社長の多くは、様々な専門家の力を借りて事業承継を行っていますが、M&Aを実施する場合、どの専門家に、どういった相談をすればよいのでしょうか。M&Aにおける「秘密保持」の重要性と合わせて見ていきます。

M&Aは一般的な税理士では対応できない!?

M&Aをする際に、誰をアドバイザーとして相談するのがベストなのでしょうか。2011年の「事業承継実態調査報告書」によると、事業承継をするにあたって社長たちが相談相手として多く選んでいるのは、第1位が税理士、次いで役員・従業員、配偶者などの身内関係、その次に他社の社長、公認会計士、取引先金融機関、弁護士、コンサルタントとなっています。

 

社長たちの多くが専門家の力を借りて、事業承継を行っていることが分かります。

 

[図表]事業承継についての相談相手

 

ただし、気を付けなければならないのは、実行したい事業承継のかたちが親子承継ではなくM&Aであった場合、こうした専門家たちが本当に頼りになるかどうかは未知数だという点です。

 

たとえば、税理士は税のことに詳しく、節税対策などでは大変頼もしい存在です。普段から世話になっている顧問税理士であれば、会社のことや社長の家族の事情もよく分かってくれているので、親子承継の際は相続税のことも考えた的確なアドバイスをしてくれることでしょう。ところが、M&Aの場合、一般的な税理士が持っている知識や経験だけでは満足に対応することが難しくなります。

 

なぜなら、M&Aは単に株式を移動させるだけでなく、適正な企業価値の算定や、売り手と買い手とのマッチング、両社での交渉、デューデリジェンスなど多岐にわたる対応が必要になってくるからです。

 

公認会計士は会計、弁護士は契約や権利関係というように、専門家ごとにそれぞれの得意分野が異なり、M&Aのすべての領域をカバーすることは難しいのです。

M&Aでは特に命取りとなる「情報漏洩」

また、M&Aでは秘密保持の観点も重要です。売り手にとっても買い手にとってもM&Aは非常にデリケートな問題であり、必ず秘密裏に行われるべき性質のものです。

 

仮に会社売却の噂が外に漏れてしまったら、どうなるでしょうか? 噂は羽が生えたように一斉に広がっていくでしょう。業界内に知れ渡るのは時間の問題です。「A社が身売りするらしい」という噂がライバル企業の耳に届いたら、今がチャンスといわんばかりに営業攻勢をかけてくるかもしれません。それが売り上げに影響し、業績がダウンして、企業価値が下がってしまうことになります。

 

あるいは、従業員に噂が広まったら、彼らのモチベーションを下げることになるかもしれません。会社の将来性に危機感を覚えて退職していく者が出てきたら、貴重な人的財産やノウハウ、匠の技という会社の強みの流出を招いてしまいます。

 

金融機関が噂を聞きつけたら、融資を打ち切られたり、返済を急がされたりすることもあり得ます。そうなれば資金繰りに窮するだけでなく、企業価値までも損なわれてしまいます。

 

このように、M&Aにおいて情報漏洩は即座に命取りになってしまいます。だからこそ、絶対に秘密は守られなければなりません。専門家への依頼は大事ですが、あっちにもこっちにも相談するとか、つい気を許して秘密保持の意識の低い知人に相談してしまう、といったようなことはやめておくのが無難です。依頼する際は相談窓口を一本化し、M&Aの終わりまで面倒を見てくれるところを選ぶのがいいでしょう。

 

M&Aは特殊な領域であるため、専門家でも不慣れな人が多く、往々にして失敗を犯しがちです。それを全くの素人がやろうとするのは土台無理なことです。何の装備もなしで大海原に航海に出るのと同じくらい無謀な行為なのです。

本連載は、2015年9月25日刊行の書籍『後継ぎがいない会社を圧倒的な高値で売る方法』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

後継ぎがいない会社を 圧倒的な高値で売る方法

後継ぎがいない会社を 圧倒的な高値で売る方法

岡本 雄三

幻冬舎メディアコンサルティング

「後継者がいない」「後継者がいても継がせたくない」そう悩む中小企業経営者が増えています。しかし、廃業となると、経営者自身の連帯保証の問題や従業員の生活の保証、取引先への影響などもあるため、なかなか踏み切るのは難…

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