退職金を受け取ったタイミングで、住宅ローンの繰り上げ返済を検討する人は少なくありません。繰り上げ返済をすることで毎月の返済負担や利息を減らすことができます。一方で、繰り上げ返済によって手元資金が不足すると、老後の急な支出に対応できなくなる可能性もあります。本記事では、退職金で住宅ローンを完済したものの、築35年の戸建ての維持費に苦しみ、最終的に住み替えを決断した65歳夫婦の事例をもとに、老後の繰り上げ返済で注意すべきポイントを辻本剛士CFPが解説します。
老後は安泰だと思ったのに…〈1DKの都営団地〉に住む年金月20万円・60代夫婦。ローン完済の〈4LDKの一軒家〉を売却した「予期せぬ理由」【CFPが解説】
「老後は安泰」のはずが…築35年のマイホームに襲いかかってきた〈想定外の出費〉
退職金を使って住宅ローンの繰り上げ返済を終えたマサミチさん。毎月約14万円の返済がなくなり「ようやく住宅ローンのストレスから解放された。これでのんびり老後を過ごせる」と安心していました。
しかし、その安堵は長くは続きません。築35年となった自宅では、老朽化による設備の故障が相次ぎます。
まずはトイレや給湯器の交換で約30万円の出費。さらに数ヵ月後、大型台風による大雨で自宅が雨漏り。業者に点検を依頼すると、屋根や外壁の劣化が進んでおり、大規模な修繕が必要とのことでした。その修繕費は100万円超。
業者からは「今回は雨漏りの修繕を優先しますが、外壁やベランダ、防水部分なども劣化が進んでいます。数年以内には修繕を検討したほうがよいでしょう」と説明を受けました。繰り上げ返済で手元資金が減っていたマサミチさんは、一気に資金不足への不安を感じたといいます。
さらに、固定資産税の納税通知書も届きました。次々と発生する支払いを前に、マサミチさんは思わず頭を抱えます。
「住宅ローンはなくなった。でも、老後のための資金もほとんどなくなってしまった……」
住宅ローンを完済した安心感は、いつしか後悔へと変わっていったのでした。
【CFPが解説】住宅ローンの支払いは慎重に…「繰り上げ返済」の3つのリスク
退職金などのまとまった資金が入ると「住宅ローンを早く完済したい」と考え、繰り上げ返済を選択する方は少なくありません。
繰り上げ返済には、利息負担を軽減できるほか、期間短縮型を選択すれば、住宅ローンを予定より早く完済できるメリットがあります。老後の住居費を減らせることから、安心感を得られる方も多いでしょう。
一方で、繰り上げ返済には次のようなリスクもあります。
・手元資金が不足する可能性
・住宅ローン控除の効果が薄れる可能性
・団体信用生命保険(団信)の保障を十分に活用できなくなる可能性
特に注意したいのが、手元資金の不足です。一度にまとまった資金を繰り上げ返済に充ててしまうと、想定外の出費に対応しにくくなります。今回のマサミチさんのように、築30年を超えた戸建てでは、設備の交換や屋根・外壁などの修繕費が発生するケースも珍しくありません。
実際に、アットホームが公表した調査によると、一戸建ての修繕にかかった費用の平均は615.1万円で、修繕時の築年数は平均38年となっています。
また、老後は住宅の維持費だけでなく、医療費や介護費用など、現役時代にはあまり意識しなかった支出が増える可能性があります。
そのため、繰り上げ返済を検討する際は、住宅ローンの完済だけを優先するのではなく、老後の生活費や急な出費に備えられるよう、ある程度まとまった資金を手元に残しておくことが大切です。