「心理的安全性」は単なる甘さではない

■心理的安全性は健全な会社運営に必要な要素

心理的安全性（psychological safety）とはもともと心理学用語で「組織のなかで自分の考えや気持ちを誰に対しても安心して発言できる状態」のことです。ハーバード・ビジネス・スクール教授で組織行動学を研究するエイミー・C・エドモンドソンが1999年に提唱し、「チームのほかのメンバーが自分の発言を拒絶したり、罰したりしないと確信できる状態」と定義しています。

それを広めたのはGoogleです。社内のチームパフォーマンスを分析する「プロジェクト・アリストテレス」を立ち上げ、2015年に「心理的安全性は成功するチームの構築に最も重要なものである」と発表しました。そこから多くの企業でも一般的にも使われるようになったのです。

提唱者のエドモンドソン教授は、心理的安全性が低いときに起きる不安を以下の4つに分類しています。

1．無知だと思われる不安
2．無能だと思われる不安
3．邪魔をしていると思われる不安
4．ネガティブだと思われる不安

「なにか発言をしても、あるいはしなくても、短絡的にこのような受け止め方をされることはない」という安心感があることで、メンバーはようやく本当のことを話し始めることができます。

これらの4つの不安の結果として「不利益を被ることになる不安」というものがあります。正直に本音を開示した結果、叱られたり罰を受けたりする不安があれば、人は貝のように口を閉ざして真実を語ることはなくなるのです。

心理的安全性が会社に必要だなどというと「甘いんじゃないのか」「緩くしたら社員のタガが外れる」と思うかもしれません。しかし、心理的安全性は単なる甘さではありません。

アメリカの航空会社が飛行機事故を起こすとアメリカ航空宇宙局はパイロットに「あなたが犯した操縦ミスは本来なら30年の禁錮刑だが、罪はいっさい問わない。だから本当のことを言ってください」と伝えて司法取引をします。

そうしなければパイロットは自分の責任を追及されるので、「私は間違っていない、機体に問題があった」と主張するからです。そうすると、世界中を飛ぶ1万機以上のジェット輸送機をすべて止めて検査をしなければならなくなり世界経済が大混乱します。

この心理的安全性の重要さは、どの業種においても同じです。罪に問われることなく本当のことを言える場がないと、問題は本質的な解決には向かいません。

いちばん大切なのは部下をもつ人が組織の心理的安全性の重要度を理解し、正しく高めていくことです。勘違いされやすいのですが、組織の心理的安全性があるというのは傷のなめ合いをするぬるま湯状態でも、わがままを言いたい放題の自由気ままな放置状態でもありません。前を向いて進むことや自分の本心を開示することに対してフィアレスな（恐怖のない）状態をいいます。フィアレスの反語は忖度、予定調和、権力、ヒエラルキー、権威勾配など「発言を押さえ込むこと」です。

まずは組織のメンバー全員が、心理的安全性の高い状態を正しく理解していることが必要です。そしてそのことについて学んだり話し合ったりできる場を用意することも大切です。心理的安全性をつくれるのは、上位役職側です。経営幹部がマネージャーに対し心理的安全性の高い場をしっかりつくっておかなければ、彼らが部下に対して心理的安全性をつくることは不可能になります。

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