前回は、一人ひとりに寄り添った丁寧な介護を提供する「訪問介護」の役割を取り上げました。今回は、利用者とのトラブルを回避する「ヘルパーステーション」の活用について見ていきます。

「できること」「できないこと」に柔軟な線引きを

事例:津中央ヘルパーステーション

 

トラブルを信頼関係に変えるテクニックを身につける

 

●現場とステーションの連絡を密にとる

●臨機応変、柔軟な対応を身につける

●明日はどうなるかを考え、利用者との関係を結ぶ

 

ホームヘルパーの仕事では、施設介護とは違うトラブルが起こりがちです。たとえば、介護保険サービスの規則では、掃除は利用者が使う部屋やトイレなどの共用部分のみとされているので、ほかの家族と同居している場合、基本的には台所や玄関などは掃除することができません。

 

それについては、ケアプランを定める際に利用者とその家族に確認をし、理解を得ていますが、時間が経つにつれてうやむやになってしまうこともよくあります。気心がしれてくると、「ついでに○○もお願いしていい?」といわれることがあります。その際に「規則でできないんです」というと、ときに「そのくらいのことができないのか!」と気分を害されてしまう場合もあります。

 

そういう場合、現場のホームヘルパーと利用者の関係が崩れてしまわないよう、ヘルパーステーションを活用します。

 

ホームヘルパーは返答に困ることがあれば、ステーションに連絡をして、管理部門の職員に断ってもらうようにすることが大事です。嫌われ役はヘルパーステーションが担い、現場スタッフが利用者の反感をかうことがないようにします。

 

また、すべてをマニュアルどおりにするのが必ずしもよいとは限りません。たとえば、台所の拭き掃除はホームヘルパーの仕事ではありませんが、食べこぼしがあれば、自然と拭いてしまうはずです。玄関に砂埃がたまっていたらササッと簡単に掃き掃除をすることは、利用者の安全を確保することにもなります。こうしたことは、現場で個々のホームヘルパーが臨機応変に判断し対応しますが、疑問に思うことはすべてステーションに報告をし、定期的なヘルパー会議の議題としてほかのホームヘルパーとも共有します。

臨機応変に対応する判断力が必要

現場での心構えとして「なぜ、ホームヘルパーがここに派遣されているか」という存在意義を考えることが大事です。ヘルパーの存在価値は、在宅生活で不自由を強いられる利用者や、大変な思いをして在宅介護をする家族を支援することにあります。その責任を忘れてはいけないのです。

 

あるホームヘルパーが担当した、脳梗塞を患って退院したばかりの70代の男性は、脳障がいの影響もあり、言語障がいと拒否反応が強い人でした。排泄介助をしようとしても、布団を蹴飛ばして、介助をさせてもらえませんでした。見かねた家族から「私がやりますから帰ってください」といわれましたが、担当したホームヘルパーは家族ができないからこそ、自分たちホームヘルパーに委ねられているのだと考え、「お気に召さないことをしてしまったんですね、すみませんでした」「つらかったですよね」と繰り返し、介助を続けました。するとそのうち、ふと空気が和らいで、お尻を上げる協力動作をしてくれたそうです。

 

トラブルが起こると「ここでやめて帰ってしまいたい」と思うものですが、そこで帰ったら、利用者との関係は今日で終わってしまいます。私たちの仕事に明日やればいいということはありません。

 

ホームヘルパーが担当する利用者はさまざまです。加えて、日によって利用者の体調や気分も違います。ホームヘルパーには、利用者が何を求めているのか、なぜそれを求めるのか、今どんな気持ちなのかを正しく理解した上で、臨機応変に対応する柔軟な判断力が必要になります。

本連載は、2017年8月26日刊行の書籍『利用者満足度100%を実現する 介護サービス実践マニュアル』から抜粋したものです。

利用者満足度100%を実現する 介護サービス実践マニュアル

利用者満足度100%を実現する 介護サービス実践マニュアル

山田 俊郎

幻冬舎メディアコンサルティング

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