東日本大震災を例に学ぶ「需要ショック」「供給ショック」

今回は、景気悪化をもたらす「供給ショック」「需要ショック」について、東日本大震災を例に解説します。※本連載では、SMBC日興証券株式会社のシニア財政アナリストとして活躍する宮前耕也氏の著書、『アベノミクス2020―人口、財政、エネルギー』(エネルギーフォーラム)から一部を抜粋し、人口や財政、エネルギーの観点から日本経済の課題を考察します。

企業等による設備投資が急減する「需要ショック」

日本は、東日本大震災であまりにも多くのものを失いました。経済活動のストック面に着目すれば、20兆円前後(1)の資産が失われました。

 

1)毀損ストック額は、内閣府政策統括官(経済財政分析担当)では16兆~25兆円、内閣府政策統括官(防災担当)では約16.9兆円、日本政策投資銀行では約16兆円との推計を公表しています(『平成24年度経済財政白書』216頁を参照)。

 

ただ、景気というフロー面に着目すれば、失われた資産を取り戻そうとして、復旧・復興需要が出ました。オフィスや場、店舗を再建したり、仮設を含めて住宅を新築したり、道路など公共施設を復旧したり、といった動きです。供給ショックは、急激な景気悪化をもたらしますが、復旧・復興を果たす能力が日本国内に残されていれば、その後の景気回復をもたらすといえます。

 

なお、景気悪化をもたらす原因として、需要ショックと供給ショックの2種類あります。ショックが起きるのが需要サイドなのか供給サイドなのかが異なる訳ですが、起きたあとの現象も異なります。需要ショックは、設備投資や雇用の減少、物価下落をもたらしやすいのに対し、供給ショックは、設備投資の増加や物価上昇をもたらしやすいです。そのメカニズムを解説してみましょう。

 

まず、需要ショックについて考えてみます。需要ショックとは、何らかの原因で民間部門の支出、例えば、家計による消費支出や企業による設備投資が急減することです。わかりやすい例としては、金融危機が挙げられます。金融危機は、政府や大企業などが借りた資金を、返済できないことがきっかけとなってしばしば起こります。

 

借りた資金の元本や利子を返済できないことを「デフォルト(債務不履行)」と呼びます。政府や大企業がデフォルトを起こすと、金融市場で混乱を招くことになります。一旦デフォルトが起こると、資金の出し手(投資家や銀行など)は疑心暗鬼に陥り、当該政府・企業以外に対する資金融通にも慎重になります。

 

そうなると、ローンへの依存が大きい需要、例えば、設備投資や住宅購入、あるいは自動車など一部の高額消費を冷え込ませることになります。それが企業収益や家計の所得減を招き、ますます需要を縮小させることになります。

 

経済活動は、需要ショックが起きると「需要減→供給減→所得減→需要減→・・・」という負のスパイラルに陥りやすく、放っておけば、どんどん景気が悪化します。

 

一般に供給能力を削減するスピードは、需要が減少するスピードに追いつかないことから、供給が過剰な状態に陥ります。モノが余る訳ですから、企業は値下げをして、消費者の需要を喚起しようとします。この動きが世の中全体で起これば、物価が下がることになります。

 

また、供給能力の削減は、設備投資や雇用の減少につながります。需要ショックを止めるには、政府による財政支出や中央銀行による金融緩和など、負のスパイラルを止める措置が必要になります。リーマン・ショックに際して、各国が協調して金融緩和や財政出動を行ったのは、このためです。

 

日本銀行の場合は、単なる利下げのみならず、社債を購入するなど、企業金融を支援することで、金融市場の混乱を抑えようと努めました。

 

供給能力自体が毀損してしまう「供給ショック」

次に、供給ショックについて考えてみます。供給ショックとは、何らかの原因で企業が供給能力を発揮できない、あるいは供給能力自体が毀損してしまうことです。まさに東日本大震災がその例となります。

 

震災でオフィスや工場、店舗が被災すると、活動休止を余儀なくされます。また、直接的な被害がない場合でも、部品やエネルギー供給が滞ってしまうと、企業は活動できません。そうなれば、モノやサービスに対するニーズ(需要)があっても、企業が供給できず、ニーズに応えることができない状態に陥ります。

 

モノが不足する訳ですから、値上がりが起きやすくなります。値上がりが起きると、消費者の需要が抑制されます。企業は、その間に、ニーズに見合うような供給能力を回復させようと、設備投資を増やすことになります。

 

すなわち供給ショックが起きると、需要ショックとは逆に、物価上昇と設備投資増が促されます。東日本大震災の際は、自粛ムードで需要が減少したこともあり、物価全体の上昇にはつながりませんでしたが、一部の財は値上がりしました。

 

例えば、東北地方では、製油所の被災でガソリン不足に陥り、ガソリンの値段が高騰しました。また、民間の設備投資は、2011年後半に大幅に増加しました。加えて、政府による復旧・復興への投資により、公共投資はやや遅れて2012年入ってから急増しました。

 

なお、供給ショックが起これば、必ず設備投資や公共投資が増えるかというと、そうとは限りません。東日本大震災では、被災地以外の地域で、この復旧・復興需要に応えられるだけのヒト・モノ・カネの資源があったため、日本のGDP増につながったのです。

 

もし日本の大部分の地域で資産や供給能力が同時に失われてしまえば、日本の国力では復旧・復興をなし得ず、他国の支援を仰がざるを得ません。物資を日本国内で賄えなければ、輸入に頼ることになり、GDPも大幅に減少することになります。

 

GDPが減少するということは、その分、日本国内(国民)の所得が減ってしまい、生活水準が落ちることを意味します。

 

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SMBC日興証券株式会社 シニア財政アナリスト

1979年、大阪府生まれ。1997年に私立清風南海高等学校卒業。2002年に東京大学経済学部卒業後、大阪ガス㈱入社。2006年に財務省へ出向し、大臣官房総合政策課調査員として日本経済、財政、エネルギー市場の分析に従事。財務省在籍中に『図説 日本の財政(平成18年度版)』および『図説 日本の財政(平成19年度版)』(東洋経済新報社)を分担執筆。2008年に野村證券㈱入社。債券アナリスト兼エコノミストとして日本経済、金融政策の分析に従事。2011年にSMBC日興証券㈱入社。エコノミストを経て、現在はシニア財政アナリスト。

著者紹介

アベノミクス2020―人口、財政、エネルギー

アベノミクス2020―人口、財政、エネルギー

宮前 耕也

エネルギーフォーラム

創業100周年を迎えた大手証券の新進気鋭アナリストが、日本経済を徹底検証! 人口や財政、エネルギーの観点から、安倍政権への宿題を提示します。

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