平均寿命が伸びたことで「人生100年時代」と呼ばれるようになりました。長生きは喜ばしいことですが、長生きをすることでお金が先になくなってしまうリスクもあります。2,000万円の老後資金があっても、いつまでも安泰とは言えないのです。独身男性の戸口様(仮名・67歳)の事例を通して、人生100年時代を生き抜くために必要な金額と資産形成の方法を見ていきましょう。本稿は、資産運用の本当の意味についてFPの前田敏氏が解説します。
「長生きはしたいけど、お金の寿命が先に尽きてしまう」預金2,000万円の67歳独身男性が突きつけられた〈87歳で貯蓄ゼロ〉の現実【FPが解説】

投資経験ゼロ…それでもあえて投資を検討した理由

老後資金対策として真っ先に思い浮かぶのが投資という人は多いかもしれません。しかし、戸口様は投資に対して「株価暴落や元本割れのリスクが怖い」という思いがあり、投資とは縁のない生活をされていました。それでも、老後の資金を少しでも増やすために、投資に挑戦することにしたのです。

 

実際、戸口さんのように60代から投資を始めることに抵抗を感じる人は少なくありません。しかし、預金だけで生活することを選んだ場合、資産が確実に減少していきます。つまり、「投資をしないリスク」も存在するのです。

 

そこで私は、投資による値下がりのリスクと、預金だけで資産が減り続けるリスクを比較しながら、どの程度なら安心して続けられるかを一緒に検討しました。

 

預金2,000万円のうち1,500万円を新NISAで積立投資

検討の結果、戸口様には預金2,000万円のうち1,500万円を低コストの株式型インデックス投信で運用するプランを提案しました。

 

ただし、一括投資ではありません。購入直後の大幅下落リスクを軽減するため、以下の方法を採用しました。

  • 新NISA口座を活用
  • 株式型インデックス投信
  • 毎月30万円積立
  • 4年2か月継続し、合計1,500万円投資

 

また、残りの500万円は預貯金として確保し、緊急予備資金として手元に残しました。さらに、71歳まではパート収入を維持する前提で計画を立てました。

 

FPが提案した「95歳まで資金を持たせるシナリオ」

次に、将来の資産推移をシミュレーションしました。もちろん、投資の成果は必ずしも保証されるものではありません。

 

今回は長期の株式投資で期待されるリターンの一例として、年率5%でシミュレーションしています。仮に積立期間中も年率平均5%で運用できた場合、1,500万円の投資資金は4年2か月後に約1,667万円になります。その後は、毎月10万円を取り崩し、年率平均5%で運用を継続すると仮定しました。

 

1,667万円に対する5%の運用益は、年間で約83万円です。そのため、最初の1年間は120万円を取り崩しても、実質的な資産減少額は約37万円に抑えられます。

 

その後は資産残高の減少とともに運用益も小さくなりますが、それでも預金だけで取り崩す場合と比べると、資産寿命を大きく延ばせる可能性があります。

 

今回のシミュレーションでは、投資資産は約23年間かけて徐々に減少し、94歳前後でほぼ使い切る結果となりました。

 

シミュレーションで大切なのは、的中することではなく「備えること」

ここで大切なのは、このシミュレーションが未来を正確に予言するものではないという点です。実際の株式市場では、運用が想定以上に好調な場合もあればその逆もあります。また、一時的に大きく下落する可能性もあるでしょう。

 

しかし、将来を見える化しておくことには大きな意味があります。たとえば、運用成績が想定より低くなった場合でも、「不要な支出を減らす」「パート勤務をもう少し長く続ける」といった対策を早めに検討できるのです。

 

反対に、何の計画も立てていなければ、資産が大きく減ってから初めて問題に気づくことになりかねません。シミュレーションの目的は未来を当てることではなく、想定外の事態に備えることなのです。

 

人生100年時代で本当に重要なこと

老後資金の相談で重要なのは、「いくら持っているか」だけではありません。毎月いくら不足するのか、何歳まで資金を持たせたいのか、どの程度のリスクを受け入れられるのか、といったことまでを考えておくことが大切です。

 

戸口様のケースでは、預金だけに頼ると将来的に資金不足となる可能性がありました。しかし、長期・積立・分散投資を取り入れたことで、95歳前後までを見据えた資金計画を描くことができました。

 

もちろん、その計画が必ず実現するとは限りません。しかし、将来の収支を見える化しておけば、状況の変化に応じて軌道修正することができます。

 

人生100年時代において本当に重要なのは、「資産を増やすこと」だけではなく、「変化に対応できる計画を立てておくこと」なのかもしれません。

 

 

前田 敏
マネー・マネジメントFPオフィス
代表