「学童に落ちちゃった…」娘からの切実な〈孫守り要請〉

「お母さん、学童に落ちちゃって……放課後、楓を見てもらうことってできないかな」

坂本信子さん(仮名・67歳)は、近所に住む娘から相談されました。春に小学校へ入学した孫の楓ちゃんが定員オーバーで公的な学童に入れず、共働きの娘夫婦は途方に暮れていたのです。

当時、信子さんは週3日ほど、クリニックの受付でパートとして働き、月約8万円の収入を得ていました。職場の仲間と話したり、窓口対応をしたり。これまでの経験を生かして働くことにもやりがいがあり、楽しく働いていました。

娘からのSOSに、最初は「孫の成長も見られるし、娘の力にもなれる」と、パートの合間に快く引き受けていました。しかし、娘からの相談は徐々に増えていきました。

「ごめんね、楓の熱が下がらなくて……私も夫も今日は休めないの。急だけどお母さん、仕事休めない?」
「このままだと、夏休みになったらどうにもならなくなっちゃう」

娘の切実な言葉に、信子さんは「自分が仕事を辞めて孫を見るのが一番現実的だろう」と、夏休みに入る前に仕事を辞めることを決断しました。

「仕事を辞めてよかった」納得していたはずが…

最初は、「これでよかった」と思っていました。娘が懸念していた夏休み、朝から夕方までの孫の見守りも、しっかりと責任を果たしました。

しかし、夏休みが過ぎ、楓ちゃんが学校に通う日常に戻ると、思いがけない変化が訪れます。

楓ちゃんが学校に行っている日中、以前なら働いていた時間がぽっかり空いています。家族以外とたわいもない会話をする時間も激減しました。夫に食事をつくり、テレビを観て、時間をやり過ごす。収入がなくなり、外食やお出かけも躊躇するようになっていました。

信子さんはふと気づきます。

「働きたい。私、思っていた以上に仕事が好きだったんだ」

人とつながり、これまで培ってきた経験や能力を生かすこと。そして、自分自身が「社会とつながっている」と感じられること。仕事を辞めたことで、それまで当たり前だったことの大切さに気がついたのです。

全国の60歳以上を対象とした、内閣府の「令和6年度 高齢社会対策総合調査(高齢者の経済生活に関する調査)」によると、現在、定期的に収入を伴う仕事をしている人の働く理由は「収入のため」(55.1%)が最多ですが、「働くのは体によいから、老化を防ぐから」(20.1%)、「自分の知識・能力を生かせるから」(12.4%)といった理由が続きます。

生きがい、健康維持、社会とのつながりなど、高齢期の仕事は、収入を得る以上の価値を人生にもたらしているのではないでしょうか。信子さんにとってのパートも、まさにそうした大切な居場所だったのです。