今回は、カンボジアで広がる新たな「自動車ビジネスモデル」についてお伝えをします。 ※本連載は、ジャーナリストとして活躍する桃田健史氏の著書、『IoTで激変するクルマの未来』(洋泉社)の中から一部を抜粋し、100年に一度の転換期の真っ只中にある「クルマのIoT化」の最前線を紹介します。

カンボジアで高いシェアを誇る「トヨタ」の実情

前回に引き続き、カンボジアにおける自動車産業の現状について紹介する。

 

並行輸入車を、正規の新車販売ディーラーで修理するというビジネスモデルを展開しているトヨタ。今回はその実態について、トヨタカンボジア本社の河端政明社長に、トヨタ独自の資料をもとに話を聞いた。

 

それによると、同国のピックアップトラックを含む乗用車の保有台数は約37万台。その65%にあたる約24万台がトヨタ車だ。

 

市場全体としてはここ数年、年率5%増で拡大しており、2014年の新車と中古車の販売総数(トラックバス除く)は3万4700台。このうち新車は、2013年および2014年の製造車が3000台弱。

 

その約50%がトヨタ車だが、正規販売分は同38%にとどまり、残り12%は中近東、北米、また一部欧州からの並行輸入だという。

 

トヨタの正規新車の価格は、タイ生産の「ハイラックス」が4万5000ドル(540万円)、インドネシア生産の大型SUV「フォーチュナー」が5万7000ドル(684万円)、そして日本生産の「ランドクルーザー」が15万5000ドル(1860万円)と、最低賃金が月120ドル(1万4400円)の国民にとってはかなりの高額商品だ。ちなみに、同国の通貨はリエルだが商取引では米ドルが使用されている。

 

クルマにかかる税金は、日本生産車や中古車では、乗用車で関税35%、贅沢税50%、付加価値税10%だ。ちなみに、ASEAN域内生産車の場合、自由貿易協定により関税は5%に軽減されている。

 

こうした高価格車を購入する客層は、大きく二つに分類できるという。財閥系や政府高官などのスーパーリッチ層と個人事業主は一時金で購入。そして最近の傾向としては、外資系企業のマネージャークラスや国内大手企業の上級社員が5年間ローンで小型の多目的車「アヴァンザ」などを購入する動きがある。

 

カンボジア市場で大きな課題は輸入中古車だ。その約70%がトヨタ車だが、多くがアメリカの保険会社のオークションで買い付けされた事故車などのワケあり車両である。2013年に、豊田通商が車体を認証するVINナンバーをもとに車両履歴の独自調査をおこなったところ、輸入中古車のうち約40%が全損状態から修復されたものだったという。

 

また、同約80%が、累積走行距離を示すオドメーターを6万マイル(9万6000キロ)以下に巻き戻して、商品価値を上げていた。アメリカでは一般的に、新車購入後にワンオーナーが10万マイル(約16万キロ)以上使用することが多い。

中古車等の整備事業に本格的に乗り出したトヨタ

こうした事実に加えて、さらに驚くべきことがあった。トヨタの正規販売店で、並行輸入の新車や中古車の整備を受け入れるアフターサービス体制を敷き、それを今後、拡張していく計画なのだ。

 

トヨタカンボジアの調査によれば、市場で保有されているトヨタ車約24万台のうち、車齢が0〜5年が全体の5%、5〜10年が25%、そして10年以上が70%だ。このうち車齢10年未満をターゲットとし、部品の供給を拡充している。

 

取り扱う保有部品は、2012年の1208点から2014年には4000点に増加。プノンペン経済特区内に2014年1月、2275平方メートルの部品保管施設を設け、プノンペン市内向けは午前と午後の2便、また地方都市向けには週1便で部品を配送している。

 

そして、車齢10年以上の非正規輸入車についても対応策を打っている。デンソー、アイシン精機、そして豊田通商が連携するセカンドチャネル事業「PIT&GO」の直営店と一般オーナーによる認定店の2形態で拡充していく。

 

一連の並行輸入車に対するビジネスモデルはミャンマーでも一部おこなっているが、トヨタとして極めて稀な事業内容だ。「将来的にはアフリカなどでの展開も視野に、カンボジア発の新しい事業の構築を進めていきたい」と河端氏は語った。

 

先進国から新興国へと進んできたパラダイムシフトはいま、新興国を基盤として経済後進国への移行が本格的に始まろうとしている。

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