今回は、建設業にありがちな「入金と出金のズレ」を防ぐ方法を見ていきます。※本連載は、株式会社アイユートの代表取締役で、中小建設業専門の財務・原価コンサルタント、経済産業省後援ドリームゲート・アドバイザーも務める服部正雄氏の著書、『小さな建設業の脱! どんぶり勘定 事例でわかる「儲かる経営の仕組み」』(合同フォレスト)の中から一部を抜粋し、建設業の生死を分ける「資金繰り」について解説します。

工事代金は素早く回収、支払うお金は慎重に

これまでの連載で、建設業の入金と出金のズレが資金繰りを切迫させる原因であることは、ご理解いただけたと思います。では、入金と出金のズレを防止するための事例を解説していきましょう。

 

ポイントは、「工事代金は素早く回収、支払うお金は慎重に」です。

 

リフォーム工事の際、発注主への請求書の発行が遅い会社が珍しくありません。なぜなら、契約書がなく、事務方が請求書をスピーディーに提出できる仕組みができていないためです。

 

施工後、工事担当者が、材料の納入先や協力会社などからの請求金額をまとめ、原価を算出してから事務に指示するため、どうしても時間がかかります。

 

一方、下請工事を請け負う会社では、元請先からの注文書で請負金額が確定する仕組みがあります。しかし、その回収には、やはり時間がかかります。

 

たとえば、工事が終了しても、元請会社などから注文書が到着するのが約2カ月後ということがあります。その後請求書を提出し、翌々月に支払われた場合、工事代金の回収に半年かかるわけです。

 

なぜ、元請会社からの注文書の到着が遅いのでしょうか? 元請会社も、お客様との契約後に自社の実行予算を組んで、さらに社内の決済ルートを経由して施工会社へ支払う金額が確定します。

 

でも、その段階では工事は終了しているので、下請工事を請け負った会社では材料の購入費や職人さんへの支払いなど、立替え金がすでに発生しています。繰り返しになりますが、入金と出金のズレの発生です。

「予算がないので、今回は貸しに…」がまかり通る業界

土木工事や建築工事など、元請先から専門工事を請け負うサブコン的な立場の会社でも、現場では先に工事が始まります。金額が決まらないまま始まることもあり、元請先の監督から指示が出て、現場では着々と工事が進行します。

 

大手の元請会社では、社内の決済ルートを経由するために実行予算の決済に時間がかかり、利益が乏しいと思われる工事ではとくに、原価の低減策などの知恵を絞るために決済に日にちがかかります。

 

最悪の場合は、工事が完了したものの、注文書が出ずにお金がもらえないというケースも散見されます。これは建設業の悪しき慣習で、ほかの業界ではほとんどないことかもしれません。

 

「予算がないので、今回は貸しにしておいてください。今度、利幅の大きい工事があったときに、見積もり金額より多く注文書を切ってお返ししますから」

 

そんな話が、まかり通っているのです。本当に返してもらえたかどうかは、「どんぶり勘定」ではわかりません。残念ながら、返してもらう前に担当者が転勤や退職してしまい、不良債権となっているケースも多く見られます。

 

代金を素早く回収することがいかに重要で、容易ではないことがおわかりいただけたかと思います。

 

この話は次回に続きます。

小さな建設業の脱! どんぶり勘定 事例でわかる「儲かる経営の仕組み」

小さな建設業の脱! どんぶり勘定 事例でわかる「儲かる経営の仕組み」

服部 正雄

合同フォレスト

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