(写真はイメージです/PIXTA)

来月8日に黒田東彦日銀総裁が任期の期限を迎えます。2013年3月に総裁に就任した黒田総裁の下、日銀は同総裁が就任した直後の金融政策決定会合(以下、決定会合)において、いわゆる「異次元緩和」を導入し、およそ10年もの長きにわたって継続してきました。ニッセイ基礎研究所の上野剛志氏が異次元緩和を改めて振り返り、総括したうえでその意義について考察していきます。

2―異次元緩和の評価

異次元緩和の評価については、評価者の立場や重視するポイントによって様々ではあるが、「一定の効果はあったが、副作用も無視できないレベルで顕在化した」との見方が一般的であるように思われる。そこで、効果、副作用についてそれぞれ考えてみたい。

 

ちなみに、当事者である黒田総裁は、最後の定例会合を終えた3月10日の記者会見において、異次元緩和の評価について、「政府の様々な政策とも相まって、経済・物価の押し上げ効果をしっかりと発揮してきている」と総括している。そして、具体的な効果として、「物価が持続的に下落するという意味でのデフレではなくなったこと」、「労働需給のタイト化をもたらし、400万人を超える雇用の増加がみられるようになったこと」、「ベアが復活し雇用者報酬が増加したこと」、「経済が活性化したもとで、設備投資がかなり増進したこと」などを列挙している。

 

一方で副作用については、「様々な工夫を凝らし、その時々の経済・物価・金融情勢に応じて対処してきた」、「(副作用が)非常に累積しているとか大きくなっているとか、そういうものはあまりあるとは思わない」と適切な対応によって抑制してきたとの認識を示している。

 

1|異次元緩和の効果

1)外部環境に大きな差が存在

そこで、まず異次元緩和の効果について、異次元緩和導入直前から直近にかけての経済・物価・市場に関する主な指標の変化を見てみると(図表2)、確かに実質GDPや物価上昇率をはじめ、雇用者数や株価など幅広い指標において改善が確認できる。

 

【図表2】
【図表2】

 

ただし、それはあくまで「異次元緩和導入後の改善」であり、その全てが「異次元緩和導入による効果」というわけではない。

 

実際、異次元緩和導入後は白川総裁の時代と比べて外部環境に恵まれていたことが指摘できる。世界的な景気の方向性を示す指標であるOECDの景気先行指数について、日本経済にとって極めて重要な国である米国の指数を振り返ってみると(図表3)、指数の水準が長期平均である100を超えていた割合は、白川総裁時代で20.0%*2に留まっていたのに対し、黒田総裁時代(就任月を除く異次元緩和導入後、以下同じ)では49.6%*3に達している。白川総裁時代の大半がリーマンショックと欧州債務危機の時期にあたる一方、黒田総裁時代はその後の回復期からスタートしていることの影響が大きい。米国の景気が回復している時期が長い方が、日本の景気にとっての追い風も長く続くことになる。

 

【図表3】【図表4】
【図表3】【図表4】

 

また、これに関連して、米国の金融政策の状況も大きく異なっている。米景気が芳しくなかった白川総裁時代はスタートした時期がいきなりFRBによる利下げ局面にあたり、その後はゼロ金利政策が維持されたばかりか、3度にわたる量的緩和(QE1~3)も実施されており、任期を通じて米国の金融政策が極めて緩和的であった(図表4)。これに対し、黒田総裁時代はスタート時こそ米国が量的緩和(QE3)の途中であったものの、ほどなく量的緩和縮小(テーパリング)が開始され、段階的な利上げへと入っていった。その後、新型コロナ拡大を受けて、FRBはゼロ金利政策と量的緩和を再び導入したが、その期間は2年で終わり、再び利上げ局面に入っている。任期期間中を通じて見ても、白川総裁時代と比べて、米国の金融政策は明らかに引き締め的であった。

 

*2:60カ月(2008年4月~2013年3月)のうち12カ月。

*3:119カ月(2013年4月~2023年2月)のうち59カ月。

 

 

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次ページ2―異次元緩和の評価…1|異次元緩和の効果…2)外部環境の好転が円安・株高を増幅

※本記事記載のデータは各種の情報源からニッセイ基礎研究所が入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本記事は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
※本記事は、ニッセイ基礎研究所が2023年3月29日に公開したレポートを転載したものです。

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