今回は、「北朝鮮ミサイル打ち上げ」をどう見るかについて取り上げます。※本連載は、元外務省主任分析官として対ロシア外交の最前線で活躍し、現在は作家として執筆活動やラジオ出演、講演活動を行っている佐藤優氏の著書『佐藤優の地政学リスク講座 一触即発の世界』(時事通信出版局)の中から一部を抜粋し、緊張が高まる国際情勢分析をご紹介します。※本連載は、2018年1月22日刊行の書籍『佐藤優の地政学リスク講座 一触即発の世界』から抜粋したものです。

空と海では異なる運用

前回の続きです。

 

「領土」と「領海」を確認したので、「領空」を見ていきましょう。

 

さて問題です。日本の領空に、戦闘機のようにミサイルや機関銃がついていない、どう見てもボーイング767のような旅客機が入ってきたとします。攻撃はしないようだけれども、国籍はよく分からない。こういう状態のときに、国際法的に、この旅客機を撃ち落としてもよいでしょうか。それともだめでしょうか。

 

これは撃ち落として構わないんです。「領空」においては、先ほど確認したような「領海」における「無害通航権」はありません。軍用機であるとか、国籍不明機は、発見した瞬間に撃ち落として構わない。これが国際法の考え方です。

 

はっきりと民間航空機と分かる飛行機との間では、国際的に決められている通信用の周波数で連絡を取ることができます。その周波数を使って当該機に連絡を取り、「あなたの機は領空侵犯しているから、これから、この空港に着陸してください」と言って強制着陸させることができるんです。

 

つまり、空と海では運用の仕方が全然違います。

 

だから、領空侵犯がもし起きているとすれば、それは開戦前夜みたいな話です。

 

領海の12海里の上空が領空ですが、日本はその外側100〜400キロのところまで「防空識別圏」を設定しています。もし、「防空識別圏」内にロシアや中国の飛行機が入ってきたら、例えば、小松空港から航空自衛隊のF15戦闘機がスクランブルで発進して、例えばロシア機であれば、ロシア語でパイロットに防空識別圏を越えていると警告するわけです。

 

私の知り合いで、自衛隊のパイロットをしている人がいるのですが、日本の防空識別圏を越えて入ってきたロシア機の横にぴったりくっついて飛んだことがあるそうです。それでマッハ2ぐらいの速度で飛んでいたら、コックピットにいたロシア人のおじさんが画用紙に「平和」って漢字で書いて、こっちにその画用紙を見せながら、手を振ってくるのが見えたそうです(笑)。マッハ2というのは音速を超えているから、ちょっと操縦を間違えたら接触して墜落です。まあ、パイロット同士で、そういうふうにして腕を競っているというような話です。

 

しばらく前に、ロシア軍機がトルコに入って、それをトルコ側が撃ち落として、一時、ロシアとトルコの間で戦争になるんじゃないかという危機がありました。その後、トルコ国内でクーデター未遂が起きたから、この話があいまいになりましたが、そういう危険な話です。

ロケットは打ち上げても構わない

さて、ミサイルの話に戻ります。

 

8月29日北朝鮮から弾道ミサイルが発射された日、小野寺五典防衛大臣は記者団に「日本の領空を約2分間飛翔したが、わが国に飛来する恐れがないと判断し、自衛隊法に基づくミサイル破壊措置は実施しなかった」と説明しました。領空という言葉が言い間違いの可能性もあります。しかし、あの日の朝、日本の政治かも報道関係者も領空と、領空外の宇宙空間に属する上空との区別がついていたようには思えません。

 

仮に、領空を飛翔したということであればそれは領空侵犯で、確認してきた通り、これは開戦前夜みたいなものです。だから、あの日大変だったわけです。「これは開戦前夜みたいなものだ。北朝鮮は日本の領空を侵犯して戦争を始めるんじゃないか」ところが、「領空」には高さの問題があるんです。

 

国際法では、これまで確認してきた「領海」とか「領土」とか「無害通航権」ということについては、「国連海洋法条約」という文書になっています。でも、文書になっている国際法というのは実はごく一部で、文書になっていない「慣習国際法」というものがあります。

 

慣習的な国際法では、宇宙空間は自由に利用できる場所です。どの国も、ミサイルやロケットを打ち上げてもかまわない。

 

ミサイルとロケットの違いは何か。先端に爆弾がついていればミサイル、爆弾がついていなければロケットです。現段階で北朝鮮は先端に爆弾をつけていないので、「ロケットを打ち上げた」と言っても、それはうそではない。

 

ただし北朝鮮は例外的に、ロケットやミサイルを打ち上げることを国連の安保理決議で禁止されています。どうしてかというと、核兵器をつくって、それを小型化してミサイルに搭載する危険性があるからです。でも、北朝鮮がもし国連を脱退すれば、安保理決議の拘束はかかりません。

 

宇宙空間の範囲はどうなっているのか明確な定義はないのですが、慣習的な国際法では「大気圏外」を宇宙と言っています。

 

プロペラ機が飛んでいるのは大体高度3000メートルから7000メートルぐらいでしょう。ジェット機が飛んでいるのは高度8000メートルから1万2000メートルぐらいですね。いずれにせよ対流圏といわれる16キロメートル以内です。大気圏というのは、成層圏、中間圏を超えた80キロメートルあたりから急に空気が薄くなる。120キロメートルを超えると、地球の引力による大気はなくなり宇宙空間になる。通常、100キロメートルを超えた上空は、どの国の領空でもない。主権が及ばないとされているわけです。

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    本連載は、2018年1月22日刊行の書籍『佐藤優の地政学リスク講座 一触即発の世界』から抜粋したものです。最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

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