今回は、「おおつごもり【大晦・大晦日】」を解説します。※本連載は、元小学館辞典編集部編集長で、辞書編集者として多数の辞書作りに携わってきた神永曉氏の著書、『さらに悩ましい国語辞典』(時事通信出版局)の中から一部を抜粋し、変化し続ける「ことばの深さ」をお伝えします。

つごもりは「月の末日」の意味なので・・・

おおつごもり【大晦・大晦日】〔名〕

 

江戸時代は大勝負の日だった

 

一年の最終日である「大晦日」は、「おおみそか」とも「おおつごもり」とも読まれる。ただ、現在では「おおみそか」の方が一般的な言い方であろうが。

 

「みそか」は月の初めから30番目の日、すなわち月の末日のことで、特に12月の末日を「おおみそか」と言うようになったのである。

 

「つごもり」はツキコモリで、月の光がまったく見えなくなる頃を言ったらしい。陰暦ではそのようになるのは月の終わり頃にあたるので、月の下旬や月の末日の意味になり、やはり年の最後の日を「おおつごもり」と呼ぶようになったわけである。

 

井原西鶴の晩年の作『世間胸算用(せけんむねさんよう)』には「大晦日(おおつごもり)は一日千金」という副題が付けられていて、居留守やけんか仕掛け、亭主の入れ替わりなど、さまざまな手を使って借金取りを追い返し、なんとか大晦日を切り抜けていこうとする町人たちの姿が描かれている。

 

また西鶴には「大晦日」を詠んだ、「大三十日定なき(おおみそかさだめなき)世の定哉」という句もある。

 

今でこそ大晦日は、「紅白」を見たり、カウントダウンに立ち会ったり、年越し蕎麦を食べたり、除夜の鐘をついたり聞いたりする日というイメージが強いが、江戸時代はまさに一年の総決算、勝負の日だったのである。

言い間違いの「おおつもごり」は今も方言に残る?

なお余談ではあるが、「おおつごもり」と声に出して言うのは何となく言いづらくはないだろうか。つい「おおつもごり」と、「ご」と「も」を入れ替えて言ってしまいそうな。このような一語の中で音の位置が変わってしまう現象を音位転倒(転換)と言うのだが、そんな気がするのは私だけかと思ったら、「おおつもごり」の例は『日本国語大辞典(日国)』によればけっこう古くからあった。たとえば、

 

「除夜の大つもごりの中宗の諸の王たちをあつめて酒宴さしむたぞ」(『玉塵抄(ぎょくじんしょう)』〈1563年〉五一)

 

などである。『玉塵抄』は、中国元の時代の書『韻府群玉(いんぷぐんぎょく)』の注釈・講述書で、著者は室町後期の臨済宗の僧・惟高妙安(いこうみょうあん)である。さらに『日国』では、方言欄で「おおつもごり」系の方言と思われる、

 

「《おおつもご》愛知県愛知郡・碧海郡三重県一志郡長崎県南高来郡《おおつもごお》島根県出雲《おおつもごも》愛知県額田郡《おおつも》静岡県《おつもご》愛媛県新居郡」

 

といった方言形を紹介している。ひょっとすると「おおつもごり」は現在でも方言として各地に残っているのかもしれない。ただし、『日国』で示された分布地域を見ると、西日本に多いようだ。ちなみに先ほどの『玉塵抄』の著者、惟高妙安は近江の人である。

 

□大和ことば・伝統的表現

 

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