悩ましい日本語⑳ うんぬん【云云】〔名〕

今回は、「うんぬん【云云】」を解説します。※本連載は、元小学館辞典編集部編集長で、辞書編集者として多数の辞書作りに携わってきた神永曉氏の著書、『さらに悩ましい国語辞典』(時事通信出版局)の中から一部を抜粋し、変化し続ける「ことばの深さ」をお伝えします。

首相が「でんでん」と読んで話題に

うんぬん【云云】〔名〕

 

女子大生の発想を超えた高度な「ウソ読み」?!

 

少し前のことだが、安倍晋三首相が国会で「云々」を「でんでん」と読んで話題になったことがあった。もちろん「云々」は「うんぬん」と読むのが正しい。

 

人の誤読を話題にするのはあまり趣味のいい話ではないのだが、誰しも読み間違いをしてしまうことはあるわけで、私としてはなぜ読み間違えてしまうのか、その理由を知りたくなるのである。

 

「云々」を「でんでん」と読んだのは、おそらく「云」に人偏(にんべん)の付いた「伝」からの類推であろう。

 

しかし「伝」という漢字の旧字は「傳」だったので、旧字のままだったら「云」を見て「傳」の字を思い浮かべることはなかったかもしれない。もしそのとき「雲」を思い浮かべていたら、字音は「ウン」なので、「うんうん」と読んでいたかもしれない。実際「云」という漢字は「雲」の古字でもあった。

 

このように漢字が読めないとき、同じ部分をもつ漢字を思い浮かべてその類推で読んでしまうことはよくあることだと思う。それで当たることもあるのだが、必ずしもそうならないところが漢字の面白いところかもしれない。

正しい読み方に導く「ウソ読みから引く辞書」も刊行

そのようにしてでもなんとか難読語を読もうとしている人がいる以上、少しでもそういった人の手助けとなるような辞典が作れないかという話を東京女子大学教授の篠崎晃一氏としていて、実際に形にしてしまった辞典がある。『ウソ読みで引ける難読語辞典』(篠崎晃一監修、小学館、2006年)という辞典である。間違った読み方を想定した「ウソ読み索引」から、目指すことばの正しい読み方を導くという、自分で言うのもなんだが、とてもユニークな辞典であった。

 

「ウソ読み」の収集は、東京と関西の五つの大学の先生にお願いして、学生さんに協力してもらった。特に東京女子大学の篠崎ゼミの学生さんには、可能性のあるいろいろな読みを考えてもらった。おかげで「なるほど」「そうくるか」といったウソ読みがふんだんに集まった。

 

ただ残念なことに、「云々」は難読語と考えて項目を載せてはいるのだが、それのウソ読みは「いいいい」だけで、「でんでん」は思いつかなかったのである。「でんでん」は大学生の発想を超えた、かなり高度なウソ読みだったのかもしれない。

 

この辞典はテレビや新聞、雑誌などにも取り上げられ、逆転の発想の辞典などと言われて少しだけ評判になった。ただその半面、『日本国語大辞典』の編集部がこのような日本語の乱れを助長するような本を出すのかという、厳しいご批判もいただいた。

 

監修者と私の意図は、難読語をちゃんと読める人は問題ないのだが、読むことができなくて困っている人、読めないままスルーしてしまう人をなんとか救わなければいけないということだったのであるが・・・。

 

□揺れる読み方

 

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連載日本語の不思議~『さらに悩ましい国語辞典』より

辞書編集者
元小学館辞典編集部編集長

1956年、千葉県生まれ。小学館に入社後、37年間ほぼ辞書編集一筋の編集者人生を送る。
担当した主な辞典は『日本国語大辞典 第二版』『現代国語例解辞典』『使い方のわかる類語例解辞典』『標準語引き日本方言辞典』『例解学習国語辞典』『日本語便利辞典』『美しい日本語の辞典』など多数。著書として『悩ましい国語辞典』(時事通信社)。
NPO法人「こども・ことば研究所」を共同設立し、「辞書引き学習」を中心とした活動で全国行脚している。

著者紹介

さらに悩ましい国語辞典

さらに悩ましい国語辞典

神永 曉

時事通信出版局

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