外国人夫と離婚後、わが子を日本に連れ帰って裁判に…ハーグ条約の概要と現状【弁護士が解説】

外国人夫と離婚後、わが子を日本に連れ帰って裁判に…ハーグ条約の概要と現状【弁護士が解説】
(※画像はイメージです/PIXTA)

国際離婚でしばしばトラブルとなるのが、国境を超えた「子どもの連れ去り」だ。子どもの生活基盤を急変させて有害な影響を与える可能性があることから、日本では2014年に「ハーグ条約」が締結された。本記事では、家事裁判を得意とする弁護士の水谷江利氏が、子どもの利益を守る「ハーグ条約」について、事例とともに解説する。

国際離婚に伴い「国境を越えた連れ去り」が問題に

近年、国際結婚の増加に伴い「国際離婚」のほうも急増している。その際にしばしば問題になるのが、出身国に帰国する片親が、子どもまでも連れ帰ってしまうケースだ。

 

とくに日本の場合、離婚後も母親のほうが親権者としての立場は強いため、その感覚のまま、外国人の夫の祖国から、母親の母国である日本へ子どもを連れ去ってしまうケースがしばしば問題となっている。

 

実際の例だが、外国人の夫と離婚し、子どもを日本に連れ帰った母親に返還命令が下り、実際に執行官が来日したものの、母親は子どもを抱え込んでそれを拒否。その際は返還が実現しなかったが、裁判が再度行われ、不当拘束との判決が下りた。

 

また、日本国内においても、2022年3月、子どもの親権を持つ元夫のもとから子どもを連れ帰るよう、元妻へ助言した弁護士に損害賠償を命じた判決が下りるなど、子どもの親権をめぐる法的判断は、これまでにない動きも見せている。

 

とはいえ、日本では子どもの連れ去りは必ずしも「不当行為」とされるとは限らず、判決結果も一定ではない。また、国をまたいだ離婚においても、現地に暮らす父親の境遇の変化や(例えば失業など)、子ども自身の意向から、必ずしも不法とはならないケースもあり、センシティブな問題だ。

 

まずは、ハーグ条約の概念について解説してみよう。

連れ去りから子どもを守る「ハーグ条約」とは

1970年ごろから国際結婚が増加したことにより、一方の親による連れ去りや監護権をめぐる裁判管轄の問題を解決する必要性が認識され、1980年に「国際的なこの奪取の民事上の側面に関する条約=ハーグ条約」が成立した。2021年12月1日現在、101ヵ国が締結している(外務省「締約国一覧」)。

 

ハーグ条約は、次の発想に基づき、規定されている。
 

①子を元の居住国へ返還することが原則

 

●監護権の侵害を伴う、国境を超えた子の連れ去りは、子どもにとって悪影響であること。

 

●どちらの親が子の監護をすべきかの判断は、元の居住国で行われるべきであること。

 

上記の考えから、まずは原則として子を元の居住国へ返還することを義務付けている。

 

②国境を超えた親子の面会交流の実現のための協力

 

国境を超えて所在する親と子が面会できない状況を改善し、不法な連れ去りを防止するためにも、締結国が、相互に国を超えた面会を支援することを定めている。

 

なお、ここでの「子ども」は16歳未満とされている。16歳に達したらハーグ条約の対象外となり、返還命令を出すことはできなくなる。

子どもに危険が及ぶ場合は「返還拒否」が認められる

原則としては子どもを元の居住国に返還することになっているが、返還することで子どもに危険が及ぶ場合などは、返還を拒否することが認められる場合もある。返還拒否事由が認められる場合は以下の通りだ。

 

●連れ去りから1年以上経過し、子どもがすでに新たな環境に適応していると認められる場合。

 

●連れ去られた時に、他方の親が監護していた実態がない場合。

 

●連れ去られた親が事前の同意または事後の承諾をしていた場合。

 

●返還により子どもが心身に害悪を受け、または他の耐え難い状態に置かれることになる重大な危険がある場合。

 

●子どもが返還を拒み、かつ該当する子どもが、その意見を考慮する年齢・成熟度に達している場合。

 

●基本的人権の観点から認められない場合。

 

これらは国際離婚だけでなく、国を超えて連れ去りが生じる日本人カップルにも妥当する。連れ去られた方が、国外から、日本の在外公館(領事館、大使館など)に申立を行うと、ここから日本の外務省に連絡がいく。

 

日本の外務省のハーグ条約対策室が、連れ去りや面会の実現についての対応を行うが、これについて裁判上の取り決めを必要とする場合、さらにこれを日本の家庭裁判所に持ち込む必要がある。

 

 

水谷江利
世田谷用賀法律事務所弁護士

 

本連載は、「世田谷用賀法律事務所」掲載の記事を転載・再編集したものです。

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