「8,500万円払え」…実家売却を迫られる理不尽な現実

さらにヨシヒコさんを絶望させたのは、請求された金額の大きさでした。

遺産分割時の実家の評価額は8,000万円でしたが、この数年で周辺の再開発が進み、土地の価格が急激に高騰。現在の時価は約1億5,000万円に跳ね上がっていました。価額支払請求において基準となるのは、「相続開始時」ではなく「現在(請求時)」の時価です。

預貯金2,000万円と現在の実家の価値1億5,000万円を合わせた1億7,000万円の半分として、相手側はヨシヒコさんに「8,500万円」の支払いを要求してきたのです。

「8,500万円なんて、いくらなんでも払えるわけない……」

ヨシヒコさんの手元にある現金は、父親が残した預貯金と自身の貯えを合わせても3,000万円に満ちません。相手側の要求に応じるためには、家族で暮らしている実家を売却し、現金化するしか道は残されていませんでした。

父親の過去の裏切りが突然露見しただけでなく、高騰した地価が牙をむき、現在の穏やかな生活まで奪われようとしています。ヨシヒコさんは今、愛着のある家を手放さざるを得ない理不尽な現実に直面しています。

果たして、遺産分割から数年も経ってからのこのような高額な請求は、法的に有効なのでしょうか。

【弁護士が解説】相続後に認知された子が持つ「価額支払請求権」

本件のように、相続開始後の裁判によって認知された子も、法律上は被相続人の子として相続権を取得します。ただし、すでに他の相続人による遺産分割や処分が終わっている場合には、その手続きをすべてやり直すのではなく、民法910条により、自分の相続分に相当する「価額」の支払いを請求することになります。

第910条(相続の開始後に認知された者の価額の支払請求権)
相続の開始後認知によって相続人となった者が遺産の分割を請求しようとする場合において、他の共同相続人がすでにその分割その他の処分をしたときは、価額のみによる支払の請求権を有する。

特に注意が必要なのが、不動産の評価時点です。最高裁は、価額支払請求における遺産の評価について、遺産分割時ではなく、価額の支払いを請求した時点を基準としています。そのため、相続後に土地価格が大きく上昇していれば、想定以上の高額請求につながることがあります。

これはあとから認知された子の相続権を保護する制度ですが、相続手続きを終えて生活も落ち着いた数年後に、突然数千万円規模の支払いを求められることは、残された家族にとって金銭的にも精神的にも大きな負担です。

婚外子の存在などは伝えにくい事情ではありますが、死後に突然発覚すれば、自宅売却や相続人間の紛争にも発展しかねません。

本件のような「不測の支払い」を避けるためにも、生前に身辺関係と財産承継を整理しておくことが重要だといえるでしょう。

山村 暢彦
弁護士法人山村法律事務所
代表弁護士

【注目のセミナー情報】
【最新・法人決算対策】9月17日(木)オンライン開催

公認会計士が監修!
「短期償却」で手元キャッシュを大きく残す不動産活用

【物販事業】9月26日(土)オンライン開催
月額30万~50万円の利益を狙う!
オマカセ型「物販事業運用スキーム」とは?