(※写真はイメージです/PIXTA)

「金は株式や預金と違って、デジタルデータではない。現金で購入して自宅に隠しておけば、税務署にはわからないのではないか」。そう考える人もいるかもしれません。しかし、相続時や税務調査において、税務署は高確率でその「隠し金」を見つけ出します。なぜバレるのでしょうか? 今回は、税務署の恐るべき情報網と、税務調査のチェックポイントについて、税理士の辻哲弥氏が赤裸々に解説します。※本連載は、株式会社ゴールドリンク『ゴールドコラム』から転載したものです。

「隠し金」を税務署が把握する理由

金地金そのものに、所有者の氏名が登録されているわけではありません。また、税務署が各家庭の金塊をリアルタイムで把握しているわけでもありません。しかし、そこから「現物の金なら絶対にバレない」と考えるのは危険です。

 

税務署が見ているのは、金塊そのものだけではないからです。金の購入資金、銀行口座からの出金、販売業者との取引、過去の所得、相続財産、売却時の記録など、周辺に残る痕跡を組み合わせて財産の存在を推測します。特に富裕層に対しては、本人だけでなく、家族や関係法人を含めて継続的に情報を収集・分析する体制が整えられています。

 

デジタル化されていない現物資産でも足がつく「KSKシステム」

国税当局が利用する代表的な情報基盤が、国税総合管理システム、通称「KSKシステム」です。ここには、過去の確定申告、納税状況、源泉徴収票、支払調書、税務調査で得た情報などが集約され、申告内容の確認や税務調査の対象選定に利用されています。

 

ただし、KSKシステムを見れば「誰が自宅に何グラムの金を持っているか」が直ちに表示されるわけではありません。重要なのは、複数の情報を照合することで、申告内容と実際の資産状況の不自然な「ズレ」が浮き彫りになる点です。

 

また、金の取引自体にも記録は残ります。一定額を超える貴金属の売買では、犯罪収益移転防止法に基づき本人確認や取引記録の保存が必要になることがあります。現金で購入したからといって、必ずしも完全な匿名取引になるわけではないのです。

 

さらに、個人が貴金属業者に金地金などを売却し、その対価が200万円を超える場合、業者は原則として税務署へ支払調書を提出します。購入時に税務署へ直接情報が送られていなかったとしても、売却時には氏名、住所、売却金額などが把握される可能性があります。

 

単純に「少額にわけて取引すればよい」という考えも危険です。銀行口座の動き、業者側の記録、将来の売却記録など、別の経路から取引全体を確認される可能性があるからです。

過去の所得や出金から「逆算」される相続財産

相続税の調査で特に重視されるのが、被相続人が生前に形成したと考えられる財産と、実際に申告された相続財産との差額です。

 

たとえば、長年にわたり高額な役員報酬や不動産収入を得ていたにもかかわらず、相続税申告書には少額の預金しか記載されていなければ、税務署は財産の移動先を確認します。 調査官は、過去の申告所得、生活費、不動産や株式の購入、生命保険、贈与、借入金、銀行口座からの多額の出金などを分析していきます。

 

仮に、相続開始前に3,000万円が現金で引き出されており、その使途が不明であれば、 次のような確認が行われます。

 

○生活費として使ったのか

○家族に贈与したのか

○現金で残っているのか

○金地金などに換えたのか

 

自宅から金地金の領収書や保証書、販売店の封筒、重量・製造番号を記載した書類が見つかれば、金の存在を裏付ける資料になります。もしこの際、現物が見つからなくても、多額の出金と購入資料が残っていれば、「相続開始時点でその金はどこにあったのか」という説明を求められるでしょう。

 

なお、一定の富裕層に義務付けられている「財産債務調書」の対象財産には、金や白金などの貴金属も含まれます。国税局では、富裕層本人だけでなく、家族や関係法人を一体として管理し、情報を収集・分析する取組みも行われているのが実情です。

「金を銀行の貸金庫に預ける」は安全か?

盗難や火災への対策として、金地金を銀行の貸金庫に保管することは、防犯上合理的といえます。しかし、貸金庫は盗難リスクを減らせても、税務署の調査を逃れる手段にはなりません。

 

銀行が貸金庫の中身を日常的に確認し、税務署へ報告しているわけではありませんが、貸金庫の契約や利用料の支払い履歴などから、貸金庫の存在が把握されることはあります。 実際、相続税調査の現場では、税務署が銀行の貸金庫の存在を確認したうえで、相続人立会いのもとで中身を確認するケースも。被相続人が所有していた金地金であれば、自宅にあろうと、貸金庫にあろうと、相続財産として申告する必要があります。

 

むしろ、家族に貸金庫の存在を伝えていなかった場合、相続人が財産を把握できず、意図せず申告漏れになる危険性すら生じます。貸金庫を利用する場合は、金の重量、品位、製造番号、取得価額、保管場所などを一覧化し、相続時に確認できる状態にしておくべきでしょう。

隠蔽とみなされた場合の重いペナルティ

金地金を申告から外したからといって、直ちにすべて重加算税が課されるわけではありません。単純な確認不足によるミスと、財産の存在を知りながら意図的に隠したケースでは、扱いが異なります。

 

自宅や貸金庫にある金を認識しながら相続財産から除外したり、調査官や税理士に虚偽の説明をしたりすれば、「隠蔽または仮装」があったとして重加算税の対象になる可能性が高まります。

 

過少申告の場合、重加算税は原則として増加税額の35%。申告自体を行っていなかった無申告の場合は、原則として40%に跳ね上がります。

 

たとえば、隠していた金地金が発覚し、本来納めるべき相続税が1,000万円増えたとすると、重加算税だけで350万円(または400万円)が上乗せされる計算になります。さらに、本来の税金と重加算税に加えて、納付が遅れた期間に応じた延滞税も発生します。

 

金を隠したところで税金から逃げ切ることは難しく、発覚後はペナルティを支払うために金を慌てて売却せざるを得ない事態にも陥りかねません。もし申告漏れに気づいた場合は、税務調査の連絡を待つことなく、早い段階で税理士へ相談することをお勧めします。

正しく申告し、堂々と金を所有する

金を所有すること自体になんら問題はありません。問題となるのは、購入資金の出所を説明できないことや、売却益を申告しないこと、贈与や相続の際に金の存在を隠すことです。

 

金地金を保有するなら、購入時の請求書や領収書、支払記録、重量、品位、製造番号、写真、保管場所、売却明細を残しておきましょう。これらの資料は税務調査への対応だけでなく、売却時の取得価額の証明、盗難時の保険請求、相続人による財産確認にも役立ちます。

 

「現物の金だから見つからない」ということはありません。購入資金の動き、口座の出入金、売却記録、過去の申告データとの整合性から、その存在は自然と浮かび上がってきます。これが、税務署が「タンス金」を把握する基本的な仕組みです。

 

正しく記録し、正しく申告した上で保有することが、結局は最も安全で、最もコストの低い金の持ち方といえるでしょう。

※本連載は、株式会社ゴールドリンク『ゴールドコラム』から転載したものです。