(写真はイメージです/PIXTA)

福岡のオフィス市場は、オフィス需要がコロナ禍で受けたダメージから回復し空室率と成約賃料は概ね横ばいで推移していたが、今年に入り、新規オフィスビル供給の増加を受けて空室率は再び上昇に転じている。本稿では、ニッセイ基礎研究所の吉田 資氏が、福岡のオフィス市況を概観した上で2027年までの賃料予測を行う。

2. 福岡オフィス市場の見通し

 

2-1. 新規需要の見通し

 

(1)オフィスワーカー数の見通し
住民基本台帳人口移動報告によると、2022年の福岡市の転入超過数は+6,031人となり、転入超過を維持したものの、前年から▲16%減少した(図表-11)。

また、2022 年の福岡県の就業者数は261.3万人(前年比±0.0 万人)となり、2020年以降横ばいで推移している(図表-12)。

 

 

以下では、福岡のオフィスワーカー数を見通すうえで重要となる「福岡財務支局」の管轄下3県(福岡県・佐賀県・長崎県)」における「企業の経営環境」と「雇用環境」について確認したい。


内閣府・財務省「法人企業景気予測調査」によれば、「企業の景況判断BSI3」(福岡財務支局)は、コロナ禍が発生して2020年第2四半期に「▲53.7」と一気に悪化した。その後は、回復と悪化を繰り返しながら、2023 年第1四半期に「+5.8」まで回復した(図表-13)。


また、「従業員数判断BSI4」(福岡財務支局)は、新型コロナウィルス感染拡大後、「+22.5」(2020年第1四半期)から「+5.2」(第2四半期)へ大幅に低下した。その後は順調に回復し、足もとでは「+26.4」とコロナ禍前の水準を上回り人手不足感が強まっている(図表-14)。


福岡市では、人口の流入超過が継続しているもののその勢いは鈍化しており、福岡県の就業者は横ばいで推移している。一方、「企業の経営環境」および「雇用環境」はコロナ禍で受けたダメージから立ち直り順調な回復を示している。以上を鑑みると、福岡市のオフィスワーカー数が大幅に減少する懸念は小さいと言える。

 

 

3 企業の景況感が前期と比較して「上昇」と回答した割合から「下降」と回答した割合を引いた値。マイナス幅が大きいほど景況感
が悪いことを示す。
4 従業員数が「不足気味」と回答した割合から「過剰気味」と回答した割合を引いた値。マイナス幅が大きいほど雇用環境の悪化を示す。

 

(2)在宅勤務の普及に伴うワークプレイスの見直し

 

福岡商工会議所「新型コロナウィルス感染症が企業に及ぼす影響に関する調査」(2021年6月実施)によれば、「今回の緊急事態宣言下におけるテレワーク・在宅勤務の実施状況」について、実施したとの回答は全体で35%、大企業に限ると46%となっている。


一方、日本政策投資銀行「2022年度企業行動に関する意識調査(九州版)」によれば、「with/afterコロナにおける理想的な出社割合」について、「10割(フル出社)」との回答は、九州に所在する「製造業」で56%、「非製造業」で54%を占め、全国平均(製造業42%、非製造業44%)をともに上回った(図表-15)。

 

 

 

ザイマックス不動産総合研究所「大都市圏オフィス需要調査」によれば、「ワークプレイス戦略の見直しの着手状況」に関して、「既に着手している」との回答は2021年の7%から2022年の10%へ増加したものの、東京(26%)の半分以下に留まっている(図表-16)。


福岡市では、コロナ禍でテレワークが普及したが、コロナ収束後は、フル出社(完全オフィス勤務)に戻したい意向を持つ企業も多いようだ。今後、福岡市でも「在宅勤務」を採り入れた新たな働き方が定着し、ワークプレイスの見直しが進展するのか、引き続き注視したい。

 

 

(3)半導体投資拡大がもたらすオフィス需要への影響

 

九州地方は、人口や面積、域内総生産額など、経済の基礎となる主要指標が全国シェアで10%程度であることから「1割経済」と言われている5。こうしたなか、半導体関連製造業では、九州地方は高いプレゼンスを誇り、「シリコンアイランド」と呼ばれる。特に、集積回路の生産額(2022年)は約9,300億円と全国シェアの45%を占める。

AI 技術の進展等に伴い半導体市場の拡大が期待されるなか、九州地方において設備投資や企業進出が増加している。日本銀行福岡支店「九州における半導体関連産業の動向」によれば、半導体関連の設備投資額は、2022年から2024 年の3年間で約1.5兆円に達する見込みである。半導体関連企業の集積に加えて、豊富な水資源や安価で安定的な電力供給などが投資拡大の要因とのことである。


こうしたなか、九州地方の中核都市である福岡において、オフィスを開設する動きがみられる。世界最大の半導体受託製造会社であるTSMC(台湾積体電路製造)とデンソーと合弁で熊本県に半導体工場を建設中のソニーセミコンダクタソリューションズは、「博多イーストテラス(2022年竣工)」に福岡オフィスを開設した6

 

今後、半導体関連の設備投資や企業進出が活発化することで、福岡のオフィス需要の高まりが期待される。

 


5 経済産業省九州経済産業局「九州経済の現状(2022年度)」
6 ソニーセミコンダクタソリューションズグループHP

 

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※本記事記載のデータは各種の情報源からニッセイ基礎研究所が入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本記事は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
※本記事は、ニッセイ基礎研究所が2023年6月21日に公開したレポートを転載したものです。

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