長寿のファミリー企業における「新製品開発」の留意点

前回は、長寿のファミリー企業における「製品戦略」の課題を考察しました。今回は、長寿ファミリー企業の製品戦略の内、もう一つの重要テーマである後継世代による新製品開発の留意点を見ていきます。

内部の伝統的製品との関係も重要な課題

新製品開発の意義はいくつか上げられますが、長寿ファミリー企業(創業100年以上)では、以下三つの主な意義が考えられます。

 

第一に、自社の製品ラインを充実することができることです。製品ラインの拡充は新たな収益機会を生むことに繋がります。

 

第二に、古く陳腐化した製品の代替を図ることができることです。これは、前回連載の通り、衰退期に位置する創業以来の製品からの撤退(もしくは新たな用途開発)に伴う、新製品(用途開発の場合、新機能が提案された製品)の市場導入のことです。

 

最後に、競合企業に対する製品差別化を図ることができることです。このことは、競合企業に対する差別的な競争優位性に繋がります。長寿ファミリー企業における新製品開発とは、外部の競争戦略の観点だけではなく内部の伝統的製品との関係においても、重要な課題となります。

新製品開発に有益な視点を提供する「製品3層モデル」

次に、新製品開発を検討する場合に有益な視点を提供してくれる概念として、製品3層モデルについて確認しておきましょう。

 

製品3層モデルとは、中核的製品、実際的製品、拡大的製品の三つの概念から構成されています。

 

第一の中核的製品とは、製品の便益(本質的な製品の価値)を示します。自動車であれば、人や荷物を目的地に速やかに移動させることと考えることができます。

 

第二の実際的製品とは、製品の品質、デザイン、機能、ブランドなどを示します。自動車では、デザイン性、耐久性、燃費の良さなどのことであり、多くの消費者にとって製品の価値として一番想起しやすい概念であるといえるでしょう。

 

第三の拡大的製品とは、品質保証、アフターサービス、配送などを示します。自動車会社による購買後の無料保守点検サービスなどのことであり、付随的に製品自体の価値を高める役割を果たしているといえるでしょう。

 

[図表]製品差別化のポイント

出所:Kotler & Keller(2007)の図10-2(邦訳p. 221)を参考に、筆者加筆のうえ作成。
出所:Kotler & Keller(2007)の図10-2(邦訳p. 221)を参考に、筆者加筆のうえ作成。
 

この製品3層モデルは、長寿ファミリー企業が新規で全く新しい製品を開発する場合と共に、既存製品のモデル・チェンジを検討する場合などにも参考にすることができます。長寿ファミリー企業が、中核的製品、実際的製品、拡大的製品のどのレベルから(もしくは全てのレベルから)競合企業との製品差別化を図るのかを検討する上で、重要な示唆を与えてくれるでしょう。

 

例えば、筆者の調査企業(和菓子製造販売業)では、伝統的な和菓子製品「おこし」を守りつつ、若者向けにアレンジした新製品(チョコレートでコーティングしたおこし)の開発を行っています。これは、製品3層モデルでいえば実際的製品のレベル(品質)における他社との差別化ということができます。このように、新製品開発によって製品差別化が実現できれば、長寿ファミリー企業は持続的成長に伴う新しい糧を得ることに繋がります。

 

他方、これまでの連載で述べてきた通り、長寿ファミリー企業では、伝統的な製品が存在することが多くあります。

 

例えば、新製品開発によって競争優位な製品差別化を図れたとしても、これによって伝統的な製品のブランドイメージが毀損してしまっては意味がありません。長寿ファミリー企業では、新製品を行うにあたっては、伝統的製品との整合性を検討しておく必要があるでしょう。先の事例企業においても、新しく開発される製品は、創業以来の伝統的製品の「おこし」に依拠しつつ、現代人に合致した形で提案されています。

 

このように、長寿ファミリー企業では、単純に新製品開発を行うのではなく、外部の競争戦略の観点と内部の伝統的製品との整合性の観点から検討せねばならないことが分かります。

 

次回は、更に進めて新製品開発のプロセス(アイデアの収集から市場導入までの過程)の観点から、長寿ファミリー企業の事業承継を考えていくことにしましょう。

 

 

<参考文献>
Kotler, P. and Keller, K. L. (2007) “A FRAMEWORK FOR MARKETING MANAGEMENT, 3rd Edition”, Prentice-Hall. (恩藏直人監訳・月谷真紀訳『コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント基本編(第3版)』ヒアソン・エデュケーション, 2008).

落合康裕(2016)『事業承継のジレンマ:後継者の制約と自律のマネジメント』白桃書房.
 

本連載は書下ろしです。原稿内容は掲載時の法律に基づいて執筆されています。

「相続・事業承継」この記事を読んだ方はこんな記事も読んでいます

「事業承継」この記事を読んだ方はこんな記事も読んでいます

連載円滑な世代交代を実現――事業承継の要諦

日本経済大学 経営学部 准教授 名古屋商科大学大学院 マネジメント研究科 客員教授

1973年神戸市生まれ。神戸大学大学院経営学研究科博士後期課程修了。博士(経営学)。経営学者。
大和証券(株)入社後、本社人事部、大和証券SMBC (株)金融法人部をへて、2014年より日本経済大学経営学部(東京渋谷キャンパス)准教授就任。現在、ファミリー企業の事業承継について経営学の観点から研究を行う。大学での研究活動を軸に、中小企業の事業承継コンサルティング、承継計画の策定、事業承継に関するセミナーなどに従事する。2015年末に日本で初めてとなる同族経営の実証研究書となる『ファミリービジネス白書』を同友館から発刊。同書の初代企画編集委員長を務める。

著者紹介

事業承継のジレンマ

事業承継のジレンマ

落合 康裕

白桃書房

日本は、長寿企業が世界最多と言われています。特にその多くを占めるファミリービジネスにおいて、かねてよりその事業継続と事業承継が大きな課題とされており、研究テーマとしても注目を集めつつあります。 本書はこの問題を…

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

登録していただいた方の中から
毎日抽選で1名様に人気書籍をプレゼント!
会員向けセミナーの一覧