(※写真はイメージです/PIXTA)

「お金」は時に、人間の本性をむき出しにさせ、家族の仲を引き裂いてしまうことがあります。Cさんの兄は、亡くなった母の遺産の詳細を教えてくれないばかりか、母の預金通帳を持ち逃げしました。Cさんが兄と遺産をわけるためには、まずは遺産の詳細を調べる必要があります。兄の協力をあおげない場合に、遺産の詳細はどのように調べるのでしょうか。本記事では、実務に精通した弁護士陣による著書『依頼者の争族を防ぐための ケーススタディ遺言・相続の法律実務』(ぎょうせい)より、相続人の1人が協力しない場合の遺産の調査方法について解説します。

3.遺産の調査

不動産

登記事項証明書は、法務局で誰でも取得することができるので、所在が明らかなAの自宅については、特にBの協力を得る必要なく、登記事項証明書をとることができます。住居表示しか分からず地番が特定できていない場合は、ブルーマップで確認をするか、管轄の法務局に電話で地番照会をすれば確認可能です。

 

また、被相続人が事業を行っていた場合など、不動産に抵当権を設定しているときには、共同担保目録の欄から、別の不動産の存在が分かることもあるので、共同担保目録まで確認をするとよいでしょう。

 

自宅以外の不動産について、固定資産税の通知書等が自宅に残っていれば、それを基に確認するのが簡便です。固定資産税の通知書等がなく、また詳細な場所などが分からなくとも、所在する市町村までは把握できているという場合は、相続人であれば、自治体で固定資産課税台帳(名寄帳)を閲覧することができるので、被相続人名義となっている不動産を確認することができます。


なお、不動産は所在の特定だけでなく、使用・管理状況の確認や、その価値の評価を行うことも不可欠です。近場であれば、現地に直接赴いて、その使用・管理状況等や隣地との境界の有無、建物の状態等を確認するのがよいでしょう。遠方で現地に行けない場合でも、インターネットなどでできる限り直近の現地の状況を確認しておくことは不可欠です。不動産の価格については、宅地や建物であれば、大手の不動産業者に依頼をすれば簡易査定を行ってくれることが多いかと思います。査定が難しい不動産の場合でも、少なくとも固定資産評価額や路線価を調べておくとよいでしょう。

 

預貯金

被相続人が生前に利用していた金融機関が分かる場合には、その銀行の支店で、残高証明書や取引履歴を発行することができます。なお、このような調査は、相続関係さえ証明できれば、相続人単独で可能であり、他の共同相続人の協力がなくとも可能です。

 

被相続人が利用していた金融機関が分からない場合や、把握している以外にも取引銀行があることが予想されるような場合、自宅や職場の近くにある銀行や、配偶者が取引のあった金融機関、大手メガバンク、被相続人の居住地域で多く利用されている地方銀行等を中心に、順次調査をしていくことになるでしょう。

 

なお、金融機関は、基本的に支店ごとに取引管理を行っていますが、相続に際しての取引照会は、全支店の照会を行ってくれることが多いので、別の支店に口座がある場合なども把握することが可能です。また、被相続人が結婚等で姓を変更している場合には、旧姓のままの名義口座が存在していることもあるので、金融機関に照会する際、旧姓での取引口座の有無についても確認するとよいでしょう。

 

なお、相続人が金融機関に口座の照会を行うと、該当する被相続人名義の口座は凍結がされます。これは、共同相続人が勝手にお金を引き出したりすることを防止できるという効果もあります。

 

有価証券

被相続人が利用していた証券会社が分かれば、その証券会社に残高証明書の発行を依頼することで、当該証券会社を通じて保有している有価証券を確認することが可能です。証券会社が分からない場合、被相続人の自宅に残っている証券口座開設時の書類や株主総会への招集通知、配当金の通知等から保有する有価証券等を探していくことになります。

 

インターネットの証券口座を利用していた可能性がある場合は、パソコンや携帯電話のアプリやブックマーク、メールの履歴も確認できるとよいでしょう。

 

その他、銀行から証券会社への資金移動から有価証券の存在が判明することもあるので、預貯金口座が分かっている場合には、生前の一定期間の取引履歴を取り寄せて、そこから証券会社宛ての振込や配当金の入金などがないかを確認することも必要です。

 

生命保険

まずは、被相続人の自宅に保険証券が保管されていないかを確認しましょう。残っている場合には、それを基に保険会社に照会をすることによって、保障内容の確認ができます。なお、この照会も金融機関への照会と同様、相続人が単独で行うことができます。

 

加入している保険が明らかでないような場合は、預貯金の取引履歴から保険会社への保険料の支払がないか確認をすることや、自宅に保険会社からダイレクトメールなどが届いていないか、保険会社のノベルティのメモ帳やボールペンなどが置かれていないかを確認し、取引のあった保険会社にあたりをつけて照会をかけていきましょう。

 

金融機関等へ照会をする場合の必要書類

金融機関や証券会社、保険会社等に照会をする場合、相続人であることを確認するため本人確認書類はもちろんのこと、相続関係を証明するための戸籍謄本(被相続人から相続人までのつながりが分かるもの)、印鑑登録証明書等の書類を要求されます。これらの書類は、その会社によって全く同じとは限らないので、各社ごとに事前に電話で確認したうえで実施するのがよいでしょう。

 

なお、戸籍謄本等の書類は、通常、原本確認後に返却をしてくれる場合はほとんどですが、照会先が多数に渡る場合、返却されるまで次の照会手続が行えないのは時間のロスになるので、複数部を用意しておいた方がよい場合もあります。

 

その他の財産の調査方法

その他の財産の調査方法として、弁護士会照会(弁護士法23条の2)を活用する方法もあります。例えば、被相続人が使用していた自動車があるものの、車検証の所在が不明で名義が明らかでない場合などは、自動車のナンバーから管轄の陸運局に弁護士会照会を行うことで所有者を確認することができます。

 

<参考文献>
東京弁護士会法友全期会相続実務研究会編『遺産分割実務マニュアル〔第4版〕』(ぎょうせい、2020年)

 

 

東京弁護士会弁護士業務改革委員会

遺言相続法律支援プロジェクトチーム

 

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※本連載は、東京弁護士会弁護士業務改革委員会 遺言相続法律支援プロジェクトチーム編集の、『依頼者の争族を防ぐための ケーススタディ遺言・相続の法律実務』(ぎょうせい)より一部を抜粋し、再編集したものです。

依頼者の争族を防ぐための ケーススタディ遺言・相続の法律実務

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