(※写真はイメージです/PIXTA)

※本連載は寺嶋直史氏、齋藤由紀夫氏の共著『スモールM&Aのビジネスデューデリジェンス実務入門』(中央経済社)より一部を抜粋・再編集したものです。

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時代を生き抜く企業は「変化してきた」という共通点

帝国データバンクの調査(TDB景気動向調査〔2015年6月〕)でユニークな調査発表がありました。創業時期から「本業」が変化しているかどうかを調査したもので、約半数の企業が「本業」が変化しているとの調査結果が出ました。また、歴史ある優良企業こそ、変化を柔軟に取り入れていることがわかりました。

 

とはいえ、革新的な「イノベーション」が必要というわけではありません。今ある事業を少し手直しして変化を加える不動産の「リノベーション」のようなもので十分です。中小企業のイノベーションで本業をシフトしつつ成功した事例を紹介します。

中小企業における事業リノベーションの実例

①和傘製造会社

日本では長い歴史の中で和傘が使われてきましたが、昭和35年(1960年)頃にポリエステル製の傘が世に出てから市場が一気に奪われ、和傘のニーズが激減し、5代目の当主が継いだ時の売上は年間数百万円まで落ち込んでいて廃業寸前でした。ある時、太陽に透ける和傘の美しさにヒントを得て照明器具として開発したところ、海外バイヤーの目に止まり、今では高級ホテルや商業施設で使われています。

 

②テレマーケティング会社

新規アポイントを電話で獲得するサービスを代行していましたが、その後、インターネットを活用した集客代行に移行し、さらに法人営業をサポートするサービスを開発して、複数のメディアを運営する企業に成長しました。変化のスピードを上げて拡大して中小企業から脱却し、2016年に東証マザーズに上場しています。

 

③文房具販売会社

総務との接点により購買担当の負担を減らすことにニーズがあることに気づき、プラットホームを提供し成長しました。現在では総務のコンサルタント事業に進出しています。

 

④解体工事事業

解体工事をすれば、必ず廃棄物が大量に発生します。産業廃棄物処理は許認可事業でもあり、独特のルールがある業界であるため、M&Aで参入して周辺ビジネスを取り込むことができた事例です。

 

⑤電気工事事業

エアコンの取り付け、廃棄の仕事が増えてきたことから、まだ使える中古エアコンが廃棄されていることに気づきました。中古エアコンの買取業者として会社の立ち位置を変えることで、電気工事事業の引合も増え、相乗効果が出ました。

 

⑥不動産販売

公務員や医師へ投資用不動産を販売している中で、医療・教育関連のM&A案件情報が入ってくるようになり、飛び地である健康診断・クリニックビジネス、専門学校などの経営に乗り出して大きな成功を収めています。

 

⑦工業用金型製造業

金型設計の歴史ある企業ですが、徐々に菓子パッケージ製造などに業態をシフトさせていきました。また、本来は時代遅れといわれる木型職人の技術を、きめ細かいニーズに対応できるコンサルタント型営業としてブランディングしました。最近では、フェイスシールドのような新商品を開発し、メディアでも取り上げられています。

 

[図表2]中小企業における事業リノベーションの実例

現在「業界トップの大企業」が大企業たる“ゆえん”も…

前項では中小企業の事例を紹介しましたが、今では業界トップの大企業も、スタートは例外なく中小零細企業、ベンチャー企業でした。どこで差別化を図り、ターニングポイントを迎え事業をリノベーションしたのでしょうか。なお、各企業の転換期については、筆者独自の視点となります。

大企業における「転換点」と「リノベーションの実例」

①朝日新聞

不動産事業の歴史は古く1929年には不動産会社を設立しています。90年後、2019年の決算では、全体利益の大半は不動産賃貸業から発生しています。所有不動産も大阪は中ノ島、東京は有楽町と優良物件ばかりです。確固とした不動産収益があるからこそ、販売部数が激減しても良好な財務内容を維持していることが理解できます。

 

②トヨタ

1933年、現在の(株)豊田自動織機の中に設立された新規事業部門である「自動車部」がトヨタ自動車のスタートです。創業者の発案ではなく、後の大同メタル工業(東証一部)の創業者である川越氏の発案、説得があったということもユニークなエピソードです。

 

③イオン

1758年、着物やクシ、かんざしの小物販売からスタートしています。徐々に取扱品目を増やし、高度成長期後半に業務提携先3社で立ち上げた「共同仕入」会社(初代ジャスコ)が大きな転換期だったと考えます。仕入を強化し、低価格路線を打ち出し、M&A等を活用しながら現在の地位を築いた経営力は小売業界では特出しています。

 

④野村証券

1872年に初代野村徳七が両替商「野村商店」を開業、2代目徳七が銀行業、証券業へ乗り出しました。成長の転換期は何度もありますが、筆者は1906年に創設した経済情報誌「大阪野村商報」にあると感じます。その後、第二次世界大戦中は「戦費」調達の中枢機関として機能しました。現在でも情報力、営業力で他の証券会社を圧倒するのは、このような歴史があるからかもしれません。

 

⑤資生堂

1872年に開業した「調剤薬局」がスタートです。調剤薬局から化粧品メーカーに進出する第一歩目となる自社商品は、意外にも「育毛剤」でした。その後、練ハミガキ、化粧水と拡大路線に入りますが、これが大きな転換期であったことは間違いありません。

 

⑥オリックス

1964年にリース会社として創業。現在は銀行・保険・不動産・環境等など10以上の事業ポートフォリオを見事に実現しています。多角化戦略の転機は1986年の野球球団買収の前後です。同時に社名から本業の「リース」を外し、証券・生命保険・信託銀行などをM&Aにてグループ化し、現在では連結会社が900社を超える事業投資会社へと成長し変革を続けています。

 

⑦楽天

1997年に現在の会長である三木谷氏が創業。楽天の成長エンジンはM&Aです。特に金融事業におけるM&Aは見事です。2003年にあおぞらカード、2005年に国内信販を傘下に収め、カード、銀行、証券、旅行などの各種ポイントサービスで囲う楽天経済圏のベースを築きました。ECサイトを見るだけでは気づきませんが、新規事業とM&Aをうまく取り入れながら、変革しつつある楽天が今後どこに向かうのかに注目です。

 

[図表3]業界トップの大企業におけるリノベーションの実例

 

寺嶋 直史

株式会社レヴィング・パートナー 代表取締役

事業再生コンサルタント、中小企業診断士

 

齋藤 由紀夫

株式会社つながりバンク 代表取締役

スモールM&Aアドバイザー

スモールM&Aのビジネスデューデリジェンス実務入門

スモールM&Aのビジネスデューデリジェンス実務入門

寺嶋 直史
齋藤 由紀夫

中央経済社

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