(画像はイメージです/PIXTA)

予期せぬ別れに直面したとき、人は何を思い、どう乗り越えるのか。書籍『もう会えないとわかっていたなら』(扶桑社)では、遺品整理会社、行政書士、相続診断士、税理士など、現場の第一線で活躍する専門家たちから、実際に大切な家族を失った人の印象深いエピソードを集め、「円満な相続」を迎えるために何ができるのかについて紹介されています。本連載では、その中から特に印象的な話を一部抜粋してご紹介します。

 

「お金をかけられない」なかでの葬儀

意外かもしれませんが「いいお葬式」とは、「笑顔の多いお葬式」だと思っています。

 

私は仕事柄、とても多くのお葬式に携わっています。その中で気がついたことは、泣いている人が多いお葬式には笑顔がつきものだということです。故人を偲ぶ人が多く集まれば、悲しみの涙はやがて笑顔に変わるのです。

 

悲しみの涙で終わるお葬式より、温かい笑顔に包まれたお葬式のほうが私の心には強く残っています。

 

あるとき、一件の葬儀の担当となりました。働き盛りの一家の大黒柱を亡くしたご家族でした。どのような葬儀にしていくのか相談するため、プランと料金表を提示して奥さんに説明しました。

 

「他のプランはありませんか? お恥ずかしい話、あまりお金をかけられなくて……」

 

ご主人が倒れ、闘病生活が始まったのが三年前。収入が激減するなか、入院治療費も嵩みました。その上、三人の男の子を育てているのです。

 

葬儀会社が選べるプランを用意しているのは、ご遺族のためでもあります。家族を失った悲しみを背負いながら、葬儀の内容を一つ一つ決めていくことは難しい。葬儀は儀式ですからある程度決まった形があります。その形に添うのであれば、プランから選んでしまったほうが精神的な負担も少ないでしょう。

 

「正直、お坊さんを呼ぶお金も用意できないと思うんです」

 

奥さんは、今あるプランのなかから、外せるものを外していくことで、できるだけ費用を抑えようと考えているようでした。

 

「子どもたちもいますし、親族や会社の人たちも集まりますから、できればあの人をちゃんと送ってあげたいとは思ってるんです。でも……」

 

そのお気持ちがあるのなら、大丈夫だと思いました。私は奥さんにある提案をしました。

 

「葬儀の形にとらわれないで、ご家族の手作りでご主人を送ってあげてはいかがですか?」

 

いつの頃からか、葬儀の合間に故人の趣味や功績などを紹介する『思い出コーナー』を入れ込むことが増えていました。

 

「葬儀のすべてを『思い出コーナー』として、参列者に故人を偲んでもらうんです」

 

「そんなこと……しても大丈夫なんでしょうか?」

 

形式的なことから外れるのです。奥さんの不安もよくわかりました。ですが、葬儀に決まりはありません。故人と遺族が満足できるのであれば、どんな形だって構わないのです。

 

この方法であれば遺族や参列者の宗派も問わないし、儀式的なことが少ないため、葬儀の時間を故人を偲ぶ時間に充てられます。

 

そこからはご遺族、とりわけ三人の子どもたちが頑張ってくださいました。高校二年生、中学三年生、中学一年生の男の子たちです。彼らは家に戻り、父親の遺品の中から、思い出に残る写真や物をたくさん持って葬儀場に集まりました。それを一つずつ、飾っていくのです。

 

 

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※本連載は、2022年8月10日発売の書籍『もう会えないとわかっていたなら』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございます。あらかじめご了承ください。

もう会えないとわかっていたなら

もう会えないとわかっていたなら

家族の笑顔を支える会

扶桑社

もしも明日、あなたの大切な人が死んでしまうとしたら──「父親が家族に秘密で残してくれた預金通帳」、「亡くなった義母と交流を図ろうとした全盲の未亡人」、「家族を失った花屋のご主人に寄り添う町の人々」等…感動したり…

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