花粉症などが急増…「免疫系の病気になる人、ならない人」の“意外な差”が分かってきた【医師が解説】

マイクロバイオータと「21世紀病」 〜アレルギーや自己免疫疾患〜

花粉症などが急増…「免疫系の病気になる人、ならない人」の“意外な差”が分かってきた【医師が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

最近、テレビCMなどで「腸内フローラ」という言葉をよく聞くようになりました。しかし腸内フローラとは一体何か、どのような役割を果たすのかまでご存じの方はそう多くないでしょう。腸内フローラとは、腸内に存在する細菌叢(人体の内側や外側にいるあらゆる微生物の集合体)のことで、別な用語で「マイクロバイオータ」と言います。腸内のマイクロバイオータは、最新の研究により、肝臓や腎臓に匹敵するくらいの「重要な臓器」の一つであると捉えられるようになってきました。具体的に、私たちの健康にどれほど重要な役割を果たしているのでしょうか? ここでは21世紀になってから急増している疾患を例に解説していきます。※本連載は、小西統合医療内科院長・小西康弘医師による書下ろしです。

【関連記事】腸内フローラが「個人の体質・健康状態」を決めるという衝撃

マイクロバイオータの働き

マイクロバイオータのゲノム(遺伝子)解析が可能になり、研究が進むにつれて、マイクロバイオータは、ヒトが本来持っていないさまざまな機能を補助してくれていることが分かってきました。その主なものを【図表】に示します。

 

【図表】マイクロバイオータの働き詳しくは【関連記事:腸内フローラが「個人の体質・健康状態」を決めるという衝撃】を参照

 

ヒトは、このような多くの機能をマイクロバイオータに依存しているということです。進化の過程でこれらの機能を自前で得ようとすれば、とてつもなく長い時間がかかるでしょう。腸管内のマイクロバイオータと共生することで、時間を節約することができているということかもしれません。

 

調べれば調べるほど、マイクロバイオータの果たしてくれている役割は大きいことが分かります。ではこれらの機能が低下するとどうなるのでしょうか?

 

自分が持たないさまざまな機能をアウトソーシングしているようなものですから、その委託先が機能不全を起こせば、私たちの体調にも大きな影響を与えることは想像に難くありません。

 

近年、遺伝子解析技術の進歩により、多くの慢性疾患がマイクロバイオータのバランスの乱れによって起こっているという科学的証拠が続々と出てきています。私たちが、遺伝子の欠陥や体質のせいだから仕方ないと思ってあきらめている病気の多くが、実はそうではなく、マイクロバイオータの働きを軽んじたせいで出現した新しい病態だということです。

 

今回から数回にわたり、このような観点のもと、21世紀になってから急増している疾患について見ていくことにしましょう。

「21世紀になってから急増している疾患」とは?

花粉症や喘息、アトピー性皮膚炎などのアレルギー性疾患、肥満症やがん、糖尿病、心筋梗塞や脳梗塞など。さらには自閉症、うつ症状、過敏性腸症候群や炎症性腸疾患など、21世紀に入ってから急増している疾患があり、これらを「21世紀病」と呼ぶ人もいます。

 

上記の疾患は開発途上国ではあまり見られないことが特徴で、発症には、欧米式の生活習慣や食事習慣、あるいはさまざまなストレスが関係していると考えられています。そして、もう一つの要因として、マイクロバイオータが重要な関与をしていることが分かってきたのです。

 

21世紀になってから急増している病気のうち、まずはアレルギー性疾患や自己免疫疾患について見ていきましょう。

アレルギー性疾患、自己免疫疾患の「異様な増加ぶり」

読者の中にも、最近になって花粉症がひどくなってきたという方も少なくないのではないでしょうか。温暖化現象による気温の上昇や、樹齢の増加が花粉量を増やしているからではないかと推測されていますが、統計学的にはそれだけで花粉症の増加を説明することはできません。

 

花粉症に限らず、それ以外の気管支喘息、アトピー性皮膚炎、食物アレルギーなどを含めると、日本の全人口の2人に1人は何らかのアレルギー性疾患を持っているのではないかと言われています(2011年 リウマチ・アレルギー対策委員会報告書による)。

 

また、免疫系が暴走して自分自身の細胞まで攻撃してしまう自己免疫疾患に苦しむ人は、先進国では人口の10%近くに達していると言われています。

 

たとえば、1型糖尿病は、インスリン(=血糖を下げるホルモン)を分泌する細胞を破壊してしまう自己免疫疾患ですが、その有病率は、日本では10万人当たり90人であると言われています。欧米では10万人あたり400人であると言われており、かなりの有病率の高さです。しかし、ここまで高くなったのは最近の話で、19世紀にはほとんど見られませんでした。

 

小麦を含む食品を摂取すると免疫系が小腸細胞を攻撃してしまう「セリアック病」があります。日本ではほとんど見られませんが、欧米では、1950年代と比べて30倍から40倍に増えています。このような急激な増加率はどう考えても異常です。

 

これらのアレルギー性疾患、自己免疫疾患が急増した原因は、いくつかの要因があると考えられますが、マイクロバイオータの変化もその一つであることが分かっています。

マイクロバイオータの異常は「免疫の異常」にほぼ直結

どちらの疾患も免疫の異常が原因で起こりますが、マイクロバイオータは一般に考えられている以上に免疫系を支配しているのです。

 

腸内細菌が健康なら、免疫もまた良好な状態にあると思われます。しかし、腸内細菌が不健康だと、アレルギー性疾患や自己免疫疾患を発症するリスクが高くなるのです。特に、消化管と密接な関係がある食物アレルギーはマイクロバイオータの状態に大きく影響されます。

 

食物アレルギーの有症率は、きっちりとした疫学的研究がないのですが、年々増加傾向にあり、2016年の報告で乳児が5〜10%、幼児が約5%、学童が4.6%と報告されています。原因食物は鶏卵、牛乳、小麦が多いのですが、年齢ごとに原因食材の割合は変わり、幼児期は魚卵、ピーナツ、学童期になると甲殻類、果物、魚類などが新たな原因に加わります。

 

これらの免疫系に関わる病気が、なぜ今これほどまでに多く見られているのでしょうか?

 

現代人は有毒な化学物質や食品添加物、環境汚染物質などにさらされるからだとか、これまでに経験したことがないようなストレスが日常的にかかり続けるからだと言う人がいます。

 

それとは別に、アレルギー急増の原因にはマイクロバイオータの組成が変わったことが関係していると示す証拠が次々に発表されています。アレルギーのある乳児の腸内にコロニーを作っているマイクロバイオータを調べたところ、健常な子と比較して菌種が少なく多様性が消失していたのです。マイクロバイオータの多様性の消失や組成の変化は、それ以外の疾患にも共通して見られる現象です。

 

もちろん、関連性があるということと原因になっているということは別です。マイクロバイオータの異常はさまざまな症状の原因になっていることを示すためには、検証が必要ですが、マイクロバイオータと免疫系の相互作用がアレルギー性疾患や自己免疫疾患の原因であることを示す証拠は多く発表されています(*文献1~3)。

 

<*引用文献>

1 C. S. Mendez, S. M. Bueno and A. M. Kalergis. “Contribution of Gut Microbiota to Immune Tolerance in Infants.” J Immunol Res, Volume 2021, Article ID 7823316

 

2 K. Jungles, T. D. B. Tran, M. Botha, H. E. Rasmussen, V. Teixeira-Reis, E. Sodergren, et al. “Association of gut microbiota and environment in children with AD, comparison of three cohorts of children.” Clin Exp Allergy, 2022 Vol.52 Issue 3, Pages 447-450

 

3 Herbst, T., et al. “Dysregulation of Allergic Airway Inflammation in the Absence of Microbial Colonization,” Am J Respir Crit Care Med, 184.2(2011):198-205.

腸内のマイクロバイオータは免疫系全体の“最高司令官”

免疫機能を司る免疫細胞は、その総数の60〜70%は腸管に存在します。腸管上皮の粘膜下層というところに存在し、腸管に入ってくる食物(身体にとっては異物)などを、栄養素として吸収するものと、不要なものとして便に排出するものに「仕分け」をしています。

 

ある物質に対して、身体に取り入れるか異物として排除するかは、非常に微妙な調節が必要です。食べ物のような無害な異物とサルモネラ菌のような有害な異物とを区別するのは、この免疫の調節機能によるのです。

 

この調節が強くなりすぎると拒絶反応が強くなり、花粉や食物に対してのアレルギー症状が現れます。それが私たちの身体自身をも攻撃するようになれば自己免疫疾患になるわけです。腸内のマイクロバイオータは、免疫系全体の感度(応答性)を調整するつまみと考えることができます。

 

そして、この「つまみの調節」という大切な仕事を担うのがTレグ細胞(制御性T細胞)と呼ばれる免疫細胞の一種であることが分かってきました。Tレグ細胞が少ないと免疫反応が強くなり、自己免疫、炎症性腸疾患、がんなどに発展することもあります。

 

そして最近になって驚くべき事実が明るみに出ました。Tレグ細胞に命令を出している最高司令官はマイクロバイオータであることが分かっています。マイクロバイオータの一部の菌に、腸内のTレグ細胞を増やす働きがあることを発見したのは日本人です(*文献4)。慶應義塾大学の本田賢也教授のところの仕事です(⇒慶応義塾研究者情報データベース https://k-ris.keio.ac.jp/html/100002321_ja.html)。

 

<*引用文献>

4 Atarashi, K., et al. “Treg Induction by a Rationally Selected Mixture of Clostridia Strains from the Human Microbiota,” Nature 500, 7461(2013): 232-36.

 

クロストリディウム菌という菌種は、腸管の中でも一番多い嫌気性菌の一つですが、粘膜下層のTレグ細胞に働きかけて、免疫作用が過剰に働きすぎないようにつまみを調節するメッセージも出しているのです。

 

マイクロバイオータと粘膜下層の免疫細胞とは頻繁にメッセージのやり取りをしていることが分かってきており、「クロストーク」と言われています。

 

この微生物と免疫系間の「対話(クロストーク)」によって、人体は、食べ物のような無害な異物とサルモネラ菌のような有害な異物とに対して、免疫系が異なる反応を示すように調節されます。マイクロバイオータはこの区別ができるように免疫系を訓練しているのです。

 

マイクロバイオータのバランスの乱れ(ディスバイオーシスと言います)によって、免疫系と腸内微生物との間のクロストークがうまくいかなくなると、腸管の免疫系を調節するつまみがうまくいかなくなり、ひいては全身の健康状態が悪化します。

 

司令塔からの信号が誤って解釈され、免疫系は過剰な反応を起こしてしまう可能性があります。その結果、免疫細胞が体内の無害な部分まで攻撃する自己免疫反応が起きるのです。

 

免疫システムは言うまでもなく、私たちの身体の恒常性(ホメオスターシス)を維持するために非常に重要なシステムです。このバランスが崩れることでさまざまな慢性疾患を起こします。アレルギー性疾患や自己免疫疾患に限らず、マイクロバイオータが乱れることでがんになりやすくなることも指摘されています。

 

 

今回はアレルギー性疾患、自己免疫疾患を例に挙げて、マイクロバイオータと慢性疾患がいかに密接に関係しているかということを説明しました。次回は、さまざまな慢性疾患の原因となる肥満症とマイクロバイオータの関係についてお話しします。腸管のマイクロバイオータの乱れは栄養の吸収率にも影響を与え、免疫だけではなくがんの発症や動脈硬化とも密接に繋がっているのです。

 

 

小西 康弘

医療法人全人会 小西統合医療内科 院長

総合内科専門医、医学博士

 

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