前回は、事業承継において、後継者と「従業員の評価方法と評価基準」を共有すべき理由を説明しました。今回は、新体制における外部との関係の重要性を見ていきます。

後継者の顔見せ等を行い、関係が維持できるよう準備を

会社の実質的な組織図をベースに後継者の経営力のテコ入れに着手する段階は、現経営者にとってはいよいよ会社の運営や事業判断に関する決定権を徐々に手放していくべき状況に入ったことを示します。内定・内示という形で示してはいても、具体的な日程までは絞り込んでいなかった経営の交代時期をほぼ決定し、そこに向けてのスケジュールを立てて粛々と作業を進めていくことになります。

 

その過程では、外部との関係にも明らかな変化が生まれてきます。

 

後継者の顔見せと引き継ぎをし、後継者による新体制においても関係を維持していけるような準備を行わなければならないのです。

 

その第一は金融機関とのつきあいになります。

 

取引のある銀行などに事業承継のスケジュールを伝え後継者を紹介し、今後はこれまで以上のサポートが受けられるよう、関係強化に向けた働きかけを行うことになります。

 

その際、特に後継者にすすめたいことは、「銀行に定期的に出向く」ことなのです。現状では取引銀行との窓口は経理担当役員になっており、現経営者にはその習慣がなくなっているかもしれません。しかし、少なくとも事業承継が完全に成功に終わったと確認できるまでは、銀行との窓口は後継者自身が務め、財務・経理担当者とともに自ら足を運ぶという方針に変えるべきです。

 

後継者が定期的に出向き、その人となりを早い段階で理解してもらうことで、何より銀行側が安心します。そして、銀行から経営上のアドバイスをタイムリーに受けることもできるようになるのです。創業者あるいは長年にわたって会社を経営している経営者に対しては、実は銀行はストレートに物事を伝えられていないことが意外に多いものです。右肩上がりで業績を伸ばしてきた経営者は、当然、銀行の利益にも貢献していることになりますから、「自分がこの銀行を大きくした」などという自負を持っている場合もあるもの。その結果、長年のつき合いから銀行の方が経営者に頭が上がらず、たとえば、事業改善してほしいと考えたとしてもその要請を抑えざるを得なかったという例はよくあります。ところが、そのような関係はお互いにとってのデメリット以外の何ものでもありません。

 

一方、新たに登場した後継者に対しては、会社の現状についてアドバイスや改善要求ができます。「雨降って地固まる」ではありませんが、その機会を活用し後継者と銀行との関係を強化しておくべきなのです。

 

「相談事や報告がなければ銀行には行きづらいのではないか」と思われるかもしれません。しかし、会社には必ず年に一度の決算があります。そこで決算が終わるごとに後継者が銀行の支店長を訪ね、報告をするという習慣をつくってしまえばよいのです。また、銀行によっては交流会やゴルフコンペがあるところも一般的です。また、銀行主催の若手経営者塾や二世経営者の会などを開催しているケースも多いので、そのような機会も含めて頻繁に銀行との交流を持てばよいのです。そのような場での他社との交流や情報交換は後継者の経験や能力アップとなりますし、何よりも、銀行との関係強化につながります。

 

活力のある中小企業経営者の7割近くは、実際にセミナーやシンポジウム、異業種交流会などに参加しています。いかに多忙であっても、外部に出て新たな知識の収集や人脈の構築に努めることは、会社全体の底上げに寄与します。銀行は経営上の情報や提言だけでなく、こうした機会までも提供してくれるわけですから、後継者の方は積極的に関わることを考えなければなりません。

同業者、提携会社等の交流会に、後継者を参加させる

次いで、取引先、仕入先との関係です。その人脈を新たなものとするためには、やはり現経営者自らが後継者を紹介し「よろしく頼む」と頭を下げることが大切です。取引先や仕入先に後継者を紹介し、きちんと引き継ぎをする機会を経ると、後継者の評判を外部に伝えてくれるという副産物も大いに期待できます。こちらも銀行の場合と同じく、同業者、提携会社、協力会社間の交流会などの場があるはずですから、そこには積極的に後継者を参加させるべきです。

 

そのような場面で培われるよい評判が外部に広く伝われば、事業承継においても当然大きなプラスとなるはずです。

 

実際は、会社の業務内容によって取引先と仕入先のどちらに重きを置くべきか異なることでしょう。その場合も、短期間で事業承継を達成するキーワードである「欲張りすぎない」が有効になります。必ずしも取引先と仕入先の両方に同じだけの比重で人脈の引き継ぎを行う必要はありません。限られた時間ですから、会社のビジネスモデルに従って、より大切な方に重点を置く方針を立てることが大切です。

本連載は、2016年6月24日刊行の書籍『たった1年で会社をわが子に引き継ぐ方法』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

たった1年で会社を わが子に引き継ぐ方法

たった1年で会社を わが子に引き継ぐ方法

浅野 佳史

幻冬舎メディアコンサルティング

近年、日本の多くの中小企業が承継のタイミングを迎えています。承継にあたっては、親から子へと会社を引き継ぐパターンが多いのですが、親子間だからこそ起こるトラブルがあることを忘れてはいけません。 中小企業白書による…

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