今回は、後継者が理事か否かで変わる「医療法人の引き継ぎ」の手続きについてお伝えします。 ※本連載は、税理士・上条佳生留氏の著書、『院長先生の相続・事業承継・M&A 決定版』(きんざい)の中から一部を抜粋し、医療関係者の相続・事業承継の問題解決について、具体的な事例をもとに分かりやすく説明していきます。

「理事長」になるにはまず「理事」になる必要がある

長男「母さん、おやじの告別式が終わったばかりでなんだけど、僕、大学病院を辞めて、おやじのクリニックを継ぐことにするよ」

 

「本当に? まもる(長男)が父さんの医療法人を引き継いでくれるなら、父さんも天国で喜んでくれると思うわ」

 

長男「早速、大学病院にそのことを話してくるよ。それで、医療法人の手続はどうしたらいいの。母さんは役員だから知っているよね」

 

「それが、詳しい手続はわからないの。医療法人を設立するときは専門家のアドバイスに従っただけだから、何をどうしたかよく覚えていないのが本当のところなのよ」

 

長男「そうなんだ。何をしたらいいのかわかれば自分でやろうと思うけど。何をしたらいいんだろう」

 

「そんなに簡単じゃないわよ。たしか後継者が現在の医療法人の理事か理事でないかでだいぶ手続が違うって聞いたことがあるわよ」

 

長男「複雑そうだなあ。僕は理事じゃないから、単純に理事になればいいだけなのかなあ」

 

「定款をみる必要がありそうね」

 

長男「なんだかひとりで手続する自信がなくなってきたよ・・・」

 

医療法人の理事長が亡くなった場合、通常の相続の手続に加え、亡くなった理事長の医師免許に関する手続、医療法人の組織の変更をしなくてはなりません。厚生労働省によるモデル定款に沿って作成された定款であれば、理事長は理事のなかからお互いに選び合う(互選)定めになっており、理事長になるには、まず理事にならなくてはなりません。後継者が理事か否かで、以下のように手続の流れが変わります。

 

【図表 理事長死亡時の手続の流れ(社団医療法人)】

後継者が医療法人の理事の場合

理事の補充要件を確認

一般社団医療法人で、モデル定款を採用している場合には、理事の定数の5分の1を超える者が欠けたときは、1月以内に補充が必要となる旨の規定があります。理事長が死亡したことによって、理事が1人欠けた状態になっていますので、その点をまずチェックしましょう。

 

⑵新たに理事となる者の資格の確認

新たに理事となる者については、成年被後見人などの欠格事由に該当しないか、関連するMS法人等の役員となっている場合には、「医療法人の役員と営利法人の役職員の兼務について(H24.3.30医政総発0330第4号)」が定める例外条件を満たしているかどうかを確認する必要があります。

 

また、分院がある場合、新たに理事となる者が医師であることが必要なケースもあります。医療法により、医療法人の各医療施設の管理者は医師であり、理事であるとされているためです(都道府県から認可を受けている場合を除く)。ですから、たとえば亡くなった理事長が本院の管理者で、後継者である理事が分院の管理者であった場合、相続後に後継者が本院の管理者になると、分院の管理者が不足します。その際、後継者以外の理事に医師である者がいない場合には、新たな理事に医師であり、かつ管理者としての資質を備えた者を迎え入れる必要が出てくるのです。

 

⑶理事を社員にするかどうかの判断

新たに理事となる者は、必ずしも社員である必要はないため、理事を社員にするか否かは、重要な事項の議決権をもたせるかどうかで判断します。社員は社員総会において医療法人の重要な事項(定款変更など)を決議する権限をもっていますが、理事はその社員総会で議決されたことをもとに、医療法人の日々の運営を担う者です。理事として迎え入れる者にどこまで権限をもたせるのかを考えて判断します。なお、株式会社などと違い、定款に定めがなければ、社員が出資持分を必ずしももつ必要はありません。

 

社員総会において理事として承認

新たに理事になる者が決まりしだい、理事就任承諾書・履歴書などの書類一式を提出してもらい、社員総会にて理事として選任します。この際、議事録を必ず作成します。

 

⑸理事長および診療所管理者を選任

新たに理事となった者を含めて理事会を開き、理事からの互選で理事長を選出します。また、診療所の管理者の選任も、このときあわせて行うとよいでしょう。

 

⑹登記、都道府県知事・保健所等への届出

理事長に就任後、理事長変更登記をします。この際、新理事長が就任したことを証明する書類とともに、前理事長が死亡により退任をした旨を証明する書類も必要となりますが、相続人が作成した死亡届で十分です。登記後には都道府県に登記事項変更登記完了届を提出します。また、保健所に役員変更届を提出します。理事長の変更だけではなく、理事の変更についても必要となりますので注意しましょう。また、診療所の管理者を変更した場合には、保健所に診療所開設許可(届出)事項一部変更届を提出します。

後継者が理事でない場合

後継者を社員にするかどうかの判断

前項でも述べたとおり、社員は医療法人の重要な事項を決議する権限をもっていますので、後継者でかつ親族という立場であれば、社員として入社することが望ましいと思います。しかし、社員になると、出資の有無やその多寡に関係なく社員総会において1人1票の議決権をもちますので、後継者に重要事項の議決権をもたせたくない場合には、社員にせずに理事(理事長)として法人運営を担ってもらいましょう。

 

⑵後継者が理事に就任する手続から登記

ここから先については、前記の後継者が医療法人の理事の場合と同様の手続となります。社員総会にて後継者の理事就任を承諾し、理事会の互選で理事長として選出(診療所管理者としても選出)されたのち、登記、都道府県への届出の手続をします。

 

ここまでが一連の流れとなりますが、理事長交代に伴う診療所の閉鎖期間をなるべく短くするためには、これら手続を素早く行う必要があります。

 

また、医療法人の形態によっては上記のほかにも手続が必要となる場合もあり、最初の段階から都道府県の該当部署に相談しながら行い、手続に漏れがないようにしなくてはなりません。議事録等書類の作成の負担もかなりのものとなりますので、医療法人の場合も相続手続については専門家に早急に相談することをお勧めします。

本連載は、2015年9月2日刊行の書籍『院長先生の相続・事業承継・M&A決定版』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

院長先生の 相続・事業承継・M&A 決定版

院長先生の 相続・事業承継・M&A 決定版

上條 佳生留・税理士法人ブレインパートナー

きんざい

本書は、医業関係者の相続・事業承継・M&Aについて、医業に特化した会計事務所が、具体的な事例をもとに、解決方法をわかりやすくアドバイス。 「クリニックの土地の名義が父のままだと、相続手続でトラブルになるのですか?」…

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