「お盆は家族みんなで集まってごはんを食べる」――毎年当たり前のように繰り返されているイベントがなくなると、普段は気にならないことが気になってしまうものです。思いがけない事故によってお盆を一人で過ごすことになった松永サナエさん(仮名・66歳)の事例を見てみましょう。
「今年のお盆は家に来てくれない?」2日間未読無視
いつものようにモトキさん宅から戻ると、ダイニングの電球がチカチカと点滅していることに気づきました。サナエさんが椅子の上に立って電球を交換しようとしたところ、足を踏み外して転倒してしまいました。幸い大事には至らなかったものの、医師からは2週間は安静が必要と言い渡されました。
1週間後のお盆初日は、モトキさん宅で食事をする予定になっています。しかし、今の状態では車を運転することができません。悩んだ末に、サナエさんは事情を説明し、「今年のお盆だけこっちの家で過ごすのはどう?」とモトキさんにメッセージを送りました。足が治るまでは家事をするのも一苦労のため、可能であればみんなで食べられるものを買ってきてほしいという気持ちもありました。
しかし、土曜日の夕方に送ったメッセージはなかなか既読にならず、次の日も未読のままでした。その翌日に、ようやくモトキさんから返信が来ます。とりあえず返信が来たことに安心してメッセージを確認すると、そこに書かれていたのはサナエさんの予想を大きく裏切るものでした。
「足大丈夫? ごめん、ヒヨリがここ数日ちょっと風邪っぽくて……。お母さんに感染すといけないから、今年のお盆は別々に過ごしたほうがいいと思う」
モトキさんのメッセージにショックを受けたサナエさんは、すぐに返信することができませんでした。翌日に「了解」のスタンプだけを何とか返したそうです。
お盆の夜、一人寂しく冷凍うどん
お盆初日の夕方。いつもならモトキさんの家で楽しく食卓を囲んでいるはずの時間に、サナエさんは一人で素うどんをすすります。足の痛みはほとんどなくなったものの、買い物に行く気力がなく、ここ数日は買い置きしていた冷凍うどんやパックご飯で過ごしていました。
「私って何なんだろう。私のために何かをしてくれる人なんて、一人もいないのかな」
一人で過ごすお盆が初めてのサナエさんは、寂しさでつい後ろ向きなことを考えてしまいます。モトキさん家族はテレビでも観ながら楽しくご飯を食べているのかな――そう考えると、悲しくて涙が出そうになりました。
お金よりも大事なのは「気にかけること」
内閣府『人々のつながりに関する基礎調査(令和7年)調査報告書』によると、子どもと別居している人の中で「孤独を感じることが常にある/時々ある」と答えた割合は39.2%。2.5人に一人は少なからず孤独を感じていることがわかります。
モトキさんが「今年のお盆は別々に過ごそう」と言ったのは、サナエさんにゆっくり安静に過ごしてほしいという気持ちがあったからかもしれません。もちろん、ヒヨリちゃんの体調が優れなかったことも影響しているでしょう。
しかし、ほんの数分でも顔を出したり、簡単な食事を用意したりすることで、一緒に過ごせなかったとしてもサナエさんの気持ちは全く違うものになっていた可能性があります。「一緒に過ごすか、過ごさないか」の二択ではなく、「心配の気持ちを見せるために少しだけでも会いに行く」という選択肢があってもいいのかもしれません。
