晩婚化などにより、子どもの教育費と自身の定年退職が重なる家庭もあります。子どもには希望する進路を選ばせてあげたい。一方で、親自身も年齢を重ね、いつまでも現役時代と同じように働けるとは限りません。特に私立大学への進学や県外での一人暮らしが重なると、教育費の負担は想像以上に大きくなることがあります。「65歳になったら仕事を辞めたい」と考えていたものの、娘たちの学費を前に老後の生活設計を見直すことになった63歳男性の事例を紹介します。※本記事はCFPの小川洋平氏が解説します。
「あと2年で定年なのに、娘は大学に入ったばかり…」年収600万円・貯蓄2,000万円の63歳男性が直面する〈教育費と老後資金の板挟み〉【CFPが解説】
「65歳になったら、少しゆっくりしたい」63歳父の老後計画
地方都市に暮らす佐藤正弘さん(63歳・仮名)は、妻の由美子さん(62歳・仮名)と2人暮らしをしています。
正弘さんは地元の中小企業で管理職を務めており、現在の年収は約600万円。由美子さんもパート勤務をしており、夫婦で家計を支えています。3人いる娘のうち、長女は28歳で結婚してすでに独立。次女は24歳、三女は21歳で、現在は2人とも県外の大学に通っています。
3人の娘を育てながらも地道に貯蓄を続けたことで、正弘さんは2,000万円の金融資産を蓄えることができました。退職時には約1,000万円の退職金が受け取れる予定です。
正弘さんの公的年金の受給見込み額は毎月16万円程度で、由美子さんは約12万円。夫婦で合計28万円の年金を受け取れる予定のため、一見すると余裕のある老後が待っているように思えました。
さらに、子どもたちが全員独立すれば、教育費もかからなくなります。
「65歳になったら仕事を辞めて、妻と旅行に出かけたり趣味を楽しんだりしたいな」
そんな老後を思い描いていた正弘さんでしたが、実際には教育費の負担が想定以上に大きくなっていたのです。
「あと5年も学費がかかるのか…」娘の進路変更で崩れた老後計画
次女と三女が通っているのは、県外にある私立大学の薬学部です。薬学部は6年制で、次女は翌年に卒業する予定ですが、三女にはまだ5年間の学生生活が残っています。
三女は最初から薬学部にいたわけではなく、入学当初は看護学部に進学しました。しかし、将来の働き方や収入、年齢を重ねてからの身体的な負担などを考えるうちに、薬剤師を目指したいと考えるようになったのです。姉である次女から話を聞く機会もあり、悩んだ末に三女は薬学部に進むことを決意。厳しい編入試験を経て、無事に薬学部に合格しました。
正弘さんも三女の決断を応援していましたが、大学は再び1年生からのスタートです。正弘さんのケースでは、薬学部の授業料や施設設備費などが娘一人につき年間約200万円。さらに県外での一人暮らしの家賃が年間約70万円かかり、食費や日用品などの生活費も必要です。
現在は次女と三女の2人分を負担しているため、教育費だけでも相当な金額になります。今のところは正弘さんの給与と由美子さんのパート収入があるため、何とか家計を維持できています。しかし、問題はこれからでした。
次女が卒業しても三女の学費はまだ続き、正弘さんはあと2年で65歳。当初の予定どおり65歳で退職すれば、給与収入はなくなります。再就職しても現役時代と同じ収入を得ることは厳しく、これまで貯めてきた老後資金から取り崩すことが予想されました。
「娘には好きな仕事に就いてほしい。でも、あと5年も学費を払い続けるとなると……」
また、次女と三女が大学を卒業したあとも、結婚することになればお祝い金が必要になります。もちろん、子どもの結婚資金を親が必ず支援しなければならないわけではありません。それでも、長女が結婚したときに資金を援助したこともあり、次女と三女にも同じようにしてあげたいという気持ちがありました。
最近では、仕事から帰るとそのままソファで眠ってしまうことが増えました。体力的にはそろそろ仕事を辞めたいが、教育費のことを考えると辞められない……。
「65歳になったらゆっくりしたかったけど、75歳くらいまでは働かなきゃいけないのかな」
2,000万円の貯蓄があり、退職金も受け取れる予定とはいえ、老後の不安は消えなかったのでした。