社長に求められる「もっとも正しい判断」とは何か?

前回は「現状分析」や「事業の方向づけ」などの重要性を解説しました。今回は、改めて「経営計画書」の重要性と「社長のもっとも正しい決断」とは何かを見ていきます。

戦いの真の相手を教えてくれる「経営計画書」

「理事長、大変です! 今度あの事務所がこんなことを始めたようです。月々○○円でここまでやるようです。ホームページに書いてありました」

 

理事長とは私のことですが、社員からこんな報告を聞くと、10年前の私なら、あたふたして、何とかしなければと騒いでいた気がします。最近ではほとんど行かなくなりましたが、業界向けのセミナー。10年前は、セミナーに行くたびに、これからのトレンドはこっちか、今度はあっちかと方針をころころ変え、今考えても薄っぺらい経営をしていたなと思います。社員もずいぶん振り回されていたことでしょう。

 

経営計画書を道具として8年、気がつくと、世の中の雑音とホンモノの違いがだいたいわかるようになりました。自社の主戦場を経営計画書に明文化すると、

 

「理事長、今度あの事務所がこんなことを始めたようです」

「そうか、応援しよう」

 

こんな感じです。全然ブレなくなります。今では社員までそんなふうになってきました。

 

平成25年の夏、ある方から「あなたの事務所に興味があります。一度会って相談させてほしい」という手紙をもらい、面白そうなので会ってみることにしました。その方は業界最大手の会計事務所から依頼を受けたM&A専任者で、私の事務所を買いたいとのこと。

 

全国展開するに当たって、所沢の拠点を物色していたようですが、驚いたのはその売買条件で、売買金額はだいたい現在の私の事務所の年商で、私は所沢の支店長として、また社員も現状のまま、給与も今の額を保証するとのこと。本部からの監督指導は年に1〜2回程度で、莫大な広告費を投じて、所沢の相続市場を独占していこうという狙いです。

 

もちろん売りませんが、これだけの条件が出れば、ただでさえ右肩下がりの業界ですから、いずれ別の誰かが売ることだろうと思いました。100%脅威を感じないといえばウソになりますが、経営計画書に事業の方向づけが明文化されていますから、競争相手がどんな手でこようとあまり関係ありません。目指すところが違うからです。

 

経営計画書は、戦いの真の相手を教えてくれます。真の競争相手は、競争他社ではなく自分たち自身であることを。経営計画書というのは、本当に、経営をウルトラC級に変える「魔法の書」です。

「来期から経営計画書をつくる」と決める

「社長が決めてくれないから動けない」。私の職業経験で、社員の社長に対するもっとも根強い不満です。そして、こういう会社ほど、社長にそういう認識がない。

 

債務超過に陥った会社がありました。ある事業で大きな損失を出し、まさに「再建」しなければならない状況ですが、その社長は捨てるという決断ができないでいました。再建のセオリーは、何がどうあろうとまず止血することです。他の儲かる事業でどんなにがんばっても、穴が開いていたら意味がない。決断が遅れると、手遅れ以外に手に入れるものはない。

 

社長に、なぜその事業を切らないのか、と聞いてみると、その事業を辞めた後に、今ある借金を既存の事業で今後返済していけるか、近々の資金繰りがつくかどうか、銀行の協力が得られるか、社員はどう思うか、などなど不確定要素が多すぎる、とのこと。

 

気持ちはよくわかるのですが、入り口のところで「決断」しない限り、その先の不確定要素は一生、確定しない。社長にそのことを申し上げてから1週間後、捨てると決めたら、半年もやもやしていたことが嘘のように、話がどんどんと進み、銀行の協力も得られることになったと電話で報告を受けました。「今回のことは、関根さんのいう通りだった」と。今回だけ? と思いましたが・・・。

 

社員は社長に、ただただ早く決めてほしいと願っています。再建などのセオリーは別としても、どっちを選ぶかの問題ではなく、どっちかに早く決めて走り出すことです。決めて走り出せば、今まで見えなかったものが見えてきますから、そこから引き返しても全然遅くはないのです。

 

私の事務所の「社訓」は10箇条あります。8年前、経営計画書を初めてつくった際に定めました。そのうち、7コはあるN社からそっくりそのままちょうだいし、残りの3コも別のN社から、やはりそっくりそのままいただきました。

 

最近では、ネット上などでその社訓に出合うと、「ん? うちのマネ? ・・・いやいや、うちがマネたんだった」などと図々しくなりましたが、私のように能力がない人間は、能力のある人のマネをするのが一番手っ取り早い。8年もその社訓と付き合っていると、いつの間にか、「ひとまず」が自分のものになり、もしかしたら、いつか師匠を抜く日が来るかもしれません。

 

経営計画書を道具としてスタートしたいと思う社長のもっとも正しい決断は、来期から経営計画書をつくると決めること、中身はひとまず人から借りること。あーでもない、こーでもないと中身に悩んでいたら、いつまでたっても始まりません。

本連載は、2014年2月27日刊行の書籍『低成長時代に業績を伸ばす社長の条件 』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

関根 威

SMC税理士法人 代表社員理事長

1990年明治大学経営学部卒業。同年民間上場企業入社、システムコンサルティングに7年間従事。中小企業に3年間勤務後、税理士法人せきね総合会計事務所(現SMC税理士法人)入社。現在、関与先数社の会計参与(役員)に就任。2007年から経営計画書を中心とした「せきね式未来社長塾」を開催。2012年12月に経営革新等支援機関としての認定を受ける。

著者紹介

連載低成長時代に業績を伸ばす社長の条件

低成長時代に業績を伸ばす社長の条件

低成長時代に業績を伸ばす社長の条件

関根 威

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