親の一人暮らしに不安を覚え、「見守りのある高齢者住宅に入れば安心」と考える家族は少なくありません。しかし、バリアフリーで安否確認がある「サ高住」で「安全に暮らす」ことと、「誰かと楽しく会話して暮らす」ことは別問題です。本記事では、母親の安全を思ってサ高住への入居を勧めたものの、思いがけない形で親の「孤独」に気づかされた息子の事例をもとに、元介護施設職員でFPの武田拓也氏が、失敗しない高齢者住宅選びについて解説します。
「母さん、どうしてここに!?」サ高住に入居させたはずの82歳母が、タクシーで61歳息子宅へ突然現れたワケ【元介護施設職員のFPが解説】
「施設にいるから大丈夫だろう」次第に減っていく息子からの連絡
入居直後、サトシさんは「ご飯はどう?」「ちゃんと眠れてる?」「何か困っていない?」と頻繁に電話をしていました。
「大丈夫よ。みんな親切にしてくれてるわ」
タマコさんの返答に、サトシさんは安心します。
しかし、それまで週に何度も電話をし、休日には実家へ行っていた生活から解放されたこともあり、少しずつタマコさんへの連絡頻度は減っていきました。「施設にいるんだから、一人暮らしのときとは違う」と考えるようになっていたのです。
最初は週3回ほどだった電話が週1回になり、仕事が忙しいと2週間近く連絡しないこともありました。タマコさんから電話がかかってきても「今ちょっと仕事だから、また電話する」と短時間で切ることも増えたというサトシさん。
悪気はなく、むしろ「母親の安全は確保できた」と思っていたからこその行動でした。しかし、タマコさんの感じ方は違っていました。
サ高住からタクシーで息子宅へ…82歳母が流した孤独の涙
入居から約2ヵ月が過ぎた休日。午前11時ごろ、サトシさんの家のインターホンが鳴りました。
モニターを見るとそこには母親が立っており、サトシさんが「母さん!? どうしてここに?」と驚いて玄関を開けると、タマコさんは小さなバッグを持って立っています。
サ高住から一人でタクシーに乗り、サトシさんの家までやってきたというのです。
「何かあったの?」とサトシさんが尋ねると、タマコさんはしばらく黙ったあと、涙を浮かべながら言いました。
「寂しかった……」
サトシさんは言葉を失いました。施設にはスタッフもいます。他の入居者も大勢います。「でも、施設には人がたくさんいるだろ?」とサトシさんが尋ねると、タマコさんは答えました。
「人はいるよ。でも、誰とも話さない日もしょっちゅう」
食堂ですれ違えば挨拶はします。スタッフも安否確認に来てくれます。しかし、それは必ずしも「今日はどうだった?」「昔はこんなことがあったね」といった家族との会話の代わりになるものではありません。
「あなたも最近、全然電話してくれないでしょう。私、施設に入ってから一人になったような気がして……」
その言葉を聞いて、サトシさんは初めて気づきました。自分は母親を「安全な場所」に移したことで、母親との関係まで施設に任せてしまっていたのではないかと。