一段と拡大する「米国景気」――くすぶる懸念事項とは?

今回は、米国経済が抱える懸念事項について見ていきましょう。※本連載は、金融情報全般を扱う大手情報配信会社、株式会社フィスコ監修の『FISCO 株・企業報 2017年夏号 今、この株を買おう』(実業之日本社)の中から一部を抜粋し、トランプ大統領の政策と、それによる世界マーケットへの影響を読み解きます(執筆:株式会社フィスコ所属アナリスト・田代昌之氏)。

インフラ投資や減税効果も加わり、米国景気は加速か

減税策と並ぶ期待政策である大規模インフラ投資に関しては、共和党、民主党ともに必要性を認識しており、両党の協力が可能なものと考えられる。

 

全米土木業協会の予想では、今後10年間に必要なインフラ投資は4兆5900億ドルに達するとしている。トランプ大統領が掲げる1兆ドルは十分に正当な数値といえよう。修復が必要な高速道路や橋梁なども多いことで、インフラ投資の効果は早い段階で表面化する可能性もある。

 

インフラ投資の実行とともに期待されるのは、その財源として考えられているレパトリ減税の実施となろう。

 

これは、海外に滞留している米国企業の利益を本国に還流させるための税率優遇措置(当初掲げた税率:約40%から15%に引き下げ、初年度は10%)である。米国企業の海外留保利益は約2.5兆ドルにのぼるとみられており、相当額の財源確保につながろう。

 

海外内部留保に占めるドル預金の割合など不明な点も多いが、少なくても、ブッシュ政権下でレパトリ減税が実施された際は、約3000憶ドルの海外滞留資金が米国に還流し、2005年の約20円のドル高円安を演出している。

 

また、ドッド・フランク法(金融規制改革法)の大幅な修正などを盛り込んだ金融選択法案の改廃へ向けた議会包括案も米下院金融サービス委員会で承認され、本会議での採決も近く実施される可能性が高まっている。

 

金融規制緩和もトランプ大統領と共和党の意見は近いとみられ、実現性に対する過度な懸念も不要となる可能性が高い。

 

ロシアゲート問題直後はリスク回避の動きがあったものの、全体的に見れば米国景気は比較的好調に推移している。とりわけ、1〜3月の経済指標は特筆されるものが多かった。

 

GDPは急減速ではあるが3月消費者信頼感指数は2000年12月以来の高水準、1月中古住宅販売件数は2007年2月以来、2月ISM製造業景況感指数は2014年8月以来の水準をそれぞれ記録している。

 

一方、1〜3月のGDP速報値は前期比年率換算で0.7%増と、前四半期の2.1%増から減速し、3年ぶりの低い伸びにとどまった。トランプ政策の混迷が影響を与えた可能性は高いだろう。

 

ただ、4月の雇用統計では、非農業部門雇用者数は前月より21万1000人の増加となり、伸びが鈍化した3月の7万9000人増から大きく回復している。失業率も4.4%と2007年5月以来約10年ぶりの低水準となり、市場予想の4.6%を下回った。堅調な雇用情勢を受けて、米国景気の伸び鈍化は一過性であったと捉えられよう。

 

今後も、トランプ米大統領の雇用増要請を受けて、雇用情勢の一段の好転、個人消費の拡大基調が継続する可能性が高いと考えられる。こうした状況下での政策期待の再燃は、株式市場にとっても大きなポジティブ材料となっていこう。また、株価上昇がトランプ大統領の権力をあらためて強固なものにもさせよう。

批判強まるロシアとの関係・・・弾劾の可能性も捨てきれず

ただ、トランプ大統領、並びに、米国の権力がより強固になった場合、日本は米国による「地経学」リスクに脅かされることにもなっていこう。

 

トランプ大統領は、もともと中国の対米黒字に強い不快感を示していたが、「中国が北朝鮮問題を解決するなら、米国との通商合意ははるかに良いものになると習主席に説明した」とツイッターで指摘している。本来は別の議論となるはずの地政学と経済を組み合わせた外交戦略を露骨に行い始めている印象だ。

 

北朝鮮問題では役割が限られている日本は、今後、通商政策でやり玉に挙げられる可能性もあろう。

 

また、足元ではFBI長官解任騒動から火がついた「ロシアゲート」問題が台頭してきており、トランプ大統領の弾劾の可能性までも指摘されてきている。

 

さすがに、トランプ大統領が弾劾された場合、一時的なドル急落や米国株急落は避けられないであろう。ただ、弾劾は下院の過半数の賛成で発議され、上院の3分の2以上の賛成で成立する。現状の議会勢力からみて、弾劾成立へのハードルは高いといえよう。

 

これまで米大統領が弾劾されたケースは一度もない。そもそも、指摘されているロシアとの疑惑が弾劾要件に該当するのかも不透明だろう。

 

ただ、疑惑解明の段階で司法妨害などが明確に証明されれば事態が深刻化し、弾劾の実現可能性も高まろう。

 

仮に、トランプ大統領が弾劾された場合、大統領職は副大統領のマイク・ペンス氏が担うことになる。その場合、過度な財政刺激策に対する期待は薄れるものの、小さな政府、自由貿易、規制緩和など共和党主流派の政策に移行し、企業活動には支援的な税制改革が成立しやすくなろう。

 

意思決定の不透明さやスキャンダルなどといったトランプリスクが後退することになり、リスク回避の動きは比較的短期間にとどまる公算。

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株式会社フィスコは、株式・為替など金融情報全般を扱う情報配信会社。ロイター、ブルームバーグ、クイックなどプロ向け端末や証券会社のほか、ヤフーファイナンスなど20以上の主要ポータルサイトに情報を提供する、投資支援サービスのプロフェッショナル集団。

写真はフィスコアナリストとして株式市場・個別銘柄や為替市場を担当する田代昌之氏。ビットコインなど仮想通貨についても造詣が深い。

著者紹介

FISCO 株・企業報 2017年夏号 今、この株を買おう

FISCO 株・企業報 2017年夏号 今、この株を買おう

株式会社フィスコ

実業之日本社

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