中国・第20回党大会の答え合わせ…経済重視の政策から変化/台湾への言及に透ける「好戦的姿勢」

中国・第20回党大会の答え合わせ…経済重視の政策から変化/台湾への言及に透ける「好戦的姿勢」
(画像はイメージです/PIXTA)

中国では2022年10月、向こう5年間の党指導部を決める5年に一度の党大会(今回は第20回で通称「20大」)が開催された。そこであらわとなったのは、経済面の不確実性、そして「戦狼外交」と呼ばれる中国の好戦的対外強硬路線だ。現状分析とともに、今後の行方を考察する。(文中人名敬称略)。

経済重視から「イデオロギー優先」へと方針転換?

中国当局の政策運営は、成長率を重視した実利的なものから、指導部のイデオロギー(意識形態)に左右される時代に入ったとみられ、「経済に悪影響が及ぶので、中国当局は〇〇しないだろう」といった「経験則」が通用しなくなった(『【中国経済、2022年の成長率】指導部は引き続き成長率を気にしつつも、垣間見える方針転換の兆候』参照)。

 

20大報告は「安全」に89回(19大では55回)、「国家安全」に26回(19大18回、18大の胡錦涛は4回)、「闘争」に17回言及する反面、これまでの党大会報告では必ず党の中心任務と位置付けられていた経済発展・改革推進はあまり強調されなかった。19大報告は「改革」や「市場」に80回以上言及していたが、20大では「改革」が16回だけだった(以上の回数は2022年10月18日、17日付ボイス・オブ・アメリカ、16日付ニューヨーク・タイムズの中国語版による)。

 

昨年末のゼロコロナ政策放棄が経済へのこれ以上の影響を回避するためだったとすれば、この仮説が覆されたことになるが、突然の方針転換はそれ以上に、社会の不安定化をもたらす抗議運動の過激化を懸念してのものだろう(抗議運動が過激化する直前まで、すでに経済に悪影響が出ているにもかかわらず、当局は清零政策堅持を主張していた)。元来、①経済発展→②社会安定→③党による統治の安定的維持確保という思考だが、②、③は変わらないものの、経済発展、豊かさがある程度の水準に達したことで、①と②のリンクは弱まっているという言い方もできるのではないか。

 

20大直前または開会中に予定されていた貿易統計や経済実績の発表が何の説明もなく突如延期され、20大後に一挙に発表されたことも(おそらく先例なし)、経済軽視の傾向を象徴している。ただ、優先される「意識形態」とは具体的に何か判然としない。

 

理論武装は新政治局委員で黄坤明(20大で政治局委員に選出され、広東省書記に転出)の後を継いで党中央宣伝部長となった李書磊(元中央党校副校長)が担当するとの観測がある。李は中国の歴史や伝統文化に明るく、幼少期は「神童」と言われた人物。マルクス・レーニン主義と中国的要素を融合させた「習近平新時代中国特色社会主義思想」を標榜する習の思惑に合う人材とみられている。

 

李の同僚だった元中央党校教授(現役時に習批判をし米国に亡命)によると、李は元来、民主的で開明的な考えを持つ人物だが、昇進とともに次第に当局寄りの発言しかしなくなり、現在内心でどの程度開明的な部分が残っているか不明という。

 

20大直後の市場では、香港ハンセン指数が6.4%下落し2008年金融危機以来の低水準、米国では中国株が軒並み10%を超える下落。人民元相場も下落傾向が加速した。海外投資家が20大の結果から、中国市場を巡る不確実性が増したと受け止めていることが明らかになった。他方、国内投資家は20大結果を予想通りと受け止めてか、上海、深圳の株価は2~3%の下落に留まった。

台湾への言及、戦狼外交の行方

20大報告の台湾への言及は基本的にはこれまでと変わらないものの、最も強いラインが前面に出された。

 

発表された報告全文には「92年共通認識(九二共識)や1国2制度(一国両制)を基本として」という従来の文言があるが、習は実際の演説でこれらを省略し、もっぱら外からの介入をけん制する部分を強調。また演説では当該部分で24秒というおそらく演説中最も長い拍手が起こったが、拍手は当然当局によって事前にアレンジされていると考えられ、そうとすると、この部分に対する習の思い入れがうかがわれる。党章改正では初めて「台(湾)独(立)に断固反対し、これを抑え込む」との文言を挿入。台湾国立政治大学の外交専門家は、今まで言われてきたことで何ら中国の対台政策の変更を意味するものではないが、党の方針として「正式化」されたことで威嚇は強まると警戒している。

 

20大報告の外交部分総論は「経済グローバル化推進」「冷戦思考反対、覇権主義反対」など、これまで習政権が唱えてきたもので新味はないが、中国を巡る外部環境の不確実性がかつてないほど増大していること、また外交も含め20大報告全体にわたって「闘争」が一段と強調された。

 

「習近平……思想」を「習近平思想」という簡略化した名称にして「毛沢東思想」と並ぶ位置付けにすることは実現せず(中国では歴史的に「〇〇主義」を除くと、名前を冠した「〇〇思想」がもっとも格が高く、次いで鄧小平にみる「〇〇理論」、その下が名前を冠さない江沢民の「3つの代表」、胡錦涛の「科学発展観」)、「2つの確立」も党章に入らなかった。また、「領袖」や「党主席」復活もなかった。

 

これらはいずれも習が画策していたとの憶測があり、仮にそうとすると、実現しなかったことは、なお反習勢力が完全には消えてはいないことを示唆している。

 

20大後、国務院(トップ李克強)、全人代(同、栗戦書)、政治協商会議(同、汪洋)による恒例の「党大会精神学習会」が開催されたが、全人代と政治協商会議が「20大精神を貫徹」など習礼賛に終始したのに対し、国務院は「揺ぎなく改革開放、社会主義市場経済を推進」とトーンが異なり、会議を伝えた中央電視台(CCTV)は各々トップが会議を主宰したと報道したが、李の映像だけはなかった(本当は主宰していなかったのではないかとの疑念がある)。習が外部環境の不確実性や「闘争」をことさら強調する背景には、なお存在する反習勢力を封じ込め、自らの求心力をさらに高めようとする狙いがあるのではないか。

 

20大期間中の記者会で、外交部幹部は「習外交思想に依拠し、敢然とまたうまく(敢于善于)闘争し続ける」と明言。王滬寧(常務委員留任)に変わってイデオロギーや教宣活動を担当するとの噂がある丁薛祥は20大直後、人民日報に6000字を超える「20大精神を学習し貫徹する」との論文を発表し、「団結」に77回、「闘争」に27回も言及。

 

また11月、習はインドネシアバリ島でのG20会議出席のため外遊した際、カナダのトルドー首相と短い非公式の会談を行ったが、その後、内容が新聞にリークされたとして、「誠意を持ち互いを尊重して話し合いをしなければ、結果は言い難いものになる(結果就不好説了)」とトルドーを「脅した」動画が公になり、中国の戦狼外交にいささかの変化もないとの見方が諸外国に広がった。「自由でオープンな議論を尊重している」と反論したトルドーについて、その後、習が周りに「なんとナーバスな(很天真)奴」と言う声がはっきり聞こえたという。

 

(出所)2022年11月17日付海外華字誌自由亜州電台 (注)「不合适!!」は「不適切!」、「战狼队」「队长」は各々「戦狼隊」「隊長」。
 (出所、注)2022年11月17日付海外華字誌「自由亜州電台」。「微笑しながら噛みつく」と題して掲載。「不合适!」は「不適切!」、「战狼队」「队长」は各々「戦狼隊」「隊長」。

 

次回の本連載第4回では、戦狼外交の行方についてさらに検討するとともに、政権承継を巡る不確実性の増大を取り上げる。

 

 

金森 俊樹

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