(※写真はイメージです/PIXTA)

2013年、「いじめ防止対策推進法」が施行されましたが、残念ながら十分な効果をあげているとはいえないようです。いじめはなぜなくならないのでしょうか。ジャーナリストの岡田豊氏が著書『自考 あなたの人生を取り戻す不可能を可能にする日本人の最後の切り札』(プレジデント社、2022年2月刊)で解説します。

学校がいじめと認めたのは3年4カ月後

■「いじめ」は違法行為か人権侵害、あいまいな言葉

 

文部科学省が2020年に公表した小中高・特別支援学校で認知されたいじめの件数は61万2496件。児童・生徒100人当たり4.65件です。これは学校が認知した件数なので、実際はもっと多いと推測されます。今、この瞬間も苦しんでいる子どもたちが大勢います。

 

「いじめ」という言葉。あいまいだと思いませんか。なぜ、このあいまいな言葉を使い続けるのでしょうか。学校や行政や大人たちが責任を回避しやすくするためでしょうか。「いじめ」と言うよりも、犯罪、違法行為、条例違反、人権侵害、ハラスメントと言った方が事態を忠実に表していないでしょうか。

 

いじめの大半は、犯罪、違法行為、条例違反、人権侵害、ハラスメントだと思います。そもそも、2013年9月に施行された「いじめ防止対策推進法」は第4条で「児童等は、いじめを行ってはならない」と定めました。いじめは明らかな違法行為です。

 

加害者も被害者も、このことをしっかり覚悟し、自覚した方がいい。発想の転換が必要です。いじめのせいで、教育が受けられなければ、教育を受ける権利を定めた憲法に反するといった話にもなりかねません。

 

「いじめ」問題を解決、抑止するために、次の2点を提案します。

 

①「いじめ」という、あいまいで無責任な言葉は基本的には使わない。

 

② 学校における「いじめ」という犯罪行為、違法行為、人権侵害などに対しては、状況に応じて警察など地域の関係機関と柔軟に連携し、毅然と対処する。

 

2015年11月。茨城県取手市で市立中学3年の中島菜保子さん(当時15歳)が自殺しました。

 

菜保子さんの両親は自殺の数日後、自殺といじめの因果関係について調査を求めましたが、取手市教育委員会は自殺と伝えないまま、生徒にアンケートなどを実施。「いじめはなかった」と結論づけました。学校は教育委員会には「自殺を図った」と報告しましたが、教育委員会は当初、生徒や保護者などに自殺と伝えない方針を決めていたそうです。

 

学校や市教育委員会は自殺の事実を隠蔽しようとしていました。「いじめはなかった」としていた市教育委員会がいじめを認めたのは2017年になってからでした。2017年8月、当初の調査を担当していた職員が菜保子さんの両親に謝罪しましたが、母親は無念の思いを拭ぬぐうことができません。

 

2019年3月、茨城県の調査委員会は「同級生から受けたいじめと自殺に因果関係がある」と認め、早期にいじめ防止対策推進法に基づく調査委員会を設置しなかった市教育委員会の対応を違法だと主張する報告書を公表しました。

 

「娘の訴えが受け入れられた。やっとたどりついた」

 

菜保子さんの両親はこう語りました。

 

菜保子さんの自殺から、3年と4カ月近い月日がたっていました。教員と学校、教育委員会など大勢の教育者たちが、大切な生徒の自殺を食い止められなかったばかりか、いじめとの関連を自ら明確にできませんでした。これは必ずしも特異なケースではないと思います。

 

次ページ警察の介入は必ずしも教育の放棄ではない

本連載は、岡田豊氏の著書『自考 あなたの人生を取り戻す不可能を可能にする日本人の最後の切り札』(プレジデント社、2022年2月刊)より一部を抜粋し、再編集したものです。

自考

自考

岡田 豊

プレジデント社

アメリカでの勤務を終えて帰国した時、著者は日本は実に息苦しい社会だと気付いたという。人をはかるモノサシ、価値観、基準の数があまりにも少ない。自殺する人があまりにも多い。笑っている人が少ない。他人を妬む。他人を排…

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