中国政府が2018年最大の外交主戦場と位置付けたとされる「中国アフリカ協力フォーラム」。多くのアフリカ諸国のリーダーが参加し、習近平国家主席も20ヵ国以上の首脳と自ら会見した。本連載では、その様子を通じて、中国のアフリカ外交の現況と今後を考察する。今回はその後編である。

国際社会の批判を強く意識した戦略的なフォーラム演説

9月3〜4日北京で開催された中国アフリカ協力フォーラムは、中国政府が2018年最大の外交主戦場と位置付けていた会議だ(8月29日付新華社)。習近平国家主席は20か国以上の首脳と自ら会見するなど、そのもてなしは「超規格(破格)」だったという(海外中国語メディア)。本会議から、現在中国外交が置かれている状況が見えてくる。前回(関連記事『アフリカ外交に力を注ぐ中国習政権…数字で見るその実態』参照)は、その第1と第2について解説したが、今回は、その第3と第4について解説する。

 

 

第3に、フォーラムで習近平国家主席が行った演説も国際社会からの批判を強く意識したものだった。「産業活性化」「インフラ整備・連結」「貿易円滑化」「環境保全」「実施能力の育成(いわゆるキャパシティビルディング)」「健康衛生」「人文交流」「平和・安全保障」の8分野について提唱された「8大重点行動」は基本的に前回会議でも触れられていたもので、大きな目新しさはないが、「産業活性化」の中で農業の現代化に協力することに言及した点、また演説の中で、輸入、特に資源以外の輸入増加を約束することを明言した点は、「中国はアフリカを搾取している」との批判をかわすためだろう。

 

「5不」、つまり、①各国開発戦略への不干渉、②内政不干渉、③中国の意志を押し付けない、④援助に政治的条件を付けない、⑤投資や金融協力にあたって政治的私利を追求しないという5つの「○○をしない」方針は、基本的に中国が2011年、14年に発表した対外援助白書で掲げた援助原則を踏襲したもので、人道面やガバナンス面などで様々な条件を付ける先進諸国や国際開発機関の援助に対する批判としても、中国が以前から主張してきたことだ(2017年10月10日掲載記事参照)。ただ今回、特に⑤に明示的に言及したことは、国際社会から「中国は開発援助のパートナーとして問題のある国とのイメージを払しょくしたいとの強い意図が見える」との見方がある(Tiezzi、9月5日付 The Diplomat)。

 

 

さらに、演説で「命運(運命)共同体」の文言が何度も強調された点も注目すべきだ。具体的には、中国とアフリカは命運共同体であるとし、それを築くために、①責任を分担する、②協力・ウィンウィン(共赢)の関係にする、③幸福を共に分かち合う(共享)、④文化の共同振興を図る、⑤安全保障を共同で構築する、⑥環境保護・持続成長での共生を図ることを掲げている。「命運共同体」は17年10月、5年に一度の党大会で、一帯一路政策の推進が党規約に盛り込まれた際にも、同政策が中国の対外拡張戦略だという国際社会の懸念を払しょくすることをねらって使用された習政権外交戦略のキーワード(2018年2月28日掲載記事参照)だ。

習政権の外交戦略が対米摩擦を招いたという国内の批判

第4に国内の動きがある。中国では7月以降、北戴河会議(毎年8月初め頃、党政府幹部と長老が河北省の保養地北戴河で行う非公式の会議)をはさんで、「習政権の対外拡張路線が米国との貿易戦争を招いた」として、党内で批判が高まっているとの憶測が主として海外中国語媒体に流れた。600億ドル資金支援に関連しても、中国内ネット上で「打肿脸充胖子」、つまり顔が腫れあがるほど打って太ったふりをするように、(国内になお貧困が残っているのに)無理して金持ちを装って他国を援助する必要はないとの不満が高まった(9月4日付大紀元)。

 

実際、「一帯一路」、情報技術等10大ハイテク産業を重点的に育成し2025年までに世界の製造強国の仲間入りを目指すとした「製造2025」(2016年12月28日掲載記事参照)を対外的に宣伝する動きがこのところやや控えめになった感があるが、今回の会議を見る限り、習政権の積極外交路線に基本的変化はないようだ。同時に、習政権がその積極外交に対する国際社会や国内の批判・不満をこれまでにも増して気にしていることは明らかで、実際にそれが今後、外交路線の修正につながっていくのかどうかが注目されるというのが現状だろう。

 

[図表1]出所:9月7日付「自由亜洲電話台」(海外中国語媒体)より転載

(注)上は「手を携えて中国アフリカ運命共同体を作ろう」、下のプラカードは左から「自分は公立学校に入りたい」「皆の医療費をただにしろ」「高住宅価格に抗議する」。画はこうした国内の批判を抑え込む様を風刺。

 

 

[図表2]出所:9月5日付「The Standard」(ケニヤの有力地元誌)に掲載された画。海外中国語メディアが広く転載

(注)母豚(China)が10匹の子豚(アフリカ指導者)に乳を与えている。7月19日付の同誌は、専門家の推計として、ケニアの対外債務の70%は対中国債務と伝えている。画を掲載した同誌の意図は定かでないが、中国のネット上では「太った子豚に乳をやる必要はない」「中国は冤大頭(大頭、つまり大金を冤、無駄に使うで、いいカモの意)」などの書き込みがある。

 

対アフリカ援助に関して言えば、今回約束された援助部分150億ドル(会議が3年サイクルのため、年50億ドル)は、なお米国を凌駕するような水準ではない。米国開発援助庁USAIDによると、米国は17年、サブサハラだけで120億ドル、北アフリカへも2.5億ドルの援助支出をしている。しかし、投資なども含めた中国からアフリカへの資金フロー全体の増加は著しい(17年直接投資は対10年、05年比、各々2倍、10倍に増加)。米国は特にトランプ政権になって内向き志向が顕著、欧州諸国も内政に忙殺されている。

 

他方で、アフリカ開発銀行の試算では、アフリカが毎年新たなインフラ整備のため必要とする資金は1300〜1700億ドル、さらに気候変動へ対応するための追加資金が200〜300億ドル必要という。習政権の外交戦略、米国をはじめとする国際環境、アフリカの資金需要を踏まえると、当面、資金面でアフリカにおける中国のプレゼンスがより高まっていくのは必然的方向だろう。

 

(注)フロー計数は香港経由投資を含んでいないと思われる。( )は総投資シェア。 (出所)中国商務部対外直接投資公報

[図表3]中国の対アフリカ直接投資

(出所)中国商務部対外直接投資公報

(注)フロー計数は香港経由投資を含んでいないと思われる。( )は総投資シェア。

 

 

 

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