「施設にいるから大丈夫だろう」次第に減っていく息子からの連絡

入居直後、サトシさんは「ご飯はどう?」「ちゃんと眠れてる?」「何か困っていない?」と頻繁に電話をしていました。

「大丈夫よ。みんな親切にしてくれてるわ」

タマコさんの返答に、サトシさんは安心します。

しかし、それまで週に何度も電話をし、休日には実家へ行っていた生活から解放されたこともあり、少しずつタマコさんへの連絡頻度は減っていきました。「施設にいるんだから、一人暮らしのときとは違う」と考えるようになっていたのです。

最初は週3回ほどだった電話が週1回になり、仕事が忙しいと2週間近く連絡しないこともありました。タマコさんから電話がかかってきても「今ちょっと仕事だから、また電話する」と短時間で切ることも増えたというサトシさん。

悪気はなく、むしろ「母親の安全は確保できた」と思っていたからこその行動でした。しかし、タマコさんの感じ方は違っていました。

サ高住からタクシーで息子宅へ…82歳母が流した孤独の涙

入居から約2ヵ月が過ぎた休日。午前11時ごろ、サトシさんの家のインターホンが鳴りました。

モニターを見るとそこには母親が立っており、サトシさんが「母さん!? どうしてここに?」と驚いて玄関を開けると、タマコさんは小さなバッグを持って立っています。

サ高住から一人でタクシーに乗り、サトシさんの家までやってきたというのです。

「何かあったの?」とサトシさんが尋ねると、タマコさんはしばらく黙ったあと、涙を浮かべながら言いました。

「寂しかった……」

サトシさんは言葉を失いました。施設にはスタッフもいます。他の入居者も大勢います。「でも、施設には人がたくさんいるだろ?」とサトシさんが尋ねると、タマコさんは答えました。

「人はいるよ。でも、誰とも話さない日もしょっちゅう」

食堂ですれ違えば挨拶はします。スタッフも安否確認に来てくれます。しかし、それは必ずしも「今日はどうだった?」「昔はこんなことがあったね」といった家族との会話の代わりになるものではありません。

「あなたも最近、全然電話してくれないでしょう。私、施設に入ってから一人になったような気がして……」

その言葉を聞いて、サトシさんは初めて気づきました。自分は母親を「安全な場所」に移したことで、母親との関係まで施設に任せてしまっていたのではないかと。