今回は、核廃絶に向けて我々に求められる思考について取り上げます。※本連載は、元外務省主任分析官として対ロシア外交の最前線で活躍し、現在は作家として執筆活動やラジオ出演、講演活動を行っている佐藤優氏の著書『佐藤優の地政学リスク講座 一触即発の世界』(時事通信出版局)の中から一部を抜粋し、緊張が高まる国際情勢分析をご紹介します。※本連載は、2018年1月22日刊行の書籍『佐藤優の地政学リスク講座 一触即発の世界』から抜粋したものです。

危ない「盾」の強化

前回の続きです。

 

それを認識した上で今の緊張状態の軟着陸を図って、北朝鮮だって圧倒的多数の人たちは普通の人間なんですから、中長期的、10年とか15年とかいうスパンで核廃絶に向けていく流れをつくらないといけない。

 

ちなみにTHAADみたいな高高度防衛システムを入れるのは私は反対です。どうしてかというと、これは矛と盾の盾を強化するということで、かつてレーガンがソ連に対して同じことをやりました。それでアメリカに対抗したソ連が盾を強化しようとして経済力がないために息切れしてソ連崩壊へと向かったわけです。

 

だから現在のロシアや中国はそこから学んでいて、盾ではなくて、矛を強化する方向に向かっています。それは多弾頭なんです。

 

今の最新型ミサイルは、相手の陣地に着弾する前に、ぱこっとふたが開いて、鳳仙花みたいに10個ぐらいの爆弾が飛んでくるという形です。今は10個ぐらい出せるんだけど、これが40個、50個出せるようにもうすぐなるでしょう。

 

そうしたらトリクルダウン(技術移転)が起きる。北朝鮮が多弾頭ミサイルを持つようになる。そして中東の独裁国が持つようになる。「イスラム国」のような国際的なテロ組織が持つようになる。そうしたら偶発的な核戦争で人類は死滅するかもしれない。こういうリスクがあるから、核廃絶、少なくとも軍拡競争を止めることがものすごく重要なんです。

核兵器でも起こり得る「トリクルダウン」の怖さ

トリクルダウンの怖さは、この前、アメリカのラスベガスで320メートルぐらいのビルから銃を乱射した事件がありましたね。あの時、ビルの32階から撃って、500メートル先にいた人が弾に当たって死んでいます。

 

銃には、もともとそんな殺傷力はなくて、あの事件の犯人は1分間に700発撃つことができる装置を銃につけていた。軍の銃ならともかく、民間人の持つ銃でなぜそういうことが可能になったのでしょうか。

 

9・11の米同時多発テロの後、アメリカはアフガニスタンで戦争をしていました。アメリカ兵の犠牲を減らすために、向こうからは届かず、こちらからは長距離を撃てる正確な銃が必要になって開発したら、その技術が民間に下りていっちゃったんです。

 

それで、一人の変なおじさんがビルの上から銃を乱射して、簡単に大量の人を殺せるようになったんです。

 

核兵器でも同じトリクルダウンが起きる。だから本当に今は大変な時代だけれども、何とか我々は生き残るために柔軟な思考と総合的な判断力を持って、社会や国際情勢を見ていかないといけないんです。

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    本連載は、2018年1月22日刊行の書籍『佐藤優の地政学リスク講座 一触即発の世界』から抜粋したものです。最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

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