(※画像はイメージです/PIXTA)

4度目の緊急事態宣言の延長が決まり、自粛生活が続いています。ワクチンの接種率も高まり、飲食店での酒類の提供以外の社会生活は、一定の制限のもとで変わらず行われるようになってきました。今回は、世田谷用賀法律事務所の代表者、弁護士の水谷江利氏が、コロナ禍における結婚式中止の「費用の払い戻し」について解説していきます。

リスケしていたがやむなく断念…キャンセル料は?

結婚式も昨年からリスケしていた矢先に緊急事態宣言も4度目。そして延長……。現状では地方から親族も集められないので「いよいよキャンセルしたい……」という方が多くなってきました。こんな場合にも、キャンセル料は満額支払わなければならないのでしょうか。

 

政府命令で開催厳禁の場合など、不可抗力で結婚式事態が開催できなくなった場合は、式場が津波でなくなったのと同じで、一旦成立した結婚式の開催契約自体がなくなる(後発的に履行不能になる)ので、キャンセルの問題ではない=キャンセル料を支払う必要はありません(すでに支払った分は返金。ただし、アレンジメントなどにかかる当初の申込金は、すでにアレンジメントの業務が済んでいるからとして、返金されない場合はありうるかもしれません)。

 

しかしながら、リモート併用の結婚式や、人数を調整した結婚式などのプランも数多く準備されている今、式場がなくなったのと同様には考えられないかもしれません。

 

不可抗力で全額免責とならなくても、規定通りのキャンセル料を支払う必要はなくなることがあります。消費者契約法は、事業者対消費者の契約において、キャンセル料として支払わなければならない金額を、キャンセルによる平均的損害に制限しているからです。

 

キャンセルによる平均的損害は、すでに式場側でかかったコスト(実費)のほか、キャンセルされなかったら得られただろう利益(逸失利益)を合算して求めるものとされます。

 

そして、得られたであろう利益というのは、解除時の請求額(見積り)×粗利益×非再販率で求めますから、開催予定日に近くなれば近くなるほど、ほかの客から式場に申し込みがある可能性はゼロに近づき、再販できない可能性が100パーセントに近くなるため、キャンセル料は高くなってしまうのです。

コロナでのキャンセル訴訟は、実際に発生している

とはいえ、コロナ禍、キャンセルがあったから再販ができなくなった(他の客に式場を貸せなくなった)のではなく、コロナによってそもそもほかの客に貸すこともまたできなかったでしょう。

 

この点を踏まえて、キャンセル料を安くする余地があるか否かについて、まだ裁判所の判断は出ていません。

 

というのも、このような件が裁判例になるには、訴訟が提起されて一審が終わり、これが公開されないといけないので、これまでコロナについてこれといった裁判例はありませんでした。ところが、現在、東京地裁に何件か係属しているという報道が8月末の新聞報道にありました(出典:日本経済新聞『コロナで結婚式中止 キャンセル巡り訴訟に 東京地裁』2021年8月26日配信)。

 

過去の裁判例としては、挙式予定日の1年以上前にキャンセルをしたという事案で「本件においては平均的な損害として、具体的な金額を見積もることはできない」として、キャンセル料にかかる条項の適用を否定したものがあります(東京地方裁判所平成17年9月9日判例時報1948号96頁)。

 

また、結婚式のキャンセルではありませんが、これに似た裁判例として、大学のラグビーチームの宿泊予定者の一部に新型インフルエンザ罹患者が出たことを理由として、宿泊前日に予約を取り消した事案がありました。判決自体は、インフルエンザが理由であることを、キャンセル料の減額要素とはしませんでした。

 

この事案では、損害額が契約書に規定された50人分約96万円全額ではなく平均的損害として約7万円に限られる旨が判示され、大幅に減額されています(東京地裁平成23年11月17日判タ1380号235頁)。
 

 

水谷江利

世田谷用賀法律事務所弁護士

 

 

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本連載は、「世田谷用賀法律事務所」掲載の記事を転載・再編集したものです。

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