今回は、利用者に出費を強いる「後見制度支援信託」の問題点を見ていきます。※本連載は、フリーライターである永峰英太郎氏の著書、『認知症の親と「成年後見人」』(ワニ・プラス)から一部を抜粋し、「成年後見人制度」が招いた悲劇について、著者の実体験をもとに紹介します。

専門職後見人に「年間20万円」の報酬が発生!?

成年後見監督人や専門職後見人の増加、あるいは後見制度支援信託の導入によって、2015年の不正件数は、521件と大幅に減り、被害額も前年比27億円減の29億7000万円となりました。この後見制度支援信託は、元本保証のため、利用者の財産が目減りするということはありません。それもあり、専門家の多くは「よい制度」と口をそろえます。

 

確かに、この仕組みを使えば、成年後見監督人は不要となります。弁護士や司法書士などの専門職後見人が選任されている場合は、親族による成年後見人に変更することも可能になります。つまり、それまで専門職後見人や成年後見監督人に支払っていた「報酬」はなくなることになります。これは大きなメリットであることは間違いありません。

 

しかし、大きな問題点があります。後見制度支援信託の利用手続きは、司法書士や弁護士などの専門職後見人でなければできないという点です。

 

私のケースでは、私が成年後見人(親族後見人)であるため、まずは私に付いていた成年後見監督人(司法書士)が、父の成年後見人(専門職後見人)になりました。私ともう1人の複数後見人という形になったのです。

 

そうして、その専門職後見人が財産目録などをチェックして、父の1か月の支出額を割り出していきました。その支出額をベースに、メインバンクに残しておく預貯金の額を決めて、残りを信託銀行などに預けるのです。定期的な支出が、定期的な収入を上回るようであれば、定期的に信託銀行からメインバンクに、一定額が補充されるようにします。

 

ここまでの一連の手続きは「無料」というわけにはいかず、専門職後見人に支払う「報酬」が発生します。私の場合、20万円でした。この費用は、成年後見監督人などに支払っていた年間の報酬額とは別のものです。あまりに高い額に、私は唖然とするしかありませんでした。この額も、正確な基準はなく、私の知人は24万円かかったといいます。

 

ネット上では「あまりに高くて抗議したら、値引きしてもらえた」という話も載っています。

 

「そうは言っても、信託設定をするとなればいろいろと調べることもあるのだろう」と思う人も多いかもしれませんが、私の場合、すでに成年被後見人(父)の支出と収入の全額は、成年後見人になった最初の仕事としてチェック済みであり、それほど大した労力は必要としません。

 

私の父の場合は、現在、その信託銀行から父のメインバンクに2か月に1回、10万円が振り込まれるだけです。その手続きに20万円もかかるのは、どう考えても高すぎます。

 

なお、信託の手続きが終われば、専門職後見人は辞任し、息子である私が監督人なしの成年後見人となりました。信託を設定した以上、私の「不正」は防げるわけですから、もう監督人は不要、ということです。

馴染みのない金融機関に大金を移すことに不安も

さらにもう一つ、後見制度支援信託には、大きな問題があります。親にとって、あまり馴染みのない金融機関に大金を移行させるという点です。

 

2017年現在、後見制度支援信託の制度に沿ったサービスを提供しているのは、三井住友信託銀行や三菱UFJ信託銀行、みずほ信託銀行、りそな銀行、千葉銀行、中国銀行の6行。特に、親が地方に住んでいる場合は、その多くが、地元の地銀や郵便局に預けているものです。そうしたときの親の抵抗感は、私たちが思うよりも、強いことは間違いありません。

 

実際、私の父は私に「俺のお金どうなっている?」と聞くことがあります。現在、介護施設に入っているため、普段、お金を持っておらず、ふと心配になるのだと思います。

 

幸い、まだ「俺の通帳を見せて」と言われたことはありませんが、もし、そういう事態になったら、新しい金融機関の通帳を見せる必要が生じるかもしれません。それは、とても勇気がいることです。

 

認知症は昔の記憶は覚えている傾向が強いため、「俺の銀行じゃない!」と怒ったり、不安がる可能性もあるからです。

 

 

永峰 英太郎

フリーライター

認知症の親と「成年後見人」

認知症の親と「成年後見人」

永峰 英太郎

ワニ・プラス

「父は認知症、母は危篤」という大ピンチに、著者は「すぐにお金が必要なのに父親の銀行口座のお金が下ろせない」というさらなるピンチに陥る。 その後「定期預金が解約できない」「遺産相続ができない」「施設の契約もできな…

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