コロナ禍の厳しいビジネス環境において、企業には「デジタルトランスフォーメーション(DX)」の導入が一層急がれる。情報化やデジタル化を推進するDXだが、これまでアナログで業務を続けてきた中小・零細企業こそ、導入による勝機を見込みやすい。それはなぜか。成功事例をもとに解説していく。※本記事は『中小企業のDXは会計事務所に頼め!』(金融ブックス)より一部を抜粋・編集したものである。

タブレットPOS導入…会計知識なくても操作可能

【飲食業(従業員5名)の事例】

 

この会社は居酒屋を経営しています。地元の食材にこだわったメニューと、洒落た雰囲気のお店で、店主である社長と数名のアルバイトで切り盛りしています。

 

開業時に同業者から勧められたこともあり、クラウド型の会計ソフトウェア「freee(フリー)」と、タブレットにアプリをインストールするだけでPOSレジとして使えるタブレットPOSを、当初から導入していました。フリーは、個人事業者や中小規模企業での利用が増えている会計ソフトの一つ。自動化がしやすく、複数の金融機関の口座をまとめて管理できるなど、活用次第で経理業務を効率化できます。タブレットPOSは、低コストで導入することができ、省スペースで見た目もハイセンス。このお店の雰囲気にもマッチします。

 

開業から間もない同社の当面の目標は、事業を軌道に乗せることです。本業に注力するために、導入したツールを活用して経理業務に割く時間を極力減らしたいと考えていましたが、社長は経理に詳しくなく、経理を任せられるスキルを持ったスタッフもいません。経理スタッフを雇う余裕などなく、どのように運用すべきなのか分かりませんでした。

 

ツール+ネットバンク、クレジットカードで自動化相談を受けた会計事務所では、この会社の事情を聞き、経理に関する社長の負担を最小化しようと考えました。

 

その一つは自動化です。まず社長には、自動化するために必要なネットバンクを開設し、クレジットカードを作っていただきました。これにより、預金データはネットバンクから取得して自動的に仕訳され、クレジットカードで決済した仕入も、自動的に仕訳されるようになりました。タブレットPOSとクラウド会計ソフトも連携していますから、売上データも自動的に仕訳されます。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

自動化されない部分は、基本的にはアルバイト社員でもできるようにしました。たとえば現金での買い物は、スマートフォンでレシートを撮影。仕訳はアルバイト社員が行いますが、会計ソフトで「目的」を選択するだけなので、会計知識がなくても操作できます。

 

さらに仕訳の不備の修正など、会計知識の必要なことは、会計事務所がサポートしています。実情に合う最適な運用がポイント。こうして、この会社では経理業務を省力化することができました。

 

フリー、タブレットPOSなどのように、便利なツールを導入しても、実情に合う最適な運用方法を見出すには、経理に関する知識が必要です。本業だけでも忙しいなかで、自分たちだけで解決するのは難しかったでしょう。

 

会計事務所のサポートも受けながら、社長は事業を軌道に乗せるべく、本業に集中して取り組んでいます。

 

 

【ポイント】

多機能なツールを、最初からフル活用するのは困難です。たとえば会計知識なしに、無理に仕訳をしようとすると後々トラブルになりかねません。逆に便利な環境と必要最小限の運用を組み合わせれば、短期間で効果を出すことも可能です。迷わず会計事務所に相談してみましょう。

 

在宅でもオフィスと同等のコミュニケーションを実現

【広告業(従業員20名)の事例】

 

広告代理店であるこの会社の強みは、社内で制作もできる体制を持っていること。運用面やWebサイトの制作も含めた、質の高いサービスを提供できます。その強みをさらに伸ばすため、スキルの高いデザイナーやエンジニアを採用したいと考えていました。

 

しかし、大手の求人媒体やエージェントを利用して募集しても、社長がイメージするような人は集まりませんでした。

 

「競合と同じことをしていてもダメだ」と考えた同社は、「在宅」という勤務形態に絞って募集することを考えました。デザイナーやエンジニアは、オフィス以外でも仕事がしやすい職種ですし、通勤が必要なければ、地方にいる優秀な人材も対象にすることができるからです。

 

今でこそ在宅勤務への理解も進みましたが、当時は「在宅勤務=自由な時間に仕事ができる」と誤解されることも多く、大手企業などの一部で取り入れられている程度でした。オフィス以外で仕事をする人とのコミュニケーション不足をどう防ぐのか、勤怠管理をどうするのかなど、課題もありました。

 

通常オフィスでは、必要に応じてミーティングを行ったり、口頭で連絡事項を伝えたり、となりの席の人に「これ、どう思う?」などと声をかけることもあるでしょう。この会社では、こういう日常的なコミュニケーションをオフィス以外の場所からでもできるように、「Chatwork(チャットワーク)」というビジネスコミュニケーションツールを導入しました。

 

チャット機能をベースとしたチャットワークは、チャットのグループ化や、ビデオ通話、タスク管理などの機能も備えており、利用者も非常に多いからです。在宅でも同じフロアにいる感覚で仕事ができるように、運用も工夫しました。チャットで仕事の開始や終了、離席を知らせる、チャットで声をかけられたらすぐに反応するなど、基本ルールを決めたのです。

 

応募者には、在宅勤務について「場所は違っても、出社しているのと同じ」という認識を確認し、入社後に意識のズレが生じないようにしました。全国どこからでも採用できる求人エリアを日本全国に拡大したことにより、地方に住んでいるスキルレベルが高い人材を採用できるようになりました。

 

常時在宅で勤務するデザイナーとエンジニアを1人ずつ採用でき、体制強化も実現しました。チャットワークの導入は、チャットならではの気軽さから、在宅勤務者だけでなくオフィス内のコミュニケーションも活性化しました。やり取りの記録も残り、後日検索もできるため、口頭での会話以上に便利に活用されています。

 

また、新型コロナウィルスの影響で多くの社員が在宅勤務となっても、いつもと変わらないコミュニケーションを維持できました。

 

 

 

【ポイント】

この事例のように、特に仕事の成果が分かりやすい職種を中心に、今後は在宅前提で採用することも一つの選択肢となるかもしれません。在宅勤務では、コミュニケーションの不足やミスが懸念されますが、オンラインでのチャットを活用することで、オフィス内も含めた効果を期待できそうです。

 

社員1人企業…自宅で仕事ができるツールとは

【建設業(従業員1名)の事例】

 

1人で建設業を営んでいるこの方は、自宅から約1時間の距離に事務所を構えています。パソコンなど業務に必要なものは事務所に置かれており、事務仕事はすべて事務所で行っていました。

 

1日、現場で仕事をする日でも、自宅と現場の往復だけでは済まず、メールのチェックや請求書の発行などのために、わざわざ事務所に出向かなければないこともありました。受注が増えるのはありがたいのですが、忙しくなってくると事務所への移動時間が大きな負担となっていました。

 

相談を受けた会計事務所は、ノートパソコンで自宅からでも事務所と同じ仕事ができるようにすることで解決できると考えました。そこで利用したのがオンラインストレージ「Dropbox(ドロップボックス)」です。

 

オンラインストレージとは、自分のパソコンのハードディスクと同じ感覚で、オンライン上にファイルを保存することができるサービスです。ドロップボックスは、一定の容量まで無料で使うことができ、ネットワーク環境さえあれば、どのパソコンからでもドロップボックスに保管した自分のファイルにアクセスすることができるようになります。

 

この方の場合は、請求書の発行などにExcel(エクセル)やWord(ワード)を使用していたので、それらのファイルの保存場所を、事務所のパソコンのハードディスクから、ドロップボックスに変えました。自宅でもインターネットにアクセスできる環境は整っていたので、あとは事務所以外でも事務作業ができるようにノートパソコンを購入しただけ。

 

メールもノートパソコンでも見られるようにしました。移動の負担が大幅に軽減ドロップボックスを導入したことで、自宅からでも事務作業やメール処理ができるようになり、移動による負担が大きく軽減されました。また請求書の発行が早まったことにより、業務完了からお客様への請求・入金までのタイムラグも小さくなりました。

 

 

【ポイント】

ドロップボックスは、複数の人でファイルを共有することもできるので、数人での運用にもおすすめです。低コスト、かつ非常にシンプルな仕組みで、新たな操作を覚える必要もありません。業務改革の一歩は、手軽で、簡単な方法でも十分可能なのです。

 

 

山口 高志

中小企業DX推進研究会 代表

 

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