泥沼争族を覚悟した78歳妻…遺留分の話し合いが「まさかの10分」で決着したワケ

数週間後、重苦しい空気が漂うなか、ヨシコさんたち家族と女性が対面する形で遺留分をめぐる話し合いが開かれました。家族側は、長期にわたる交渉や訴訟への発展も覚悟して臨んでいました。

しかし、協議は意外な展開を迎えます。女性側が提示した条件は、遺留分として法律上請求し得る金額の全額ではなく「病気を患っている母親の治療費と生活費として、1,500万円だけ支払ってほしい」というものでした。

実際の遺留分の金額は、遺言の内容や債務、生前贈与などによって変わりますが、総資産3億円という本件の前提で単純に考えれば、1,500万円は想定される遺留分を下回る金額でした。女性は、決してシゲルさんの家族を困らせるつもりはなく、ただ母親を救うためにこの手段を取るしかなかったと事情を説明しました。

争いを避けたい家族側もこの提案に同意。家族側から1,500万円を支払うことで合意が成立し、修羅場になると思われていた遺留分をめぐる話し合いは、わずか10分で円満に幕を閉じることとなりました。

結果的に訴訟への発展は免れたものの、被相続人の生前の行動が、死後に残された家族を大きな混乱に陥れるケースは現実の相続において少なくありません。果たして、今回のような「予期せぬ相続人」の発覚によるパニックや紛争を未然に防ぎ、相続手続きを円滑に進めるためには、生前にどのような対策や準備をしておくべきなのでしょうか。

【弁護士が解説】「予期せぬ相続人」の発覚によるパニックと紛争を防ぐには?

相続では、家族がその存在を知らなかった子どもが、亡くなったあとに判明することがあります。父親から認知されるなど法律上の親子関係が認められていれば、婚姻関係にない男女の間に生まれた子であっても、ほかの子どもと同じように相続人となります。

また、遺言書があっても、それですべての問題を防げるとは限りません。子どもには、遺言の内容にかかわらず最低限保障される取り分である「遺留分」があります。仮に本件で、この女性が遺言によって何も取得せず、遺留分を計算する基礎となる財産が3億円、妻と子ども3人が相続人という単純な前提で考えると、女性の遺留分は約2,500万円が一つの目安となります。ただし、実際の金額は遺言の内容や債務、生前贈与などによって変わります。

その意味では、1,500万円で双方が納得して合意できたのであれば、早期に解決できたことには大きな意味があります。

遺留分についても、当事者が金額に合意できれば本件のようにスムーズに終わります。一方、実務では不動産の評価額などを巡って意見が対立したり、法律上請求できる限度まで求めることで交渉がこじれたりすることもあります。話し合いで解決できず、調停や訴訟まで必要になるケースもあるため、生前から相続人と遺留分を意識して遺言を設計しておくことが重要です。

山村 暢彦
弁護士法人山村法律事務所
代表弁護士

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