(※写真はイメージです/PIXTA)

部下の指導に悩み、苦労しているビジネスパーソンは多いでしょう。かつての終身雇用・年功序列がなくなりつつある今、部下は必ずしも上司の思惑通りに動くわけでなく、組織へのロイヤリティや共同体感覚も必ずしも強くない状態です。このような中で自分の部下を伸ばすには、どうすればよいのでしょうか。佐々木常夫氏の著書『部下が伸びるマネジメント100の法則』(日本能率協会マネジメントセンター)より一部抜粋し、見ていきましょう。

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部下のやる気を出すには「褒めるが8、叱るが2」

チームの成果を上げていくには、部下のやる気を高める必要があります。

 

そのためには、やはりなんといっても「褒める」ことです。ただなんとなく「いいね」と褒めるのではなく、やる気が出るよう意識して褒めることが大事です。

 

人は褒められると、自己肯定感が高まり、やる気を出します。相手のことを好意的に捉えるようになり、信頼感も高まります。

 

実際「この短期間でよくできたな!」「あなただからできたんだよ!」などと褒めると、部下はさらにやる気を見せ、それは奮闘してくれたものです。「やった! 褒められた!」と思うと、人はグングン伸びていくといって間違いありません。

 

ただし、褒めてばかりいると調子に乗ったり、実力を過信する部下がいるのも確かです。「自分はできる」と勘違いし、失敗を言い訳したり、人に迷惑をかけて平気な顔をしているようなら、ピシャリと叱る、厳しく言って聞かせるということも必要です。

 

「厳しいことを言うと辞めてしまう」「パワハラだと騒がれるのではないか」との懸念もあるかもしれませんが、ミスを指摘し、二度としないよう言って聞かせるのは上司として当たり前のこと。大声で怒鳴ったりせず、落ち着いて毅然と伝えれば、納得し、反省を促すことができるはずです。

 

もっとも叱るというのは、叱るほうも疲れます。ちょっとしたことをいちいち注意するのも、互いにしんどいものです。まあ小さなことは大目に見て、「褒めるが8、叱るが2」くらいで考えておくのがちょうどいいのではないでしょうか。

 

叱る・褒めるは、相手にもよります。生真面目で繊細な部下の場合は優しく伝えたほうがいいですし、調子に乗りやすく懲りずにポカを繰り返すような部下の場合は、厳しい口調で接したほうがいいでしょう。中には「どの部下も同等に扱うべきだ」と言う人もいますが、これに関しては人それぞれ。えこひいきにならない範囲で、部下の性格によって対応を変えるのがお勧めです。

 

「褒める」と「叱る」は一見正反対に見えますが、「部下を成長させるため」「チームの力を引き出すため」という目的はどちらも同じです。褒めるにしても叱るにしても、大切なのは上辺ではなく、心から本気で向き合うこと。上司の本気度が伝わる褒め方、叱り方を実践していきましょう。

「叱りっぱなし」にしない

私はどちらかというと、部下の欠点より長所を見て、いいところを積極的に褒めるよう心がけていましたが、決して甘い顔ばかりしていたわけではありません。

 

部下が同じ失敗を繰り返したり、単純なミスをしたり、内容の薄い企画書を提出したりしたときなどは、容赦なく叱りつけました。

 

もちろん罵声を浴びせたり、理由も言わずに叱り飛ばすような真似はしませんでしたが、有無を言わさない態度で、毅然と叱責するようにしていました。中途半端な叱り方は、部下の成長につながらないからです。

 

叱られた部下の反応はさまざまです。叱られて素直に反省し改めようとする者、欠点に気づき挽回しようとする者もいますが、中にはいつまでも落ち込んでいる者もいます。叱られたことに納得がいかず、憤然としている者もいます。

 

本来なら自らの落ち度に気づき、「何くそ」とやる気を起こしてもらいたいものですが、人間はひとたび気落ちすると、立て直すのがむずかしいこともあります。やる気をなくしたままでは、チームのパフォーマンスが落ちてしまいかねません。

 

そこで部下が凹んでいたり、腑に落ちていない様子を見せた場合は、こちらから声をかけ、「なぜ立ち直れないのか」「どうして納得できないのか」と訊いてみます。相手の言い分を黙ってよく聞いた上で、なぜ叱ったのかを丁寧に説明します。

 

するとたいていの部下は、叱られたことについてもう一度考え、どこが悪かったかを理解してくれます。言われたことに納得し、いつまでもふてくされているようなこともなくなります。

 

このように、叱った後は叱りっぱなしにせず、感情的なしこりを残さないようフォローすることが大事です。叱って、フォローしたことで、互いに対する理解や信頼が前よりも深まる、というのが理想ですね。

 

部下によっては、フォローせず「なぜ叱られたのか」を自分で考えさせてもいいでしょう。メンタルが強い部下なら、フォローするより自力で考え抜かせたほうが、やる気を出すこともあります。

 

いずれにしろ、叱るのは「成長してほしい」「期待している」という願いの表れです。そこが伝わるよう、叱ったあとは適切な見守りやフォローを心がけたいものです。

日頃から「信頼残高」を増やしておく

同じ叱るのでも、厳しく叱って嫌われてしまう上司と、嫌われない上司とがいます。この違いはどこにあるのでしょうか。

 

一番の違いは、「信頼口座」にどのくらい残高があるか、です。

 

信頼口座は、銀行口座と同じです。銀行口座にお金を預けると、残高はプラスになり、引き出せばマイナスになります。貯めずにどんどん引き出して使ってしまえば、やがて底をつき、何も買えなくなってしまいますね。

 

信頼もお金同様、「預け入れ」もあれば「引き出し」もあります。常日頃から預け入れを心がけ、残高を十分にしていれば、多少ぶつかったり厳しく叱ったりしても、部下との関係にひびが入ることはありません。私は時に厳しく部下を叱責しましたが、それでも多くの部下が慕ってくれたのは、常に信頼関係を築くよう努め、信頼口座に潤沢な残高があるよう心がけていたからにほかなりません。

 

『7つの習慣』の著者であるスティーブン・R・コヴィー博士は、「人間関係や組織での活躍など、よりレベルの高い公的成功のためには、人の信頼残高を高めておかなければならない」と語り、次の6つを提案しています。

 

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①相手を理解する

②小さなことを大切にする

③約束を守る

④期待を明確にする

⑤誠実さを示す

⑥信頼残高を引き出したときは誠意をもって謝る

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要するに、礼儀正しい行動や、親切であること、正直であること、これらを通して信頼残高を高めておくことができれば、厳しく叱ったからといってパワハラになることも、部下の心が離れてしまうこともないわけです。

 

信頼残高を増やすのは根気のいる作業で、一朝一夕に手に入れられるものではありません。でも積み重なれば、部下を育て、チームの成果を上げるための心強い武器となることは言うまでもありません。部下を叱る局面でも、思いやりを忘れず、「信頼の貯蓄」を心がけていきましょう。

 

 

佐々木 常夫

株式会社佐々木常夫マネージメント・リサーチ 代表取締役

 

1944年秋田市生まれ。69年、東京大学経済学部卒業後、東レ株式会社に入社。家庭では自閉症の長男と肝臓病とうつ病を患う妻を抱えながら会社の仕事でも大きな成果を出し、01年、東レの取締役、03年に東レ経営研究所社長に就任。内閣府の男女共同参画会議議員、大阪大学客員教授などの公職も歴任。「ワーク・ライフ・バランス」のシンボル的存在と言われている。

 

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※本連載は、佐々木常夫氏の著書『部下が伸びるマネジメント100の法則』(日本能率協会マネジメントセンター)より一部を抜粋・再編集したものです。

部下が伸びるマネジメント100の法則

部下が伸びるマネジメント100の法則

佐々木 常夫

日本能率協会マネジメントセンター

組織人として生きる大多数のビジネスパーソンに向けて、ビジネスパーソンとして生き抜くために必要な部下育成の考え方を紹介。主に30~50代の責任ある立場や、これからその立場になる人も含めて必読の一冊です。

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