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連載院長先生のための相続・事業承継・M&Aノウハウ【第7回】

子などの親族が「医療法人」を引き継ぐ場合の留意点とは?

医療法人出資持分

子などの親族が「医療法人」を引き継ぐ場合の留意点とは?

今回は、子などの親族が「医療法人」を引き継ぐ場合に留意すべきことをお伝えします。 ※本連載は、税理士・上条佳生留氏の著書、『院長先生の相続・事業承継・M&A 決定版』(きんざい)の中から一部を抜粋し、医療関係者の相続・事業承継の問題解決について、具体的な事例をもとに分かりやすく説明していきます。

高齢の理事長が引退しないことも承継失敗の要因!?

次男「久しぶりだね、父さん、兄さん」


長男 「けんじ(次男)! おまえ、よくもまあヌケヌケとこの家に帰ってこられたものだな」


院長 「勝手に投資の話をすすめて、結局うまくいかなくなって、うちにどれだけ迷惑をかけたと思っているんだ。二度とこの家の門はくぐらせないといったのを忘れたのか」


次男 「やだなあ。せっかく帰ってきたっていうのに、二人とも冷たいなあ。今日はね、大事な話があって来たんだよ」


院長 「おまえと話すことなんて何もない! どうせまたろくでもない話をもってきたんだろ。聞きたくないから帰れ!」


次男 「そっちは聞きたくなくても、こっちには聞いてもらいたい話があるんだよ。僕の医療法人の出資持分があるだろ、それを返してもらおうと思っているんだ。ちょっといい話があって、どうしてもまとまったお金がいるんだよ」


長男 「なにを言い出すんだ! おまえに渡す金なんて一円もない」


次男 「それはおかしいよ。定款にちゃんと「社員資格を喪失した者は、その出資額に応じて払戻しを請求することができる」って書いてあるじゃないか。僕は法人を退社して、社員の資格を失っているんだから条件は満たしているよね。さあ、払ってよ」

 

後継者が実家の医療法人を承継しようと決断しても、次のような理由によって承継がうまくいかないケースも少なくありません。


①親である高齢の理事長がなかなか引退してくれない
②理事長と後継者(ほかの病院に勤務)の間では承継の話がまとまっているが、後継者以外の相続人がその話を知らない
③兄弟間での後継者争いや、後継者自身の子どもの学費など経済的な事情が存在する


後継者に医療法人を譲る理事長の多くは70歳前後といわれています。ここで承継がスムーズに進まず、理事長が高齢になると患者さんが離れていってしまうリスクもあります。


医療法人の承継は、いつ理事長を変更するのかという交代のタイミング、加えて旧制度(持分あり)の医療法人の場合には出資持分をどのように移していくのかということが重要なポイントになります。

患者さんやスタッフの信頼を得てから交代する

クリニックが医療法人で、親子間の承継の場合、個人のクリニックや第三者間での承継に比べてスムーズにいくのではないかというイメージをもたれる方が多いと思います。たしかに当事者間での話し合いや手続等の過程で第三者間よりは進めやすいのは間違いありません。


しかし、患者さんへの対応となるとそうはいきません。いままで通っている患者さんは、現院長に診てもらいたくて来院されています。それなのに、ある日突然院長が替わったらどうでしょうか。とまどいを抱き、ほかの医院へ移ってしまうことも考えられます。


スタッフにも同じことがいえます。現院長の診療方針や人柄に引かれて長年勤務をされているスタッフも多いと思います。長年クリニックを支えてくれたスタッフはいわばクリニックの財産です。急な院長交代は優秀なスタッフの流出にもつながります。


このように、たとえ親子間とはいえ、事業承継にはいろいろな課題が存在します。そこで重要となるのは、しっかりと時間をかけることです。後継者は、当初は勤務医というかたちで現院長と一緒に診療にあたります。

 

そうしたなかで現院長の診療方針、患者さんへの対応などをしっかりと学び、また患者さんやスタッフに自分という医師をしっかりとみてもらいます。そして後継者が患者さんやスタッフからの確かな信頼を得られたタイミングで院長を交代します。こうすることでリスクを最小限に押さえながら事業承継を行うことができます。

社員資格を喪失した場合、出資持分の払戻し請求が可能

近年、医療法人に出資持分にかかわるトラブルで、非常に増えてきているのが出資持分の払戻請求の問題です。


平成19年3月31日以前に設立された医療法人の定款には、


「社員資格を喪失した者は、その出資額に応じて払戻しを請求することができる」


との記載のあるケースが多いと思います。これは医療法人設立手続の際に、モデル定款として記載があったためですが、この一文が後に非常に大きな意味をもってくることがあります。


この一文の意味は、出資持分をもっている者が退社や死亡などで社員としての資格を失った場合に、医療法人に出資持分の払戻しを請求できるということです。


では、なぜこの一文が問題になってくるのでしょうか。


医療法人を設立する際、理事が3名以上必要なことから、当時後継者がまだ決まっていない場合、お子さまたちに均等に出資してもらっているケースがあります。これはお子さまのなかでいずれが後継者になってもいいようにしておこうという現院長の配慮なのですが、このために後継者以外のお子さま、あるいはお子さまに万一のことがあった場合に、その持分を相続された人から払戻請求を受ける可能性があるのです。


医療法人は配当ができないため、クリニック経営が10年、20年と順調に推移すればその純資産総額は設立当初に比べて相当大きくなっていることが多々あります。


たとえば設立当初の出資は500万円であっても、20年後の現在、純資産総額が20倍になっていれば、持分も20倍の1億円の払戻請求をされる可能性が出てきてしまいます。この問題は医療法人にとっては非常に深刻です。仮に当初の出資総額が2,000万円、現在の純資産総額が20倍になったとしても、4億円もの現預金があるとは限りません。建物や医療機器などの固定資産も含めての純資産総額ですから、とても請求通り払えないという事態になってしまいます。


またこの問題を、払戻しを請求する側からみてみると、この持分に関しては、相続税や贈与税などの計算上においてその当時の評価額でもって課税されてきているという一面もあります。場合によっては、すでに多額に相続税を納付していることもあるでしょう。請求する側の一財産としての出資持分の価値も当然考慮しなければなりません。


このような事情から出資持分の問題は非常に複雑かつ深刻化する危険性を含んでいます。
これらの問題を回避するためには、理事長、後継者およびほかのご家族が日頃からしっかりと話し合い、全員の協力のもと、事業承継対策に早めに取り組み、医療法人の方向性を決めておくことが重要です。

本連載は、2015年9月2日刊行の書籍『院長先生の相続・事業承継・M&A決定版』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

上條 佳生留

税理士・行政書士

2004年税理士試験官報合格。「事業承継」「M&A」などにかかわる資産税全般を得意とする。税理士法人ブレインパートナーの女性経営陣として、専業主婦、子育て経験を活かした独自の視点をもって、顧客主義を軸に競争力ある集団組織の構築にあたる。

著者紹介

税理士法人ブレインパートナー

企業経営をサポートするプロ集団(公認会計士、税理士、社会保険労務士在籍)として、設立以降医療機関を中心に500件を超えるクライアントを支援。ドクターのライフステージをふまえ、医業開業から相続・医業承継までを体系的にサポートしている。
単に記帳代行業務などを請け負うだけではなく、毎月の経営診断に基づいた付加価値の高いコンサルテーションに加え、医療法人化、M&A、資産管理、信託、さらには労務課題の解決といった、医業継続のためのトータルサービスを提供している。
また、さまざまなニーズに応じたセミナーや相談会も定期的に開催している。(写真は代表社員の矢野厚登氏)

著者紹介

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