(※写真はイメージです/PIXTA)

「神の見えざる手」とは、かの有名なアダム・スミスの言葉です。しかし、何事も経済のように神様に委ねればうまくいくのかといえば、そうとは限りません。国が機能するためには、政府が率先して動かなければならないことがあるのです。経済評論家の塚崎公義氏が解説します。

国家の運営、神様に委ねきれないこともある

経済学の祖、アダム・スミスは「経済のことは神様に任せておけばよいのだから、王様は手出し口出ししないで下さい」と言いました。そしてそれは、現在の経済学の基本的な考え方となっています(『国民思いの王様「貧乏な人がかわいそう。市場のイモを安くせよ」…余計な気遣いで〈国の経済大混乱〉のワケ』参照)。

 

しかし、何事にも例外はあります。政府がやらなくてはいけないことがあるのです。いちばんわかりやすいのは「自衛隊」です。自衛隊は必要ですね。自衛隊がなかったら、外国が攻めてきたときに困りますから。でも、政府がなかったら、だれが自衛隊を作るのでしょうか。

 

「皆で金を出し合って自衛隊を作ろう」と皆が相談しても、「私は金を払わない」という人が出てくるでしょう。その人は、自分は金を出さなくても外国が攻めてきたときに自衛隊に守ってもらえるので、得ですね。

 

しかし、その人を見て、「自分も払わない」という人が増えてくると、自衛隊を作る資金が集まらなくなってしまいます。

 

それでは困るので、政府が強制的に税金を集めて自衛隊を作るのです。税金であれば、「自分は払わない」ということができないので、文字通り「皆で金を出し合って自衛隊を作る」ということになりますから。

 

警察も消防も同様です。警察や消防がなければ、皆が困ります。「自分は金を出さないけれど、皆さんで金を出し合って警察と消防を作ってくれたら嬉しいです」という人が増えると困るので、政府が税金で警察官や消防士を雇うわけですね。

どこまで政府がやるのか、考え方は様々

もっとも、どこまで政府がやるべきか、というのは決まっていません。小学校は必要でしょうね。字が読めない国民が多いと困りますから。でも、大学まで政府が税金で作る必要はないかもしれません。

 

というわけで、日本は小学校と中学校だけ政府が責任を持って作り、高校や大学は原則として行きたい人が金を払って行く、ということになっているわけですね。

 

政府といっても、国と県と市町村があります。自衛隊を作ったり都市と都市を結ぶ大きな道路を作ったりするのは国の仕事、ゴミを集めたりする生活に密着したものは市町村の仕事、その中間的なものが県の仕事…という感じで、分担がなされているようです。

所得再分配、景気の安定化も「政府の仕事」

以上述べてきたのは「公共サービスの提供」についてですが、政府の仕事としては、公共サービスの提供のほかに「所得再分配」「景気の安定化」があります。

 

貧富の差が大きすぎるとさまざまな問題が起きますので、それを是正しよう、というのが「所得再分配」です。生活保護等々によって、貧しい人でも健康で文化的な最低限度の生活が送れるように、というわけです。

 

日本の税金は、所得が多い人には高い税率を適用する「累進課税」となっています。所得が2倍に増えると、払う税金が3倍にも4倍にもなりますが、それは、必要な資金を貧しい人に負担させるのではなく、所得の多い人に負担してもらおう、という理由からなのです。

 

これは、一部の人だけが大金持ちになるのを防ごう、というわけですから、貧富の格差を是正する、ひとつの手段ともなっています。

 

「景気の調節」も、政府の仕事です。景気がよいときにはとくになにもしませんが、景気が悪いときには公共投資をします。橋や道路を作ることで、失業者を建設労働者として雇うわけですね。

 

そうなると、雇われた元失業者が給料をもらうので、たとえば家電を買うでしょう。そうなると、家電メーカーが増産のために失業者を雇うでしょう。これらが繰り返されることによって、失業者が減っていくわけです。

 

以上、政府の役割について記してきましたが、どこまで政府がやるべきか、という点は国によって随分考え方が違っているようです。

 

米国ではアダム・スミスが大好きで、できるだけ政府の役割は小さくしよう、と考えている人が多いですが、一方の北欧諸国は、高福祉高負担ということで税金を多く集めて社会福祉を充実させています。日本は中間くらいです。

 

今回は以上です。なお、本稿はわかりやすさを最優先として書いていますので、細かい所について厳密にいえば不正確だ、という場合もあり得ます。ご理解いただければ幸いです。

 

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塚崎 公義
経済評論家

 

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