガラスのショーケースを買って、ガンダムのプラモデルを飾ろうと計画をしたり、高級なグラスセットとアロマキャンドルを求め、ベランダにキャンプ用の折り畳み椅子を設置したりしようとします。

 

そのため、奥さんから「何考えているの! みっともないからやめて!」と怒られることも。結局、自宅には相変わらず奥さんという営内班長がいて、「ここを掃除して」「何時までに帰ってきて」と言われるのです。後輩もいないので、自宅では最下級戦士としてお風呂場の排水口のヌルヌルと格闘することになります。

 

一方で奥さんが寛容な場合は、ガンダムグッズの展示やキャンドルセットも許可されますが、ゴチャゴチャして統一感がないことがほとんどです。

 

また、筋トレマニアの官舎には、謎の筋トレマシンがゴロゴロ置いてあることもあります(そんな家に遊びに行くと、お酒を飲む前に謎のエクササイズでたっぷり汗をかく羽目になります)。それを見越して自分の結婚相手に求めるものを「無類の酒好き」などに絞っている隊員も一定数おり、二人で理想の家を作っている人もいます。

「ますらお2世」の誕生

ますらおに子どもが生まれるともう大変です。一家の大黒柱としての意識が強くなり、この子が大学を卒業するまでは自衛隊で頑張ろうと思います。なお、お子さんが生まれる前後は奥さんが実家に帰省をすることが多く、ますらおは官舎でつかの間の独身ライフを楽しむことができます。

 

しかし何年も誰かと共に生活してきたますらおは、一人で生活をすることに孤独感を覚えることが多く、わざわざ営内でゲームをしたり、誰かの官舎に遊びに行ったりします。まるで両親が共働きをしている鍵っ子の放課後のようですが、ますらおはさみしがり屋なことが多いです。

 

そして出産を終えた奥さんが帰ってくると、新隊員教育が始まります。奥さんがますらおに子どもの寝かしつけ方、あやし方などを教え、上手くできないと「そんなのじゃダメ!」と怒ります。人生は学ぶことが多く、大変ですね。そして大好きな飲み会も1次会でお開きにして帰ることになります。「我が家の中隊長がお怒りになるから帰ります」が彼らの口癖です。

 

また、女性自衛官の場合は出産もあるのでさらに大変です。もちろん産休・育休は取れ、時短勤務なども調整できますが、幼子がいる家庭は戦場。ある方は「幼子がいる家は実戦みたいなものだから、演習よりもキツい」と言っていました。「これから戦いが始まる」と言い残して保育園に向かう姿は、まさに勇者のように見えました。

「あれはAH-1だね! お父さん」

ますらおの家に生まれると、普通の家と異なることがあります。それは陸上自衛隊が圧倒的に身近になることです。家が迷彩服などのリアルミリタリーグッズであふれ、官舎に住むと周りの大人はほぼ自衛官になります。そして駐屯地の一般開放や夏祭りに行き、戦車やヘリコプターに乗ることもあります。自衛隊マニアのおじさん達がやることを、ますらお2世達はナチュラルに行うのです。

 

休日になるとゴジラの映画を見て、「ほら、これがお父さんの仕事だよ」と教育されるので、一般のサラリーマン家庭の感覚が分かりません。絵を描けば戦車やヘリコプターを描くようになりますが、右傾化した愛国少年だからというよりも、戦車やヘリコプターが日常なだけです。

 

駐屯地や官舎がある地方都市の小学校に進学をすると、クラスメートが自衛官の子ども達だらけになります。そうした小学校の運動会では、父兄にますらお達が多数やってきて、会場の設営・撤収を猛烈なスピードで行います。父兄対抗リレーや綱引きなどの競技があると、子どもそっちのけで青筋を立てて戦うますらお達を見ることができます。運動不足のお父さんは形無しとなってしまうので、気を付けましょう。

いよいよマイホーム購入で「ますらお黄金時代」突入

子どもが大きくなると、官舎に住んでいたますらおは「そろそろマイホームを買うか!」という気持ちになり、永住地を求め、住宅展示場にも足繁く通うようになります。陸上自衛官は国家公務員という安定した職業のため、銀行はホクホク顔でお金を貸してくれますし、ハウスメーカーも「絶対に逃がしてはいけないお客さん」として手厚いサポートを受けることができます。バランス釜や虫達の空挺降下と戦ってきた奥さんも「やっとマイホーム!」と嬉しさを隠せませんし、子ども達も「パパ! 僕の子ども部屋はあるの!?」と目をキラキラさせながら、ますらおの父に話しかけます。

 

ちなみに、幹部候補生学校には「この先住宅展示場」と掲げられた看板があります。そこにはレジャーシートのようなものを器用にテントみたいにして張った「剛健ハイム」*という人類として限界ギリギリの住宅が展示されており「いいか、お前ら、訓練中はこの剛健ハイムがマイホームとなる。今から作り方を説明するから1回で覚えろ」と言われました。

 

*関連記事:『【逸話】「剛健マンション」に住み、毎朝「剛健点呼」。なんでも“剛健”をつける幹部候補生学校…そこで育った「陸上自衛隊(ますらお)」たち、こうなる 』)

 

そんな時代から苦労して訓練を乗り越え、出世し、結婚し、子どもにも恵まれて、いよいよ本当の住宅展示場に来られるのです。そして、陸上自衛官は「プライベートにおけるますらお黄金時代」を迎え、「あぁ、自衛官になってよかったなぁ」としみじみと感じるのです。

 

マイホームを建てる場所ですが、転勤が少ない陸曹は自分の勤務地周辺の駐屯地に建てるケースが多く、転勤が多い幹部は利便性の高い首都圏or地方都市に建てることが多いです。特に、防大卒幹部は「よし大分に一軒家だ!」と家を建てると大変なことになります。東北転勤となった際は九州へのアクセスが悪く、交通費もかかるので「年末年始とお盆休みにしか帰れない自分の城」となってしまいます。そして子ども達の楽しそうな写真を見ながら、自分は相変わらず単身赴任先の官舎で、さみしく排水口のヌルヌルと格闘する羽目になります。

 

 

ぱやぱやくん

防衛大学校卒の元陸上自衛官。退職後は会社員を経て、現在はエッセイストとして活躍中。名前の由来は、自衛隊時代に教官からよく言われた「お前らはいつもぱやぱやして!」という叱咤激励に由来する。著書に『今日も小原台で叫んでいます 残されたジャングル、防衛大学校』『陸上自衛隊ますらお日記』(どちらもKADOKAWA)などがある。

 

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※本連載は、ぱやぱやくん氏の著書『陸上自衛隊ますらお日記』(KADOKAWA)より一部を抜粋・再編集したものです。

陸上自衛隊ますらお日記

陸上自衛隊ますらお日記

ぱやぱやくん

KADOKAWA

【SNSで話題沸騰中の元陸上自衛官・ぱやぱやくんが描く、愛とユーモアに溢れた自衛隊ライフがついに書籍化!】 「陸上自衛隊」と聞くとみなさんはどんなイメージがありますか? おそらくは戦車に乗っている姿、災害派遣…

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