(画像はイメージです/PIXTA)

予期せぬ別れに直面したとき、人は何を思い、どう乗り越えるのか。書籍『もう会えないとわかっていたなら』(扶桑社)では、遺品整理会社、行政書士、相続診断士、税理士など、現場の第一線で活躍する専門家たちから、実際に大切な家族を失った人の印象深いエピソードを集め、「円満な相続」を迎えるために何ができるのかについて紹介されています。本連載では、その中から特に印象的な話を一部抜粋してご紹介します。

 

「仲の良い家族」からの相続の相談

その相続の相談は、亡くなられた方のお孫さんからのものでした。祖父が亡くなったのだが、何からどう手を付けてよいかわからないので、もともと知り合いだった私にアドバイスをしてほしいというのです。

 

たまたま私がフィナンシャルプランナーで相続に詳しいことを知っていたからでした。葬儀が一段落ついたころ、私は亡くなられた方の家を訪ねました。

 

相続の相談で、最初にお宅にお邪魔するときは、いつも緊張します。そこがどんな家で、どんな人たちが揃っているのかわかりませんし、親族が揉めることも多いからです。

 

ところが、私の心配を余所にその家はとても穏やかで、すぐに家族の仲の良さがわかりました。玄関からリビングに通されるまでの短い間で、家族間の会話がとても多く、リビングの隣の部屋に置かれたご主人の遺骨には立派な花が活けられ、お線香も絶やされていないようでした。家族仲の悪い家ではこうはいきません。

 

亡くなられたのは一部上場企業の重役だった方でした。この家には奥様と二人で住み、長男家族が近所に、少し離れたところに長女家族が住んでいます。私に依頼をしてきたのは長男の娘さんになります。

 

法定相続人は配偶者である奥様と、子どもである長男・長女の三人です。遺産はいくつかの金融資産の他に、軽井沢の別荘や二つのゴルフ会員権などがありました。

 

「親父の遺産は、全部母さんが相続すればいいと思ってるんだけどね」

 

長男が言うと、それに長女が「私もそれでいいと思ってるわ」と、続きます。長男も長女も、父親が残した財産は、母親がともに築いたものだと考えていて、それは苦労をともにしてきた母親がすべて相続するのが相応しいと思っていたのです。奥様も「子どもたちがそれでいいなら」とそれを受け入れているようでした。

家族の誰も知らなかった遺言書の存在

相続人の総意ですから、話はまとまったかのように見えましたが、ことはそう簡単には進みませんでした。この時までに、ご主人が残した遺言書が見つかっていたのです。

 

遺言書はご主人の書斎から見つかったそうです。書斎にはご主人が家族の大切なものを整理している棚があり、そこに置かれた大きな封筒に遺言書が入っていたのです。封筒には一緒に、長女が大学を卒業するときに写した家族写真が収められていたといいます。

 

ご主人が遺言書を残していることは、家族の誰も知りませんでした。しっかりと封のされた遺言書です。

 

相続人が揃っているわけですから、そこで開けてしまっても良かったのですが、法律的な手順としては家庭裁判所での検認が必要になります。ご遺族の希望もあり、その遺言書は家庭裁判所に検認の申し立てをすることになりました。

 

次ページ遺言書の内容

本連載は、2022年8月10日発売の書籍『もう会えないとわかっていたなら』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございます。あらかじめご了承ください。

もう会えないとわかっていたなら

もう会えないとわかっていたなら

家族の笑顔を支える会

扶桑社

もしも明日、あなたの大切な人が死んでしまうとしたら──「父親が家族に秘密で残してくれた預金通帳」、「亡くなった義母と交流を図ろうとした全盲の未亡人」、「家族を失った花屋のご主人に寄り添う町の人々」等…感動したり…

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