(画像はイメージです/PIXTA)

中国では2022年10月、向こう5年間の党指導部を決める5年に一度の党大会(今回は第20回で通称「20大」)が開催された。20大前に流れた様々な憶測を改めて点検したうえで、20大結果の意味、今後の中国の政治、経済、外交などに与える影響を探る(文中人名敬称略)。

覆された事前の「習下李上」憶測

20大の1年以上前から、中国語ネットワーク上では「蛛丝馬迹」、つまり蜘蛛の糸や馬の足跡を探すように、指導部の発言や官製メディア報道の微妙な変化に着目して、人事面を中心に様々な憶測が流れた。習近平党総書記が異例の3期目続投を果たすかどうかが焦点となり、その中で、2022年に入り以下のような現象を根拠に、習が退任し李克強首相が取って代わるという「習下李上」の憶測が台頭した。

 

①李は以前から、習が進める厳しいゼロコロナ政策が経済に及ぼす影響を懸念する発言を繰り返していたが、中でも、上海での都市封鎖(封城)後の5月、約10万人の地方幹部をオンラインで集めた空前の大規模会議を主宰し、景気減速を止めるため、できることはすべてやるよう指示。

 

②恒例の北戴河会議(通常8月初旬頃、河北省避暑地の北戴河で現役幹部と長老が集まり開催される秘密会議)の前後から李の活動が活発になり、人民日報など官製メディアもそれを大きく報道。

 

③北戴河会議が終了した直後と思われるタイミングで、習は東北部を訪れ、「国こそ人民、人民こそ国(江山就是人民、人民就是江山)」など、以前から好むフレーズを強調。対照的に同時期、李は鄧小平の南巡講話の重要拠点だった広東省の深圳などを視察し、「改革開放を揺ぎなく堅持(亳無動揺、堅定不移)」と発言し、対抗姿勢を鮮明にした。

 

しかし以下から、「習下李上」は反習勢力の希望的観測にすぎず、習続投は確実とする見方が支配的だったように思われる。

 

①経済担当の国務院(政府)の長として、李が経済への影響を懸念するのはごく自然。

 

②李の前任の温家宝元首相も、退任前に言動が活発になる現象がみられた。

 

③李は退任前に、自分の考えは習とは違うことを内外に示しておきたかっただけ。

 

④特に北戴河後、李のメディア露出が多くなったのは、同会議で習陣営と反習陣営との間で人事面の妥協が成立したため。妥協の内容はおそらく、李と汪洋を留任、胡春華を政治局常務委員入りさせる代わりに、習の党における核心的地位と、その思想の指導的地位の「2つの確立」を党規約(党章)に盛り込むというもの。

 

党政治局は8月末に20大の開催日程を公表。中国では以前から、「小さな事で大きな会議を開き、大きな事で小さな会議を開く(小事開大会、大事開小会)」、「特に重要な問題がある時は会議を開かない(特別重要的事不開会)」と揶揄されてきた。開催日程が公表されたことは、すでに人事が確定したことを意味するとみられた。

 

20大直前の9月下旬、党中央弁公庁は2015年に発出された「指導幹部登用免職(能上能下)推進規定」を修正。習の思想を指導方針にすることをより強調すると同時に、退職年齢や任期制限に言及した客観基準(旧規定5、6条)を削除し、「免職問題解決が重点」として、能力不足や理想信念の揺らぎ、職務に対するコミットメント不足など15の職務不適格事例を定性的に列挙。20大で習が自らの処遇も含め恣意的な人事を行うことを可能にするとともに、反習陣営に人事面で圧力をかけたとの見方が強まった。

 

20大直後に開かれた第20期党中央委員会全体会議(一中全会)は習総書記3期目を承認。事前の「習下李上」憶測は覆された。

 

(注)有名な米国映画「バック・トウ・ザ・フューチャー(回到未来)」を標題に、「強人統治への回帰は過去10年の国内抑圧と対外敵視を想起させる」として掲載。 (出所)20大直前の2022年10月13日、海外華字誌自由亜州電台。
[図表]「強人統治」への回帰 (注)有名な米国映画「バック・トウ・ザ・フューチャー(回到未来)」を標題に、「強人統治への回帰は過去10年の国内抑圧と対外敵視を想起させる」として掲載。
(出所)20大直前の2022年10月13日、海外華字誌自由亜州電台

 

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