出版市場は近年、右肩下がりを続けています。小説は読まれず、雑誌も発行部数の減少が止まりません。唯一「売れ筋」と言えるのは、実用書やビジネス書、医療・健康書など読者にとって即メリットになるジャンルです。なかでも、企業が出版資金を出し、ブランディングの一環として書籍を作り上げていく「企業出版」には、各社が参入し、盛り上がりを見せています。果たして、この新しいビジネスモデルは、「斜陽」と揶揄される出版業界の救いの手となるのか? 企業出版のパイオニア、株式会社幻冬舎メディアコンサルティングで取締役を務める佐藤大記氏に話を聞きました。

企業の「課題」を解決できる企業出版

企業出版の最大の目的は、企業が抱えるさまざまな課題を解決に導くことです。多くの経営者が「新規顧客開拓(集客強化)」「人材採用」「企業の認知度アップ」「商品・サービスの認知度アップ」「競合他社との差別化」といった課題に頭を悩ませています。こうした課題に対し、企業出版がどのように役立つのか、具体的に説明したいと思います。

 

「読者はある特定分野の専門家を探し求めています」 幻冬舎メディアコンサルティング 取締役・営業局長 佐藤 大記氏
「読者はある特定分野の専門家を探し求めています」
幻冬舎メディアコンサルティング 取締役・営業局長 佐藤 大記氏

まず、「新規顧客開拓(集客強化)」についてです。経営者からよく聞くのが、自社の製品やサービスについて、顧客や消費者に見つけてもらうのは比較的容易だが、そのあと購入まで結びつけることが難しいという話です。

 

WebサイトでSEO対策を行えば、自社HPへの訪問数を増やすことはできます。サイトの仕様変更による効果が出るまでに時間はかかりますが、広告ではないためクリック率が高く、一度上位に表示されれば順位も維持しやすい。

 

また、リスティング広告もライバル企業が多いと入札単価が上がるため広告費がかさむデメリットはありますが、即効性が期待できます。いずれにしても時間やお金をかければ、自社HPまでは顧客や消費者を呼び込むことができます。

営業マンに代わるクロージングの手段でもある

問題はそこから先で、実際に商品やサービスを選んでもらい、買ってもらうのは非常に難しいというのが多くの経営者の共通意見です。特に新型コロナ禍のいまは、より厳しさが増しているといいます。コロナ前は問い合わせのあった顧客のもとへ営業マンが足を運んで説明できましたが、現在は対面での営業が難しくなり、営業マンが介入しにくくなりました。興味を持ったお客様に対して、従来は対面で営業することでクロージングまでもっていくことができたが、それができなくなってしまったのです。

 

そこで、これまで以上に求められるのが、クロージングのための営業マンに代わる新しい何かです。その何かになり得る有力な一つの方法が、企業出版による書籍なのです。

 

企業出版では、企業がメッセージを届けたい相手、潜在顧客であるターゲットの読者層を絞り込んだ上で、ピンポイントで企業情報を提供するように書籍を作っていきます。その情報とは読者が抱える悩みや課題に対する解決策、ソリューションです。書店で本を手にした読者は、自分が求めている解決策が示されているがゆえにその書籍を購入します。そして読み進めるうちに、「このノウハウはスゴい!」「すばらしいアイデアだ!」と感動し、著者であるクライアント企業にアプローチせざるを得ない、というわけです。

 

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読者の関心の高い、一つのテーマに絞り込む

たとえば、相続対策を例に考えてみましょう。ひと口に相続対策といっても、相続税の軽減などの税金対策や、兄弟姉妹での遺産トラブルを回避するための対策、相続後の納税資金に困らないための対策など、さまざまなテーマがあります。私たちが相続対策の本を手がける場合、『相続対策丸ごとハンドブック』のような書籍は作りません。ハウツー本としてはそのほうが売れる可能性もありますが、その書籍から著者であるクライアント(弁護士、税理士など)には問い合わせが期待できないからです。読者は相続問題に関する知識がいろいろ得られて勉強になった、よかったな、ということで終わりです。もちろんこうした書籍にも役割があり、必要とする人もいます。だから否定はしません。ただ、私たちの企業出版で作る書籍ではないということです。

 

私たちは、「生前の相続対策」や「節税に効果抜群」などいくつかのキーワードに基づき、それに関心の高い人だけに買ってもらう1冊に仕上げます。何かしらの課題を抱えている読者からすると「待ってました!」という内容で打ち出します。「これは私のための本だ」「解決すべきことの解が明確に書いてある」と認識してもらい、お金を払って買ってもらうのです。

読者はある特定分野の「専門家」を探し求めている

また書籍の内容は読者の共感を呼ぶように工夫します。具体的な事例を多数紹介することで、自分の課題と同じ事例に必ずあたるようになっています。そして、その読者の抱える問題はどういう専門家であれば解決できるのかが記されています。専門家選びのポイントです。それは偽りなく一般論として書かれていますが、実はクライアントの特長や強みがしっかり書かれていて、読者が書籍を読み、自分なりに調べれば調べるほど、自分の悩みを解決してくれるのはその著書の著者である企業(社長)である、というふうにたどり着く仕掛けになっています。だからパイ(読者)は少なくても、確実に1件の顧客になり得る確率がズバ抜けて高いのです。

 

ある経営者(クリニック院長)は企業出版で書籍を出したことを機に、白内障手術のスペシャリストとしてテレビ番組への出演や、雑誌やウェブなど数多くのメディアに取り上げられるようになりました。実はそのクリニックは眼科全般を診ていますが、『目のお悩みハンドブック』のような書籍ではなく、白内障手術にテーマを絞り込みました。結果、白内障手術を受ける患者が増え、クリニックと院長ご自身のポジションを確固たるものにすることができました。

 

このように、読者はある特定分野の専門家を探し求めています。したがって書籍の内容も総合的なものではなく、特定の分野に絞り込み、尖らせることが大切です。たくさんの商品やサービスがあっても、捨てる覚悟が必要ということです。そうして読者の悩みに対するソリューションを的確に提示することで、新規の顧客開拓や集客強化につながるのです。

 

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