<あらすじ> 雪江は、望に紹介されたハウスキーパーの巧が元ホストだったことを知るが、欲望を抑えきれず、肉体をあずけてしまう。「恋人契約」という名目でお手当を支払い、巧に嵌っていく雪江だが…? 一部の富裕層しか知らない、「愛人」を持つことの金銭的な損得勘定に真剣に迫るリアル小説、女編〜第4回。  

 

他人の色恋に口出しすることほど、下世話なものはない。

 

だがそれが親友と自社の従業員となれば、話は別。

 

ふたりの関係はただの不倫、愛人関係にすぎない。大人同士、割り切っている仲であれば、多少の恋心があったってかまわない。だが、あまりに恋愛的な要素が入り込みすぎるのは危険だ。

 

「で、ヤッたの? ヤッてないの?」

 

「……望さん、言い方がストレートすぎ」

 

巧が雇用主である望のことを下の名前で呼ぶのは、ホスト時代から親しくしているからだ。客として通っていた望の本命は別のホストだったが、巧のこともかわいがっていた。

 

「……ヤリました」

 

でも必要以上に情はかけていない、と巧は答えた。

 

「別に肉体関係を持ったことはいいの。雪江以外のクライアントだったらクビにするけどね」

 

「すみません。でも僕から仕掛けたんじゃないっすよ」

 

「わかってる。雪江をそそのかしたのは私だし」

 

「なんだよそれー」

 

巧は電子タバコを吹かすと、呆れたように笑った。

 

「もしかして、最初から僕を雪江さんの愛人として、当てがうつもりだったとか?」

 

「そこまでは考えてなかったけど、巧くんならハウスキーパーだけでなく、雪江の癒しになるかもとは思ってた」

 

「だったらはじめに言ってくださいよ。僕、雪江さんがあまりに緊張してたから、思わずホスト時代のテクニック発動しちゃいましたよ」

 

「テクニックって?」

 

「王子になりきり、相手をお姫様のように扱う。基本っす」

 

「下僕じゃないんだ」

 

「それじゃ相手が女王様になっちゃう。SMじゃないんだから」

 

「アハハ! それもそうね」

 

ひとしきり笑ったあと、望は急に真顔で巧を見つめた。

 

「雪江の愛人になるのはいいけど、仕事はしっかりしてね」

 

「もちろんですよ。それに雪江さんとは愛人じゃなく『恋人』だし」

 

「何それ!?」

 

「お手当とか金銭的な契約はしません。僕も雪江さんのことが好きだから、フツーに愛し合いたい」

 

「……それは愛人よりもっと最悪だわ。人の気持ちにダメ出しするつもりはないけど、雪江が離婚とか言いだしそうになったら、ブレーキかけてよ」

 

「わかってますよ。僕だってそんなこと望んでないし」

 

***

 

後日、望は通っているホストクラブへ雪江を連れて行った(※)。

 

〜監修税理士のコメント〜

※ ホストクラブでの飲食豪遊は、経費にできるか?

編集N ホストクラブでの豪遊を経費で落とすなんてアリなんですか?

税理士 場所がホストクラブであろうと「クライアントを接待した」ことが事実で常識的な金額であれば、交際費として計上してもセーフでしょう。

交際費等とは、法人が得意先、仕入先その他事業に関係のある人に対する接待、供応、慰安、贈答などに要した費用をいいます。得意先であるクライアントを接待するために支出したものであれば、仮にそれがホストクラブであったとしても否認されることはありません。

税務調査で追及されないためにも、領収書等に誰を接待したのか記録しておく習慣をつけておくといいでしょうね。

なお交際費として損金に認められる金額は以下のようになっています。

<中小企業(資本金1億円以下)の場合>

次のいずれか有利な方の金額が損金にできます。
・交際費等の額のうち年800万円に達するまでの金額
・交際費等のうち飲食等に要した金額の50%に相当する金額

<大企業(資本金1億円以上)の場合>

交際費等のうち飲食等に要した金額の50%に相当する金額が損金にできます。
 

 

望が経営する派遣会社は中小企業なので、年800万円までの交際費全額か、飲食代の50%相当額の、いずれか大きい方を選択すればOKです。

 

男と深入りせず上手に遊ぶ方法を知らない雪江に、教えてあげるつもりだった。

 

「すごい……こんな店で巧くんは働いていたのね」

 

ホストクラブどころか、いわゆる夜の店をほとんど知らない雪江にとって、お酒を飲みながらイケメンの男の子と恋愛めいた会話を楽しむ世界は、カルチャーショックだった。

 

「お久しぶりです、望さん」

 

「久しぶりって、たった3週間じゃない」

 

「3週間は久しぶりですよ。もっと会いたいのに」

 

「ね、うまいこと言ってマメに通わせて、お金出させたいのよ」

 

望は、ビギナーの雪江に説明した。

 

「違いますよー。望さんに会いたいからに決まってるじゃないですか。店外デートだっていいんですよ」

 

「そのうちね。店外デートから同伴したら、どんだけお金がかかるか」

 

「ひどいなー。お金じゃないってば」

 

ホストが否定するのは常套句だ。お金じゃない、これは愛情だと匂わせつつ、ナンバーに入りたいからとシャンパンボトルを入れさせ、一番親しい「客」だと誤解させ時計やスーツや車といったプレゼントを貢がせる。

 

「巧は一時期だけど、ここのナンバーワンだったの。そこに貢献した太客が景気悪くなって来なくなったら下がっちゃったけどね」

 

もしかして、あの使い込んだ財布をプレゼントしてくれた人だろうか……雪江はふと思い出した。

 

「お金で愛情って買えるものなの?」

 

雪江の発言は、おそらく巧のことを指しているのだろう。望は率直に答えた。

 

「愛情が欲しいなら、やめておいたほうがいいよ」

 

「なぜ?」

 

「後戻りできなくなるから」

 

そう言われて、雪江は黙り込んだ。

 

今は結婚生活も巧との情事も、自分の中できちんと棲み分けできていると思っている。
だけどそのうち、割り切れなくなってしまうのだろうか。

 

「ハッキリ言っておく。巧はここを辞めても心はホストだよ。雪江がお金を出せば、愛情っぽいものを捧げてくれるかもしれないけど、それはニセモノだからね」

 

「うん……」

 

パーッと飲みましょうよ!と推しホストが割り込み、そこで会話は中断された。

 

お酒とホストとの会話で心地よく酔いつつ、雪江は「ここで飲むくらいなら、そのお金を巧に費やそう」と思った。

 

(つづく)

 

 

監修税理士:服部 誠

税理士法人レガート 代表社員・税理士

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この物語はフィクションです。

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