今回は、相続事業承継で信託を活用する際の、税務上留意すべき点について見ていきます。※本連載は、税理士法人おおたか代表社員、税理士・公認会計士の成田一正氏監修、株式会社継志舎代表取締役、一般社団法人民事信託活用支援機構理事の石脇俊司氏執筆の著書、『相続事業承継のための民事信託ワークブック』(法令出版)より一部を抜粋し、民事信託の基本的な仕組みと、税務上の留意点を説明します。

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自社株式を信託財産とする信託受益権は、特例の対象外

相続事業承継における信託を活用する際の税務上の注意点について、そのポイントを以下に説明します。

 

①株式を信託財産とするときの注意点

 

現オーナーが株式を信託し、自身が受益者となる(自益信託)場合、信託設定時課税はありません。一方、信託設定時又は信託期間中に受益者を後継者としたとき(他益信託)、後継者には贈与税が課税されます。

 

その際の信託財産の評価額は、信託財産の株式の相続税評価額となります。

 

●議決権行使の指図者でない受益者の有する信託受益権の評価

自社株式を信託財産とする事業承継における信託では、信託財産の株式を発行する会社に受託者が議決権を行使します。受託者は自らが判断して議決権を行使するのではなく、信託契約に定められている議決権行使の指図者の指図に従い議決権を行使することとする信託があります。

 

この類の信託では、受益者が議決権行使の指図者ではなく、委託者が議決権行使の指図者となることがあります。その場合においても、受益者である後継者が負担する贈与税の対象となる信託受益権の評価額は、信託財産である株式の相続税評価額となり、変わりません。

 

●自社株式を信託財産とする信託受益権は税制上の特例の対象外となる

非上場株式等についての相続税及び贈与税の納税猶予及び免除の特例(以下、「納税猶予等の特例」といいます)について、その適用を受けようとする非上場株式が信託財産となっている場合、その信託受益権は納税猶予等の特例の対象となっていません。

 

そのため、後継者が受益者となる信託において、税制上の特例を適用することはできません。事業承継において納税猶予等の特例を使用することを考えている場合、自社株式を信託財産にすることはできません。

 

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信託財産の不動産の損失は切捨てに・・・損益通算も使えず

②不動産を信託財産とするときの注意点

 

●信託財産の不動産の損失は切捨てとなる

信託から生じる不動産所得を有する場合、その年分の不動産所得の計算上生じた信託による不動産所得の損失の金額があるときは、その損失の金額に相当する金額は、不動産所得の計算及び損益通算の規定その他の所得税に関する法令の規定については生じなかったものとみなされます(租税特別措置法第41条の4の2第1項)。

 

不動産所有者の信託を検討する際、建築したばかりの不動産で減価償却費や金利負担などが大きく、その物件の所得がマイナスとなる不動産と所得がプラスとなる不動産を有している場合、所得がマイナスとなる不動産のみを信託財産としたとすると、信託財産にした不動産について損失の金額は切捨てとなり、損益通算が使えず税金面ではデメリットとなることがあるので注意が必要です。

 

③受益権複層化信託

 

信託受益権を収益受益権と元本受益権に分割し、それぞれの受益権を有する受益者が異なる信託は、資産承継において活用が有効となり得るケースがあります。

 

財産評価基本通達202の定めにより、収益受益権評価額と元本受益権評価額を足したものが信託財産の評価額となります。

 

そのため、受益権複層化信託を設定することで、資産承継において信託財産をすべて贈与するのではなく、いずれかの受益権を世代の下の者に贈与することができます。質的に異なる受益権を創出することで、信託を活用せずに現物を贈与することと異なる贈与を行うことができ、贈与の方法にバリエーションを持たせることができます。

 

●収益受益権の評価

収益受益権の評価額を正しく算出するためには、「課税時期の現況において推算した受益者が将来受けるべき利益」を正しく意図的でなく算出する必要があります。

 

算出の際、信託財産の状況により、算出がしやすいものと算出が難しいものがあります。信託期間は長きに渡ります。そのため経済の環境変化により利益の水準が変わる財産は、受益者が将来受けるべき利益を推算することが難しい財産です。

 

上場株式、証券投資信託などは経済環境の変化により利益水準が変わる財産と考えられます。さらに、非上場株式で会社の利益水準によって株式配当の率は変化します。非上場株式も利益を推算することが難しい財産と考えます。

 

一方、契約によって定められた利益は将来受けるべき利益が見積もりやすい財産と考えます。債権や期間の定めのある賃貸借契約のある不動産は利益が見積もりやすい財産です。

 

しかし、一定期間の賃貸借契約が結ばれた建物の賃貸借は、利益が見積もりやすいですが、信託期間中の費用の負担について税法の明文の定めがないため、受益権複層化信託の信託財産としてふさわしくない財産と考えます。

 

受益権複層化信託を活用して資産承継に有利な受益権評価額とする信託収益の見積もりは、客観的に考えて収益の見積もりの説明に無理があると思わる場合、その資産を信託財産として受益権複層化信託にすることは控えるべきと筆者は考えます。

 

債権や賃貸借契約のある土地など、収益が見積もりやすい信託財産でも、信託期間中に契約した収益が得られなくなった場合、収益受益者が信託契約に定められた収益を得ることができなくなり、信託目的を達成することができなくなるため、信託期間の途中でも信託を終了する必要があると考えます。

 

その場合、信託終了時点において、本来予定した収益の残期間について、本来収益受益者が得られるべきであった収益を元本受益者が得ることとみなされ、元本受益者が残期間の収益受益権評価額に対して課税される可能性があることを、リスクとして指摘します。

 

[図表]収益受益権の評価

 

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