トランプ政権が「エネルギー支配」を宣言・・・その思惑とは?

本連載は、東京大学公共政策大学院教授の有馬純氏の著書、『トランプ・リスク――米国第一主義と地球温暖化』(エネルギーフォーラム)より一部を抜粋し、トランプ政権の下で「米国のエネルギーセクター」はどうなるのか、その行方を探ります。

規制を除去し、インフラ開発を進めると演説

2017年6月29日、トランプ大統領は、エネルギー省で開かれた「Unleashing American Energy(米国のエネルギーを束縛から解き放つ)」と題するイベントで演説を行い、「米国は、無限に近いエネルギー資源を有しており、これを活用して長年追求してきたAmerican energy independence(米国のエネルギー独立)のみならず、American energy dominance(米国のエネルギー支配)を目指す。

 

米国のエネルギーを世界中に輸出することにより、雇用を創出するとともに、米国の友好国、パートナー国、同盟国のエネルギー安全保障を確保する。

 

そのためには、エネルギー開発が不可欠であり、過去8年間、米国のエネルギー開発を阻害してきた規制を除去し、インフラ開発を進める」と表明した。そして、「米国のエネルギー支配の新たな時代」を実現するために6つのイニシアティブを発表した。

 

●原子力セクターを復活させ、拡大するために米国の原子力政策の包括的レビューを行う。

 

●財務省は、高効率石炭火力発電の海外展開への融資に対する障壁を取り除く。

 

●メキシコへの新たな石油パイプライン建設を許可する。

 

●センプラ・エナジーによる韓国への米国産天然ガスの販売交渉を開始する。

 

●エネルギー省は、レイク・チャールズLNG(液化天然ガス)ターミナルからの2件の天然ガス長期輸出案件を許可する。

 

●前政権が開発を禁止してきたオフショアの連邦所有地におけるエネルギー開発を開放する。

豊富なエネルギー資源を外交ツールとするのが目的か

この演説で注目されるのは、「エネルギー支配」という概念である。エネルギー自給率を高め、他国がエネルギーを経済的武器として使うことによる地政学的リスクから米国を守るという「エネルギー独立」は、1973年にニクソン政権が第一次石油危機に直面して以来、米国の歴代政権が一貫して追求してきた目標であった。

 

しかし、近年のイノベーションにより、米国の石油・ガスの探査、掘削技術が大きく進歩し、2026年には、米国はエネルギー純輸出国になると見込まれている。

 

トランプ政権は「エネルギー独立」を一歩進め、米国の豊富なエネルギー資源を外交ツール「エネルギー支配」を表明するトランプ大統領として活用することも視野に入れている。

 

例えば、2017年7月にポーランドで開催されたThree Sea Initiative 首脳会合で、トランプ大統領は、ロシアへの天然ガス依存を懸念するウクライナ、ポーランド、ハンガリー、バルト三国などに対して、米国産LNGの輸出が中東欧地域の対ロシア依存軽減に貢献することをPRし、関係強化の梃子にしようとしていた。

 

日本、韓国、中国、インドなどとの二国間協議の際においても、米国産LNG輸出を貿易などの他のアジェンダと絡めて、外交ツールのひとつにすることも考えているようだ。

 

なお、「Energy Dominance(エネルギー支配)」という用語が適切か、という議論もある。dominate(支配)が発生すれば、必然的にdominated(被支配)が発生する。

 

オバマ政権でエネルギー省国際担当次官補を務めたジョナサン・エルキンド・コロンビア大学上席研究員は、「米国産エネルギーの顧客と目される国々が望むのは支配されることではなく、パートナーシップである」と述べている。

 

⭐️出所:ホワイトハウス(https://www.whitehouse.gov/blog/2017/06/30/president-trump-vows-usher-golden-era-american-energy-dominance)
出所:ホワイトハウス(https://www.whitehouse.gov/blog/2017/06/30/president-trump-vows-usher-golden-era-american-energy-dominance)

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連載トランプ政権でどうなる!?「米国のエネルギーセクター」の行方

東京大学公共政策大学院 教授

1959年生まれ。1982年、東京大学経済学部卒業後、通商産業省(現・経済産業省)入省。2002年に国際エネルギー機関(IEA)国別審査課長、2006年に資源エネルギー庁国際課長、2007年に国際交渉担当参事官、2008年に大臣官房地球環境担当審議官、2011年に日本貿易振興機構(ジェトロ)ロンドン事務所長兼経済産業省地球環境問題特別調査員を経て、2015年8月より東京大学公共政策大学院教授、現職。

国際大学客員教授、21世紀政策研究所研究主幹、アジア太平洋研究所上席研究員、経済産業研究所コンサルティングフェロー、東アジア・アセアン経済研究センター(ERIA)シニアポリシーフェローも兼務。気候変動枠組条約締約国会議(COP)にはこれまで12回参加。

主な著書に『精神論抜きの地球温暖化対策―パリ協定とその後』(2016年、エネルギーフォーラム)、『地球温暖化交渉の真実-国益をかけた経済戦争』(2015年、中央公論新社)など。

著者紹介

トランプ・リスク――米国第一主義と地球温暖化

トランプ・リスク――米国第一主義と地球温暖化

有馬 純

エネルギーフォーラム

本書では、パリ協定離脱を巡る政権の内幕を探ります。また、トランプ政権の下で米国のエネルギーセクターはどうなるのかなど、トランプ政権のエネルギー政策について冷静に分析した一冊となっています。

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